12/29
10:00
人が多い年の瀬に合わせて瑠愛さんは僕のために書いてくれた台本をしっかりと映像化するように、人並みに紛れる僕の背中を撮影する。
この人並みと日向が作ってくれた衣装がこの短編映画にはとても重要で僕は何もセリフを言わずに30回目のスクランブル交差点を渡っていると、瑠愛さんが僕に声をかけた。
瑠愛「OK。全部使いたいくらい良き。」
と、瑠愛さんは久しぶりの撮影に心が踊っているのか、普段は見せないお腹の底からの嬉しそうな笑顔を見せてくれる。
その笑顔は僕だけのものかなと彼女の悠さんにちょっとだけ対抗意識を燃やしながら、日向が待つ大きな門松がある待ち合わせ場所に行くとそこに日向はいなかった。
瑠愛「あれー…、トイレ行っちゃったのかな…。」
琥太郎「連絡入ってます?」
お互いの携帯を見て日向からの連絡が来てないか見てみるけど、どちらも来ていない。
瑠愛「電話してみるね。」
と、瑠愛さんは耳に携帯を置き、呼び出し音を鳴らすので僕はその周りを探してみると今さっき渡ってきた交差点で日向が辺りをキョロキョロとしている所を見つけた。
琥太郎「見つけたんで呼んできます。」
僕は瑠愛さんに声をかけて信号が変わらないうちに日向の元へ走り、まだ別の場所へ行こうとする日向の肩を掴む。
琥太郎「どこいくんだよ。」
日向「触んないで!」
と、日向は僕と瑠愛さんの荷物を使って僕の殴り飛ばすと後ろを振り返ってとても驚いた顔をする。
琥太郎「…何やってんだよ。」
日向「ご、ごめん…。知らない人に話しかけられて…。」
琥太郎「瑠愛監督が心配してるから行くぞ。」
僕はそのまま戻ろうと立ち上がったけれど、青信号が点滅し始めたので日向の腕を掴み1番近くの歩道へ逃げて一安心する。
けれど、僕や瑠愛さんに頼らず1人で逃げようとしていた日向に僕は少しモヤモヤしてセリフが言えなくて疼いていた口が動いてしまう。
琥太郎「…なんで頼らないんだよ。」
日向「なに?」
琥太郎「なんで1人で逃げてんのって言ってんの。」
僕は勘の悪い日向に少しイラッとして、自分の手を差し出す。
琥太郎「手。」
日向「…手。」
と、日向は本当にバカみたいで僕が思い切ってしてみようとしている親切に気づかず、僕と同じように手のひらを空へ向ける。
本当にこいつは勉強しかしてないんだなと呆れつつ、僕は冷え切っている日向の手を握った。
琥太郎「嫌だろうけど、こうしてればだる絡みされないと思う。」
日向「いいって…。誰かに見られるの無理…。」
日向はとても嫌そうな声でそう言って、もう一方の手で僕の手を離そうとしたけれどなぜかその手を止めた。
日向「…渡ったらすぐ離して。」
と、日向は向こう側にいる誰かを見て僕の親切を許してくれる。
琥太郎「瑠愛さんのとこまで。」
僕はちょこっとだけ時間稼ぎをして、青信号なった横断歩道を渡り瑠愛さんの元へ行こうとしていると日向がゆっくりと歩き始める。
琥太郎「さっさと歩けよ。監督を待たせるな。」
そういう気まぐれが僕の心を揺さぶるからやめてほしい。
そう思った瞬間、突然もう1つ僕の腕に誰かが抱きついてきて思わず足を止めてしまう。
琥太郎「…あれ、淡島さん?」
僕はまさかこんなとこで会うとは思ってなかった涙目の淡島さんがいて驚く。
淡島「え…っと、な、なんで日向さんと一緒にいるの?」
琥太郎「なんでって…、用事があって…。」
僕はなんの気も知れない淡島さんに自分の夢のためなは撮影してるとは正直に言えず、嘘もうまく言えなかった。
淡島「…浮気じゃん。」
と、淡島さんは勘違いを呟いた。
琥太郎「僕は淡島さんと付き合った覚えないよ。」
淡島「え…。」
琥太郎「お互い告白してないじゃん。なのになんでそう思えたの?」
僕が本当に思っていたことを素直に伝えると淡島さんは泣き出してしまった。
淡島「…キスっ、してくれたじゃん…ぅ。」
琥太郎「だから?彼女じゃない奴とでもキスなんかするし、こうやって手も繋ぐけど。」
淡島「…デートは?」
琥太郎「デートって男女が出かけるだけじゃん。」
そのデートを今手を繋いでる日向と出来ないから、今はこの手をしっかり繋いでいたいんだ。
だからこの時間を邪魔しないでほしい。
琥太郎「僕、今本当に忙しいからもう話すことないなら離してくれない?」
僕は少し乱暴に泣いてる淡島さんから離れて、その後ろにいた夏來たちのクラスの団体に気づかないフリをしたまま瑠愛さんの元へ帰った。
環流 虹向/てんしとおコタ
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