第183話 45日目⑥ウッドデッキ作りを始める


 そこそこ立派なスダジイの木が4本、およそ3㍍間隔で固まって生えているこの場所があたしたちの新居の建設予定地だ。この4本の木はどれも地面から2㍍ぐらいの高さで枝分かれしているので、枝分かれ部分に丸太を渡して、それを土台にウッドデッキをまず作り、その上にあたしたちの寝室及び物置となる小屋を建てるというのが今のプランだ。


 3㍍×3㍍のウッドデッキの片側に寄せる形で、床面積3㍍×2㍍の飛騨の合掌造がっしょうづくりのような三角形の小屋をまず作り、ウッドデッキの空いている3㍍×1㍍のスペースにひさしを延ばしてその下に拡張されたスペース──ジェットドーマーを作る予定だ。

 三角屋根の内側があたしたちの寝室で、ジェットドーマー部分が物置になる予定だ。


 ガクちゃんがあらかじめ新居の小さな模型を小枝で作って説明してくれたから、あたしも家造りの大雑把な工程は理解できている。すっごく可愛い家になりそうで今から完成が待ち遠しい。


 接着剤であるにかわの入った壷とか、長い紐とか、水が半分入ったペットボトルとか、木釘とハンマーとか、これから使うであろうツールを色々ひとまとめにして近くに置いたガクちゃんが手をパンパンと叩く。


「よーし、じゃあさっそくウッドデッキから造っていこうか」


「あいあいさ!」


 柱の木は北側から時計回りに一番~四番と番号を振ってある。

 まずは一番と二番、三番と四番の枝分かれ部分に太い丸太を渡してみる。だいたい同じぐらいの高さの枝分かれとはいえ、微妙に高さは違うし、渡した丸太も根元と上の方では太さも違うので、ただ枝分かれに丸太を載せただけだとかなり傾いている。


「んー、こうしてみるとかなり高さが違うな」


「そっすねー。このまま進めて後から修正ってのは難しいっすか?」


「そうだな。もちろん随時修正はするけど、最初から傾いてるのはあまり良くないな。可能な限り誤差は小さくしておかないと」


「見た感じ、枝分かれの高さは二番、一番、三番、四番の順っすね。なら、一番と四番、二番と三番に丸太を渡して、一と四の方に大きい丸太を使って、丸太の太い方を三と四の方に掛けるようにしたらだいぶ誤差を修正できるんじゃないっすかね?」


「いいな。じゃあそんな感じにしてみようか」


 考える素振りもなく即同意してくれたってことは、きっとガクちゃんも同じ考えだったんだろう。


 そして一番太い丸太を一番と四番に、次に太い丸太を二番と三番にそれぞれ渡してみた結果、パッと見での高低差はだいぶ改善された。

 それでもやっぱり二番が少し高くなっている。


「よし、次は二番の高さを基準に他の部分をかさ上げして水平にしようか」


「あ、なるほど。ここからまだ微調整するんすね。水平は、見た感じでだいたい合ってればいいのかな?」


「いや、せっかくだからきっちりやろう。そこにペットボトルの水平水準器も準備してあるし」


「……あ、これそのためのものっすか。水筒にしては水が半分しか入ってないのはなんでかなって思ってたっすけど」


 近くに置かれていた水が半分まで入った500mlのペットボトルを拾い上げると、縦の状態と横の状態それぞれで水平になった時の水面の位置にマジックで線が引かれている。

 すごく原始的でシンプルな構造だけど、水平にしたい場所にこれを置いてみて水面が目印の線からずれてなければ大丈夫と一目で分かる、なかなか便利なツールだと思う。こういう便利なツールを有り合わせの材料でさっと準備しちゃうあたり、ガクちゃんはやっぱりすごいなぁと感心する。


 足場を二番と三番のそばに置き、あたしが二番に登って丸太の高さに紐を結ぶと、ガクちゃんが紐を繰り出しながら三番に登り、水平水準器を使って紐を水平にして二番と同じ高さに結ぶ。

