20:00
音己は一と一緒に過ごしてるっぽいから今日は会えないな。
そう思いながら明日からのクリスマス期間に向けて仕込みをしていると、最近よく足を運んでくれるお兄さんが今日も来てくれた。
雅紀「おかえり。今日もお仕事お疲れ様。」
私は同年代と思われるスーツ姿のお兄さんにおしぼりとミックスナッツを渡す。
「ありがとうございます。今日はイチゴのいい匂いしますね。」
と、お兄さんは鼻をヒクヒクさせて私が仕込んでいたイチゴシロップの匂いを嗅ぐ。
雅紀「明日と明後日の限定ドリンクの仕込みをしてるんです。」
「へー!お店の記念日なんですか?」
雅紀「え…?」
「え?」
私は思わず声に出して驚いてしまったのを隠すように口元を手で隠し、お兄さんのイベントごとの疎さに少し同情する。
きっと彼女さんがいたら大変なんだろうなと思いつつ、私は正直に伝える。
雅紀「クリスマスですよ。もう1年終わっちゃいますね。」
「あ…、あー!クリスマスでイチゴか!」
と、お兄さんは目を見開いて周りの人が色めき立っているはずのクリスマスを思い出した。
雅紀「そうです。見た目がケーキっぽいカクテルにしようかなと。」
「わー…、呑みたいけど来れるか分からないんだよな…。」
雅紀「お忙しいんですね。」
「明日から出張で北海道行くんですよ。1泊のつもりなんですけど、どうなるか分からないです。」
雅紀「そうなんですね。よかったら試飲しますか?」
「いいんですか!?」
雅紀「他の方には内緒で。」
「はいっ。内緒で。」
お互い口元に人差し指を置き、内緒を共有して私がクリスマスカクテルを作ってるとお兄さんはそばにあった紙ナフキンで何かを書き始めた。
私は黙々とペンを走らせるお兄さんを横目に最後の仕上げにグリーンに染められた砂糖でミニツリーを作って完成させる。
雅紀「お待たせしました。メリークリスマス、です。」
「僕も。メリークリスマスですっ。」
そう言ってお兄さんは紙ナフキンに描いた大きなクリスマスツリーの下にいっぱいプレゼントが置いている可愛いタッチの絵をプレゼントしてくれた。
雅紀「可愛いですね!ありがとうございます。」
私はしっかり水気を取った手で受け取り、ポップ
可愛い絵を眺めているとプレゼント箱の下に何か透けている線が見えた。
もしかしてこの下にも何か描いているのかなと1枚めくってみると、そこには電話番号と『ゆき』と名前のようなものが書かれていた。
雅紀「…プレゼントの使いどき分からないです。」
可愛い絵は欲しかったけれど、そういう目的に渡されたものは貰えない私はそっと境界線のバーカウンターに置く。
「明後日の仕事終わりとか使ってみてください。」
そう言ってお兄さんはそれをそっと返すように、テーブルの上で私に向けて滑らした。
雅紀「んー…、疲れてすぐ寝ちゃうかも。」
「使うのはお姉さんの自由なので。」
そう言ってカクテルを嬉しそうに飲むお兄さんはゆったりと3杯のカクテルを飲んで帰っていった。
「デート、行くんですか?」
と、従業員の1人が私とお兄さんの様子を脇で見ていたのかそう聞いてきた。
雅紀「行かないよ。この絵は貰うけどね。」
私はお気に入りの絵を折らないように使っていなかったファイルに入れて、家に持って帰ることにした。
環流 虹向/ここのサキには
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