異世界に来たので早速チート使って装備から衣服を追放したらスライムにちんちん捥がれた;; ~バカ野郎の異世界転移

ゆうしゃアシスタント

第一話 全ての始まり、それとお尻。

 澄み切った青空、子供が噴水の周りではしゃぐ声、太陽の暖かい抱擁に包まれて今日もこの町、「リーダム」に住む人々らは暮らしている。少々太陽が過保護気味なのが残念なところだろうか、だがそれもそのはず。いまこの町は夏真っ盛りなのである。少々太陽がお節介に世話を焼いてくれても文句は言えないだろう。


 石造りの建物に舗装された道、今日も様々な屋台が新鮮な果物や野菜を販売している。海からは少し距離があるが故に、魚介はアンチョビやオイルサーディンといった保存が効くような物しか売ってないが、その代わりに近くに森がある。エルフの猟師が狩って間もない動物を、聖職衣に身を包んだ解体師が丁寧に剥ぎ取る。そんな丁寧な仕事が施された肉がいつでも手に入るのだ。


 今日も彼女は、その折れた犬耳と鼻をぴくぴくさせ、喧騒と様々な香りを楽しみながら歩いている。彼女の目的は、この屋台の先にある行きつけのカフェである。カフェとは言ったが、実際はどのような料理でも作れる一種のレストランと言った方が良いだろうか。ここのパスタは絶品であり、彼女もわずかな時間を見つけては足しげく通うほどのファンなのだ。今日も彼女は、ドアを開く。ドアに付いた鈴が、店主に客が来たことを伝える。


「はいはい今行きますよ、あぁ! クルちゃんじゃないか。今日も「いつもの」かい?」

「はいっ、お願いしますね」

「あいよ」


 店の奥から出てきた店主は、年を召したお婆さんだった。年を取っていながらもその目には未だに若き日の光を宿したまま、生気に満ちあふれたパワフルおばあちゃんと言ったところだろうか。せかせかと厨房に戻ると、寸胴鍋に水を満たし、コンロの上へ置いて火にかけ始めた。


 お昼時から少し経った時間帯にも関わらず、それなりに広々とした店内には客がまばらにいるのが見える。大体二十数名と言ったところだろうか。それぞれが各々の料理を楽しむなか、彼女はふと、厨房へと目をやった。厨房内もそれ相応に広く、本来なら何人も同時に入れるにも関わらず店主が一人で料理を作っている。様々な鍋やフライパン、時には七輪などといったものを同時に併用して効率的に料理を作り上げている。もはやどの鍋に自分の料理が入っているかなんて見当がつかないほどだ。


「おまたせしました、こちらがペペロンチーノとチョコレートパフェになります」


 と、若い女性の声がクルの思考を遮った。目の前には既に彼女が頼んだ「いつもの」が並べられていた。


「それにしても……これ、お好きなんですか?」

「ええ、週に一度はこれを食べないとなんだか落ち着かないんですよ」


 声の元を辿るように見上げると、そこには彼女と同じように犬耳を付けたウェイターがいた。


「……ちょっと悪いことしちゃったね、次から店主さんに言っておくよ」

「えっ、ど、どうしてですか?」

「なんとなく苦手なんじゃないかなぁって思ったんだけど、違う?」

「……その通りなんです。ごめんなさい気を使わせてしまって」


 と、ウェイターは一礼しながらその場を後にした。いいよいいよ、とクルは笑顔でそのウェイターを見送ると、目の前の料理をゆっくりと楽しみ始めた。


 しばらくして、彼女はペペロンチーノを食べ終えた。お次はデザートのチョコレートパフェである。上に添えられたミントの葉、その香りを一通り楽しんだ後にペペロンチーノの皿へと避けると、ウエハースでココアパウダーがかけられたバニラアイスをすくって食べ始めた。これが彼女なりのパフェの楽しみ方なのである。バニラアイスが無くなると、次は四角く切られたコーヒーゼリーにチョコレートソースがよく絡んだ層へと手を付ける。

