第17話 神なる力

 小谷周平はみことに死を受け入れる事が

出来ず必死に呼びかけを続けていた。


所長は諦めた表情で一点を見つめているようだったけど。


みことは、ここまで自分を守ってくれた。


冷たくなった、彼女の身体を抱きしめ、必死に

名前を呼び続けていた。


どうしてこんなことに成ってしまったのか。


こんな最後は。


こんな別れだけは絶対に嫌だ。


小谷周平は、祈り続けた。


自分の魂へこの状況を何とかしたいと。


そして、あたりはかすかに光を帯びているように

輝き始めた。


ここは地下シェルターで。

先の戦闘で照明もかなり傷つき。

周りは薄暗くなっていたが。


みことと小谷周平を中心に徐々にその明かりは

強さを増していった。


これは。


所長はもしやと、小谷周平がここへみことに連れられてきた

本当に理由を思い出す。


ただし、それはひとつの可能性に過ぎないと

そう考えていた。


「やはり、あなたは。救世主メシアなのですね」


高輪真は声高らかにそう叫んでいた。


そして、光に包まれたみことの体は

宙に浮かび。傷口が徐々に閉じて行くのが見て取れる。


流れ出た血も止まり、ボロボロになっていた衣服までも

復元されていく。


そして。


一度止まった心臓も鼓動を再開していた。

みことは、一度失ったはずの命を吹き返した。


そう。


これは神のみの許された異能力。


”死者蘇生”


今まで、一度も出現した事が無く、

けれども、多くの者が望んでいる力。


それがそこにあった。


「ありがとう。周平さん」

みことは優しく、小谷周平へ語りかけた。


「もう、あなたは用済みです。彼を私のもとへ」

高輪真は先ほどまでとは打って変わって、感情を剥き出して

向かってくる。


「まだよ。」

みことは静かにそう告げたと思ったときには。

既に、高輪真の後ろに回っていた。


「なにをした」

これには、高輪真も驚きを隠せなかったようだが。


「さぁ?」とはぐらかし、


みことは大鎌を振るう。


身体を一回転するようにし、遠心力を得たそれは

高輪真を後方へ吹き飛ばす。


高輪真は変わらず立ち上がり、みことを向かい合うが。

「真様、腕が」


先程までは黙って傍観に徹していた、リュウが声を荒らげて

高輪真へ話しかけていた。


高輪真はおもむろに自分の腕をみる。


「久しぶりね。自分の血が流れるのを見るのは」

そう言って。高輪真は踵を変えし崩れ落ちた壁側を向き

「いずれ、彼は頂きます。その日までどうか。」

「安らかな日々を」


そう言い残して、この場を去っていった。


みことは、高輪真はここから撤退した事に

正直安堵し、先程までに戦闘と緊張感から

その場へ座り込んでいた。


みことがここまで追い込まれる姿は、

今まで所長も見た事が無かった。


一同、ひとまず脅威が去った事で安堵し

一時的な静寂が当たりを包んでいた。

「...さん。」

「みこ...」

うん?どこからか声が。

そう感じたみことは当たりを見まわした。


そこには、戦闘で耳から外れてしまったインカムが

辛うじて故障せずに転がっており向こう側から

聞きなれた声が聞こえて来ていた。


みことはインカムを拾い。

「木崎。お疲れ様。」

「私は大丈夫よ」

そう、みことは答えた。


「良かった、てっきり死んでしまったかと思いました」

「一度ね」


「えっ。」


木崎は冗談かとも思ったが、みことの感じからして

どうやら違うらしかった。


外に避難していた職員は一度、研究所内へ戻り

有れた備品や破損個所の確認。


修理等の実施・業者手配を行う。


戦闘職員は警戒態勢を下げたが、念のため

周囲の警戒を実施。


そして、みこと達は職員たちへの指示を終えた後、

研究所の職員用の休憩所で各々応急手当を受けながら

今後について、話し合っていた。


正直、宗教団体の壊滅事件の首謀者がこれほど強力な

異能者であったとは想像していなかったのと。


小谷周平の異能をどうするか。


彼の異能力は人類が皆欲する異能。

その為、今回の事件が無事に解決したとしても

彼は様々な組織や国から狙われる可能性がある。


小谷周平はまさか自分にそのような異能が眠っているとは

考えまもしなかった為、何が何だか分からずにいた。


それもそうだろう。

死者蘇生の異能力なんて過去に一度も。

類似した異能すら無いのだから。


みこと達は、当初は小谷周平の異能を発現される前に

研究所で異能の有無と効力、発動条件を調べ予定でいた。


”もし対象が考えうる異能を有している場合、世間から完全に隠蔽し

匿うこと”


これが日本政府からの公式な依頼であり、

諸外国やその他組織から彼を守るための処置であった。


「初めから知っていたんですか?」

小谷周平は一同へ問いかけた。


「可能性よ。確証は何もなかった」

みことはそう答える。


病院へ迎えに行く前の資料には、生存者一人。


但し、蘇生した可能性有。


異能の有無の確認と保護を優先し対処せよ。


そう書かれていた。


あの事件で、小谷周平が一人だけ生きていた事実。

そこから、死者蘇生の異能力の存在が浮かび上がっていた。


可能性としては、そばに蘇生の異能者がたと可能性も捨てきれなかったが、

政府側は彼自身の異能の可能性が高いと示していた。


「ごめんなさい。違う可能性もあったから。すべてを話せなくて」

そう言うみことに対して。


「いえ、正直自分でも受け止められて無いだけで」

と小谷周平はなんだか夢でも見ているのではないか。


と現実ではない感覚に襲われながらも返事をする。


「そうね。でも、あなたのお陰で命を救われたのは事実よ」

「本当にありがとう」


みことは、これ以上の感謝の言葉が無いことに少し嫌気がさした。

自分の命の恩人に対して”ありがとう”では成りない。


「大丈夫。絶対にあなたは私が守ります」


そう言い。


みことは誓いを立てた。


今度こそ、高輪真を撃破し事件を解決される。


そして、小谷周平を守り通すと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る