12/23

10:00

うるさい…。


何度も鳴らされるインターフォンで目を覚まし、出てみるといつも出るまでインターフォンを押す宅配員が来てきた。


雅紀「…すみません。お待たせしました。」


「はい!ここにサインお願いしまーす。」


素直過ぎる返事に少しもやっとしつつも宅配便を受け取り、ベッドに座って宛名を見てみる。


…実家からか。


この間、ばばたちのお盆があった時に久しぶり会ったけど老けてたな。


そう思い出しながら小包を開けてみると、定年退職した両親が趣味で作ったお菓子やジャムの小瓶の詰め合わせの中に1枚の手紙が入っていた。


私はそれを見て自分のお姉さんの存在を昨日ぶりに思い出した。


『今年は家族で過ごしませんか。』


という、母の60代とは思えない可愛らしい丸文字に少し目が潤む。


そういえば10年経つんだもんね。


そんな日は成長したお姉ちゃんに似た私に会いたいって思うのかな。


私は自分の姿を見に洗面所に行くと、ボサボサの寝起き感満載の私がいた。


雅紀「…お姉ちゃんになりたくてこうなったわけじゃないんだけどね。」


自分の考えが口から出ると、両親が私を女性として扱った今年のお盆を思い出し嫌になる。


東京の大学に進学するために静岡から上京して、毎年お盆にはお線香とお花を手向けにお墓へ入っていたけれど、実家には戻っていなかった。


だって実家にいる両親はいつも姉のことを思ってばかりで、まだ私がいるのにいないような扱いをしてきた。


それを見かねたばばが私のお世話をしてくれたけれど、大学に入った年の夏に熱中症で倒れてそのまま死んでしまった。


本当にあっという間に私の身の回りの人は死んでいって、次にまた会う日を決めていても頭で思い浮かんだお礼さえ言わせてくれない。


だから私は両親を死なせないためにそのまま東京にいついちゃったけれど、お姉ちゃんが死んで10年は経つし、ばばが死んでからお線香はお通夜の時にしか家に行ってあげられていなかったので、私は男性の喪服を着てそのままの髪の毛といつものメイクで行ったら母は腰が抜けて玄関で30分近く動けなくなってしまっていた。


そのことは本当に驚かせてごめんなさいと思うけれど、帰ってきた“雅紀まさき”じゃなくて帰ってきた“雅妃みやひ”として扱われてしまった。


緑茶を出されたときに使われた湯呑みは、雅妃お姉ちゃんがお祭りで一目惚れして買った湯呑み。


団欒の場のテーブルの中心に置かれたお菓子たちは全て雅妃お姉ちゃんが好きだった胡麻せんべいと海苔せんべいばかり。


夕ご飯で出されたものは、お姉ちゃんが毎日食べていたはちみつヨーグルトとお姉ちゃんが大好きなチキン南蛮だった。


それでやっぱりあの日からこの家の時間はずっと止まっているんだなと思った私は深夜バスで逃げるように帰ってきたけど、きっとまだいてほしかったんだろうな。


…来未 雅妃として。


雅紀「…かかの焼きそば食べたかったのに。」


小包1つに入っていたお菓子を食べきる頃には、私は従業員の子に誰か休みを返上してくれないか一人一人メッセージで聞いてきたけれど、やっぱり明後日という直近過ぎる予定変更にはみんな一度渋ったので、実家に行くのは31日からにすることにした。


少し憂鬱だけど、今年だけ頑張ってみよう。


そう心に決めた私は少し疲れた頭を休ませるように昼寝をした。



環流 虹向/ここのサキには

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