 コーヒーの香りとチョコレートの甘さに心を溶かされるように、彼女はパフェを楽しんでいた。だが、そんな至福のひと時に突如として水を差される事となる。




 ガシャン!と勢いよく扉が蹴破られる。それと同時に、二発ほどの弾丸が発射される音が鳴り響いた。


「オラァ! 騒ぐんじゃねぇぞ!」


 突如として、目だし帽を被った黒づくめの男が店へと現れたのだ。彼は右手に自動拳銃のような物をもっていた。だが、この世界では銃という物が浸透していない。最初はどよめいていた客人たちだったが、状況を理解できない客らにしびれを切らしたのか、その拳銃によって花瓶、電球、植木鉢と様々なものが壊されるに連れて嫌でも状況を理解せざるを得なくなってしまった。親子連れは子供を抱きかかえるように、老夫婦は互いに手を取り涙を流す。平和だったカフェが、一転して地獄と化した。厨房の奥、もちろん店主もこの状況に気づかない訳が無かった。彼女は切ろうとしてた大根を左手にもち、右手に持っていた包丁を男へと投げ込もうと構えたその時だった。


「な……」


 店主は狼狽えた。投げようとした包丁が手から落ちたのだ。いや、正確には落とされたと言った方が正しいか。包丁の先端はひしゃげており、弾丸を的確に受け止めていた。


「次はお前の眉間に当ててやってもいいんだぜェ」


 これが何を意味するか、それはこの黒づくめの男の卓越した射撃技術である。彼の視点からは包丁の柄の先端しか見えないのである。そのわずかなスペースに的確に狙い、そして的中させたのだ。銃の個体差、そして完璧な調整を行ったとしてもこれを行える人物はそうは存在しない。


「いいか、お前らが俺に従えばそれでいいんだ。簡単だろ?」


 そういうと、彼は近くにいたクル――ちなみに彼女はチョコレートパフェの美味しさに浸っていて未だにこの状況に気づいていない――を片手でひったくると、彼女のこめかみに拳銃を向けた。


「綺麗なピンク色の脳漿でこのカフェをペイントしたいって言うなら話は別だがな」


 クルはようやくパフェトリップから抜け出し、いつの間にか変わりに変わった店内の様子と自分が置かれている状況を把握し思わず大声を出そうと口を開く。


「そんなに死に急ぎてぇのか?」


 その刹那、男は拳銃で口を塞いだ。数多くの銃弾を発射した銃身は過熱する。そんなものが人間の、しかも粘膜である口内に入るとどうなるかは言わなくとも分かるだろう。ジッと音を立てて彼女の舌は焼かれた。その痛みと、何もできない無力感、みじめさから彼女は大粒の涙を零す。彼女が大人しくなったのを確認すると、男は拳銃を彼女の口から離す。


「いいか、まずはこの店の有り金をすべて寄越せ。そしてお前らの金も全部俺に寄越すんだ。さもないと次にこいつがケガするのはこの綺麗な頭になるぜ」


 こんな変な場所に来てもいつだってこいつは「万能通貨」だな、と彼は高笑いしながら店主に目配せをした。早くしろ、と。その時だった。


「……?」


 犬耳のウェイターが何かに気づいた。


「……ほぇ?」


 クルも気づいた様子だった。遠くから、何かが音を立てて近づいているのだ。よく聞くとそれは言葉のようにも聞こえた


〈……デス……デス……デス〉


「あぁ?」


 強盗も気づいた様子だ。この異様な物音に。


〈……リデス……リデス……リデス〉


 強盗はクルを抱えたまま店の先の様子を見る。


「な……なんだありゃ?」


〈……シリデス……シリデス……シリデス〉


「こっちに近づいてきてるのか?」


〈オシリデス♪オシリデス♪オシリデス♪〉


「嘘だろ」


 その時だった。比喩でもなく、文字通り「大量のお尻でできたスポーツカー」――ちなみにウィングには「スーパーオシリデス号」と書かれていた――が強盗を轢いたのは。強盗はこの弾力性に富んだ車に弾かれ、カウンターの座席に背中から強くぶつかった。

