12/24
10:00
今日は待ちに待っていた終業式。
だから普段より遅い登校時間、3時間の短い時間で学校が終わると安心しきっていたけれど、何故だか周りから見られる視線が痛い。
いつもはただ空気同然で無視ばかりされているはずの視線が何故か今日だけ突き刺さっている感じがして心臓に悪い。
けど、スカートがめくれていたり、ブレザーやバッグに目立つ汚れなんかなくて自分がなんでみんなの視線を集めているのかが分からないまま、体育館で終業式を終え教室に戻って10分休憩が入った。
特にやることのない私は自分の席で本を読んでいると渡辺の取り巻きの深実 風喜が私の前に何故かやってきた。
深実「ねえ、天使ちゃんってナンパ待ちしてパパ活してんの?」
天「…え?」
私は話す気はなかったけれど、なんの脈略のない質問に驚いてしまった。
深実「時給制なの?それとも出来高制?」
深実は持ち込み禁止の棒キャンディーをポケットから出して、私に差し出した。
深実「アメ1個でどこまでいけんの?」
天「は…?」
深実「だーかーら、このアメ1個で何してくれんのって聞いてんの。」
私はその駄々をこねるような言い方に腹が立ち、深実が持っていたアメを深実の胸に投げ捨てた。
天「私に構わないで。」
深実「んじゃ、アメ1個分のことはしてもらわないと。」
そう言うと深実は両手で私の頭を押さえて、嫌がる私の顔に近づき唇の脇にキスをした。
それを見ていたクラス中が色めき立ち、叫び声をあげる。
けれど、そんなことを気にせず深実は不服そうな顔を私に向けた。
深実「ずれた。ちゃんとやれよ。」
天「嫌…!」
私は自分と深実の間あった机を蹴り飛ばし、お腹の上に抱えていたスクールバッグを持って教室から逃げようとすると出入り口で誰かに体当たりしてしまった。
天「ごめ…」
「前見ろよな。」
と、勢いでお互い尻もちをつき、痛そうにお腹を押さえている渡辺が自分のズボンを叩き私に手を差し伸べてきた。
けれど、渡辺と深実は仲間だからそんな奴の手を借りたりしたくなくて私は1人で立ち上がり生徒の出入りが少ない職員室の前にあるトイレで口を洗っていると、担任の先生が隣クラスの先生と一緒にクラスへ向かっている声が聞こえた。
私はその後に急いでついていき、ギリギリでクラスに入るとみんなのヒソヒソ声が全て耳に入ってくる。
「はーい、全員着席。これから冬休みの宿題の範囲やら通知表やら色々渡していくからなー。」
先生はそんな様子に一切気づいてないらしく、私は1つポツンと空いている自分の席に戻り用意したファイルを出しているとそばの席の人たちがだんだんと机を離しているのが横目で見えた。
それが物理的にも心理的にも辛くて、周りのうるさい声が全て脳に入ってきて先生が誰の名前を呼んでいるのさえ分からなくなってくる。
…なにが起きたの?
私、また夏來たちに嫌がらせされてるよね?
けど、今回のはクラスだけじゃなくて中学校全体でやられてる気がする。
そう思った私は顔を動かさず目だけでみんなの携帯に映し出されている画面や声で手がかりがないか探していると、斜め前に座っていた男子が1枚の写真を見て私を一度確認した。
その男子が見ていた写真は私が来虎さんとななみんさんと一緒に夢衣ちゃんを待っていた時と思われる駅前の写真だった。
しかも、ななみんさんには抱きつかれているし、ショッパーには調べれば分かるランジェリーブランドのロゴがはっきりと付いている。
いつ見られたのか全く気づかなかったけれど、昨日あの2人と一緒にいたのがパパ活と思われてしまっているらしい。
けど、だからと言ってアメ1つで初キスを奪う理由になんてならない。
私はさっき深実がしてきたことに今更になって腹が立ち、体の奥底から怒りで体が震える。
けれど殴ったり、わめき散らしたりは出来ないのでただただ学校が早く終わってくれと祈っていると、周りが静かになったことに気づく。
「…日向、大丈夫か?」
と、先生が通知表を持って私の席やってきていた。
「先生ともしちゃうんだ。それでいつも学年1位だったのー?」
「これが枕営業ってやつか。」
「おニューのアレは昨日使ったの?」
そんな冷やかしが一挙集中放火され、私が怒りの限界を感じているとパン!と何か大きい音が頭の上で鳴った。
「はいっ、静かに。日向は体調悪いみたいなので早めに帰るみたいです。先生は今からプリントまとめて持っていくから、荷物まとめて先に玄関に向かってなさい。」
私はその救いの音に感謝して頷き、手早く荷物をまとめて玄関で待っていると先生が1人分のプリントをまとめてやってきた。
「これが保護者へのプリント。こっちが冬休みのしおりね。」
天「…ありがとうございます。」
「うん。今日はこのまま帰っていいよ。」
天「えっと…、出席は…」
「大丈夫。早退にはしないから。でも…」
その言葉の続きが怖くて思わず、肩がすくむと先生はそんな私の肩を持った。
「でも、みんなの誤解を招くような行動を取ってしまうのは良くないね。」
天「…え?」
「クラスに馴染めてないのも見ていて分かるけど、勉強だけが学校生活じゃないんだよ?」
私はその先生の言葉に思わず無言になる。
「三者面談の時にはお母様がいたから話せなかったけど、もう少し周りの子に寄り添うような付き合い方を今からでも学んでほしいと思うんだ。だから…」
…ああ。
もう、いい。
私を好き勝手にいじめてる人たちになんて寄り添う価値も時間もないよ。
そんなことを学ばないといけない学校にも用はない。
しかも、あれがいじめって捉えられない先生ならもうあなたの指示することは聞きたくない。
もう3学期からひぃ兄の家に転がり込んで、学校サボって家で勉強もやりたいことも全て済まそう。
そう決意した私は何かを言っていた先生の締めの言葉に適当に頷き、さようならと言って別れた。
環流 虹向/天使とおこた
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