20:00
心臓が脈打つ回数がいつもより早くてどうしようもなく汗が出る。
私は今日の朝、部屋の前まで来たゆきさんにカクテルを渡し何もなかったように過ごすけれど、どうしても体は反応してしまって温度設定が低めのこのBARで額に汗をかいてしまう。
それにゆきさんは気づいているかどうか知らないけれど、ここの店では普段通りなんの変哲も無い弾む声で会話を進めてくれる。
けれど、時たま『今度一緒に行こうよ』という言葉が聞こえてくる。
それが私の笑顔を強張らせてうまく笑えないでいると、流れ星がやってきた。
雅紀「一、おかえり。」
一「ただいま。ねえ、なんでパーティー来なかったの?」
と、一は私のこわばった顔には気にもとめず、ふてくされた顔でそう質問してきた。
雅紀「クリスマスにBARで働いてくれた子たちにありがとう会してたから行けなかった。」
一「ならしょうがないね。けど、俺はまだ姐さんにクリスマスプレゼント渡してないから今度時間作って。」
雅紀「んー…、そうだね…。」
私は一のおつまみとおしぼりを用意しながら、ゆきさんの方をチラッとみるとゆきさんは真顔で一の事を見ていた。
それの顔が何もない無の顔で私は初めてお客さんに恐怖を感じてしまった。
一「ハイボールとクリスマスのやつ飲みたい。」
と、私の恐怖を少し取り除いてくれる一の声で、私は緩んだ体からおつまみのナッツを乗せていた小皿を地面に落としてしまう。
一「姐さん大丈夫!?」
一は迷いなくバーカウンターに入ってきて、私の足元に割れて散らばってしまった小皿とナッツをそばにあった紙ナプキンで集めてくれる。
雅紀「…ありがとう。私がやるよ。」
私は一と一緒にバーカウンター下にしゃがみ、ゆきさんの視線から一度逃れる。
一「姐さんが備品割っちゃうの初めて見た…。なんかあった?」
と、一はとても心配そうな顔で強張っていた私の顔をまじまじと見ると、何かを感づいたのかゆきさんに一度目を向けて私を見た。
一「…あったら1回唇噛んで。」
私は一に言われた通り、自分の唇を噛むと一はわざと自分の指を切って私をスタッフルームに引き込んだ。
一「なにがあったの?俺、姐さんの嫌なこと全部無くしたいから教えて。」
そんな優しいことを言ってくれる一がやっぱり好きな私は今日の朝あったこと説明すると、人差し指に絆創膏を巻いた一は私の頬に手を置いてキスをしてくれた。
一「俺がいれば大丈夫。向こうはきっと姐さんのこと独り身って思ってるけど、そんなことないって教えればいいよ。」
雅紀「…どうやって?」
一「俺が姐さんを1人にさせないから。一緒に家帰ろう?」
雅紀「危ない目にあっちゃうかも…。」
一「あんな奴より、もっと怖いこと俺たちは経験したんだよ?だからあんなの追い払って姐さんとゆっくり家デートしたい。」
そう言いながら一は絆創膏がついた人差し指を私の首から胸へ這わして、今は芽の付いていない蕾に一度服越しで触れる。
一「姐さんが好きな人と幸せになれるように、俺はどんなハエも狂人も叩き潰すから姐さんはいっぱい俺を頼ってくれればいいよ。」
少し悲しげにそう言ってくれた一は私の手と人差し指で絡めて、体を引き寄せるとまたキスをしてくれる。
一「だから姐さんはなんの心配もしなくていいよ。俺だけ頼って好きな人と楽しく過ごして。」
雅紀「…ありがとう。」
私は『うん』とも『わかった』とも言えず、そう思ってくれたことだけに感謝をして一と一緒にあのバーカウンターに戻った。
環流 虹向/ここのサキには
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