12/22

10:00

休み時間があと10分で終わってしまうけれど、私はトイレから猛ダッシュで図書室に行くと水曜日の1時間目が終わった休み時間に必ずいる尚春先生がゆったりと本を選んでいた。


私は自分のルーティンを確実にこなす尚春先生のそばに寄り、何の本を借りるのか覗き見する。


天「…あれ?これこの間も読んでなかったですか?」


尚春「ああ、これね。結構気に入ってて買おうかなって思ってたんだけど通販でも本屋でも中々見つからなくてさ。」


天「へー…。」


生徒から先生へプレゼントするのは校則違反だけど、尚春先生は黙っててくれるかな。


私は尚春先生がお気に入りと教えてくれた本の題名を脳内メモリーにインプットする。


尚春「日向さんは冬休み前になにか借りにきたの?」


天「はいっ。たまたま尚春先生に会えたから尚春先生に選んでもらいたいです。」


尚春「そっか。いいよー。」


そう言って尚春先生は自分の借りる本よりも私の休み時間を優先して本を10冊ほど選んでくれた。


尚春「これくらいあったら冬休み保ちそうかな。」


天「保たなかったらまた来ます。」


尚春「私も。多分毎日来ちゃうかもしれない。」


天「…年末年始は結構お時間あるんですか?」


尚春「そうだね。今年は実家に帰らずこっちにいる予定だから。」


へー…。


じゃあ時間さえ合えば毎日会えるかもしれないのか…。


私は10冊の本を冬休み始めまでに読み終わることを目標に掲げて、とても重くなったスクールバッグと一緒に移動教室の音楽室へ行くとクラスメイトの大半が集まっていて一気に私に視線が集中するのが分かる。


それを無視して私は自分の席に座り、音楽の教科書とペンケースを出し音楽の先生を待っているとまさかの尚春先生が教壇の前に立った。


尚春「タチバナ先生はインフルになったらしいので、今日は私と一緒に映画鑑賞でーす。」


その言葉にみんなは嬉しそうにしてそれぞれのお仲間グループで集まり、私語をしたり、居眠りしたり、宿題に追われてたりと自由気ままに過ごす中、私は尚春先生が見ているミュージカル映画を一緒に見る。


けれど、周りの音がうるさすぎてセリフがぶつ切りになって聞こえるので、空いているTV前の席に静かに移動すると、その隣に尚春先生が座った。


尚春「点数、あげときます。」


天「…ありがとうございます。」


そんなのをもらうくらいならまた絵しりとりをしたかったなと思っていると、TVで撮った録画だったからなのかファッションショーのCMが流れた。


尚春「…あ、ここ。俺の母校じゃん。」


天「え?」


私は少し古いと感じる服を着て歩いているモデルさんの背後にあった校章をしっかりと目に焼き付ける。


尚春「日向さんはどんな学校行きたいか決めた?」


と、尚春先生は映像を30秒スキップさせながら私にそう聞いてきた。


天「多分…、高校はこのままエスカレーターです…。」


尚春「服飾系の高校には行かないんだ?」


天「行きたいけど…、そういう理由で親はお金を出してくれないので…。」


尚春「…話しても難しそう?」


天「私の話は聞いてないのでダメだと思います…。」


聞いてたとしても、せっかくこの私立学校に入ったんだからそのまま大学まで行けって言われるのがオチ。


それでも抵抗したらきっと殴られるだけだから、もう親には期待しないことにした。


尚春「学校見学とかは行った?」


天「いえ…、そういう機会は一度もなかったので…。」


尚春「私が通ってた学校なら案内するけど、どう?」


私はまさかのお誘いに驚き、時間も瞬きも止まってしまう。


尚春「まあ、高校じゃなくて大学なんだけどね。日向さんが興味あるなら一度行ってみるのもいいと思うんだよなー。」


そう言って尚春先生は頬杖をつきながら映画の続きを見始めた。


天「……行ってみたいです。」


尚春「うん。行こうよ。あそこの学食のラーメンすごい美味いんだ。」


え…っ、えっと…。


これはデート…?


ねえねえ、キューピットさん。


これってデート!?


尚春「年末年始はオープンキャンパスしてないから、1月の5日以降ならいつでも行けるよ。」


天「えと…、え…っ、尚春先生のご予定は…?」


尚春「だいたい暇してる。日向さんが都合のいい日で良いよ。」


うわ…ぁっ。


どうしよ…、デート服なんか持ってないよ。


夢衣ちゃんたちに相談しないと…。


私は冬休みのしおりで6日まで撮影があるのをしっかり確認してから尚春先生に日程を伝える。


天「んっと…、8日か9日はどうでしょう…?」


尚春「んー…、じゃあ8日にしよ。土曜日だったら人いると思うし。9:30頃、学校の最寄り駅前待ち合わせでいいかな?」


天「はい!楽しみです!」


私はまさかデートが出来ると思ってなかったので、自分史上1番気持ちが高ぶり心臓の音が尚春先生に聞こえないか心配になる。


けれど、尚春先生はなんにもなかったようにまた映画を見始めて、コメディ要素を全て拾って静かに笑う。


私はそんな尚春先生を見ながら最高に楽しい音楽の授業を過ごした。



環流 虹向/天使とおこた

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