 三番の足場を四番に移動させ、三番と高さを揃えて四番に紐を結び、同様に四番と一番を結ぶ。

 最後に一番と二番を結び、紐を同じ高さで一周させることに成功する。


「この紐の高さまで一、三、四の丸太をかさ上げすればいいんすね」


「そういうこと。ただ、ここは家の土台になる大事な部分だから、ただ詰め物をするんじゃなくてきちんと固めたいから、にかわをまぶした小枝を詰め込むのがいいと思うんだ」


「なるほど。膠なら固まったらカッチカチになるっすもんね」


「俺が丸太を持ち上げるから、みさちは膠をまぶした小枝を木の又に詰めていってくれるか?」


「あい。おまかせられ!」


「じゃあちょうど足場も置いてあるから一番から始めようか」


 あたしはどろどろのにかわの入った壷に小枝を突っ込み、それを持って足場に上がり、一緒に上がったガクちゃんが丸太を持ち上げた所に膠まみれの小枝を何本か詰め込む。


「これぐらい?」


「ん。一度降ろしてみるな」


「あーまだちょっと低いっすね」


「おけ。もう一度上げるぞ」


 ねばっと糸を引きながら再び上がった丸太の下にさらに小枝を詰め込み、高さを調整する。


「よし。今度はドンピシャだな」


「じゃあ次っすね」


「やっぱりこういう作業は二人でやると効率が段違いだな」


「ふふ。夫婦の共同作業っすね」


「だな」


 足場を移動させながら四番、三番の丸太の高さも調整し、ついに並行する2本の丸太の高さがピッタリと揃った。

 水平水準器で丸太の傾きの最終確認をしたガクちゃんがグッと親指を立てる。


「おっけ。ちゃんと揃ってる。じゃあ丸太を固定していこうか」


 今はまだ枝分かれに乗せてあるだけの丸太をロープでしっかりと柱の木に縛って固定していく。ガクちゃんが結んだロープにあたしが膠をまぶしていって、乾けばしっかりと固まるようにする。

 これでウッドデッキの土台が完成した。


「この土台の上に床材を並べてデッキにするんすか?」


「いや、それだと真ん中あたりが重さでたわむから、床を支えるためのはり材を先に何本か並べて固定して、その上に交差するように床材を並べて丈夫なデッキにするんだ」


「あ、なるほど。両端の土台しか支えるものがなかったら、最悪中央の床が抜けちゃうっすもんね」


「そういうこと。それに、もしそんな構造にしてしまったら吊り橋みたいに揺れるからぜったい落ち着けないだろうな」


「うわぁ……それ嫌っすね」


「だろ。まあそういうことだからさっさと梁を組んでしまおう」


「あいあい。梁は何本使うんすか?」


「梁用の丸太があまり太くないから8本準備してるぞ。だいたい40㌢弱ぐらいの間隔になるかな」


「それだけあればしっかりと床を支えてくれそうっすね」


 ガクちゃんが梁用に準備してくれている8本の丸太は、土台に接する両端が平たく削られて転がらないように加工済みで、さらに木釘用の穴があらかじめドリルで開けられている。


「準備万端っすね」


「先にやっておける加工は地面でやっておいた方が楽だし危険も少ないからな」


「確かにこれをしてるのとしてないのでは作業のしやすさが段違いっすよね。梁を上げた後でドリルで梁に穴を開けるとか、面倒くさいだけじゃなくて明らかに危ないっすよね」


「そういうことだ。それじゃあ梁材を順番に上げて両側から木釘で固定していこうか」


「あいあい」


 今は足場が二番と三番の所にあるから、三番から一番に足場を移動させ、一番と二番に最初の梁材を渡す。

 あたしが一番側から梁材を手で押さえている間に、ガクちゃんはドリルを二番側の梁材の釘穴に突っ込み、その下の土台に釘穴を穿うがつ。それからにかわをまぶした木釘を梁材の穴から土台までハンマーで打ち込んで固定し、少し残った木釘の上部をのこぎりで切り落とす。

 木釘は打ち込む前にあらかじめ釘穴を穿っておく必要があるが、その代わり一度打ち込んでしまったら材木と完全に一体化して二度と抜けなくなるそうだ。


 二番の土台と梁材を固定し終えたガクちゃんがあたしの方にやってきて、二番と同様に一番側の梁材の穴を貫通した先の土台にドリルで穴を穿ち、膠をまぶした木釘を打ち込んで土台と梁材を完全に固定した。

 次いで足場を三番と四番に移動させ、同じように梁材を土台の端に固定し、2本の並行する土台の丸太の両端同士が梁で結ばれて、四角の枠のような形になった。

 あとは枠の内側に残り6本の梁材を同じ要領で固定していけばいい。


 梁材を全部固定し終えたところで時間を確認したらもう午後の2時を回っていた。作業に集中してると時間が経つのが早い。

 ちょうど作業のキリもいいし、ここで一旦休憩することにした。





【作者コメント】

 さて、今回登場の木釘ですが、古い日本の家具なんかではよく使われていますね。鉄釘のようにいきなり木材に打ち込むことはできませんが、あらかじめ打ち込むための穴を開けておいてそこに接着剤を塗付した木釘を叩き込むと、釘本体が穴を広げながら木材と一体化するので強力に接合できます。ある程度まで打ち込んだら、余っている釘の頭を切り落としてヤスリがけすることで釘そのものを目立たなくできますので仕上がりがすごく綺麗になります。昔からの日本の木工職人の知恵と技術はすごいです。


 そういえば最近、江戸職人たちの日常を描いた“神田ごくら町職人ばなし”という作品を読んだのですが実に興味深い内容でした。お薦めです。

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