 車から一人の男が下りると、躊躇もせずカフェへと入り、こう叫ぶのであった。






「異世界に来たので

  早速チート使って

   装備から衣服を追放したら

    スライムにちんちん捥がれた;;」

        ~バカ野郎の異世界転移

    ――第一話 全ての始まり、それとお尻。






「……何言ってんだ?」


 強盗は眉毛を引くつかせながらその気味が悪い、貼りついたような笑みを浮かべた男に問いかけた。


「え、もう一度言った方がいいですか? 『異世界に来たので早速チート使って装備から衣服を追放したらスライムにちんちん捥がれた;;』んですが」


 確かに、お尻スポーツカーに乗って表れた男は全裸だった。そして股間にあるはずのものがないのも見ればすぐわかった。


「ここ服屋っすよね!?!!?あの・・・シェフを呼んでくださる???????」

「お前、状況が分からねえのか?」


 強盗は拳銃を支離滅裂な言動を繰り返す、全裸の彼へと突き付けた。


「…?わかりますよ?」

「なら何をすればいいのかわかるよな」

「『人を脅すしか能がない器の小せぇクソ野郎がカタギの人間から金をせびっている』んですよね??????」


 彼は状況を理解しているのかしていないのか、強盗にそう言い放ったのだ。今までそれなりに冷静に接してきた強盗も、額に青筋を浮かべていた。誰がどう見ても怒りに震えているのは間違いないだろう。そして――


「このクソがッ!」


 バスン、と乾いた音と共に、弾丸が彼の頭に向かって放たれた。カフェの客も思わず目を背ける。


「・・う~~~ん」


 だがその銃弾は貫通しなかった。


・鉛のような味と火薬の様な香り。

・挑発にすぐ乗るような程度の低さ。

・それからもみあげが汚い。

う~ん、2点といったところでしょうか……w(ちなみに、満点は100点ですw)


 ぺっ、と彼は口から何かを吐き出した。キンと音を立てて、強盗の元へと転がり込む。それは彼が放った45口径の弾丸だった。


 強盗の全身から血の気が引く。彼は音速に近い速さで放たれた銃弾を口で受け止めたのだ。それだけではない。確かに強盗はもみあげが汚いのだ。目だし帽の内側で、冷や汗が流れる。彼は手元の拳銃のスライドを前へ戻すと、再びクルへと銃を突きつけようとした、が――


   * * *


「きゃっ!」


 クルは強盗が弾かれたときにその手から無事に逃れていた。本来なら机の角にでもあたりそうなところを、何か柔らかいものがクッションとなったのだ。


「オシリデス?」

「私は大丈夫だけど……」


 彼女は一瞬疑問に思った、なんでこの言葉の意味が分かったのか、自分でも理解ができなかったのだ。声がする方向に目を向けると、そこには人間の臀部に小さな腕の様な二本の触手が付いたものが地面から生えているのが分かった。


「もしかして……あなたがクッションになってくれたの?」

「オシリデス!」


 その生物は自信満々に胸――全身尻ではあるが――を叩いた。よく観察してみると、彼女の下には同じような生物が何匹かクッションになってくれているのがわかった。


「あなた達、名前は?」

「オシリデス♪」


 オシリデス♪は自分の名前を伝えた。その不思議で奇妙な生物は、今強盗と対峙している、あの全裸の男と何か関係があるのだろうか。彼のおしりとオシリデス♪を見比べるも、クルは特に何もわからなかった。彼が何者かも、なんで全裸なのかも、その全てにおいて彼女の理解を凌駕していた。だが、そんな彼女にも一つだけわかることがあった。それは、このオシリデス♪が悪いおしりじゃないということだ。


   * * *


「はぁーっ?」


 強盗は間抜けな声をだした。それもそのはず、彼が人質に取っていたはずの客や、ウェイター、店主までもがいつの間にか気味の悪いおしり型の生物となっていたからだ。


「オ、オシリデス……」


 親子連れっぽいオシリデス♪はオシリを抱きかかえるように、老夫婦っぽくちょび髭を付けたオシリデス♪は互いに手を取り涙を流す。地獄だったカフェが、一転しておしりと化した。厨房の奥、もちろん店主もおしりとなっていた。


「こら!!!!!!!!!!オシリデス♪が怖がってるでしょうが!!!!!!!!!!!!!!」

「ふざ、ふざけ……はぁーーっ?」


 まだ強盗は状況が呑み込めていない様子だったが、時間が経たない内に銃をその男に向けなおしてこう言い放った。


「なんだお前は! 気味の悪い事ばっかりしやがってよォ! お前だけは絶対殺す!」

「そのタマ無しの銃でですか??????まるであなたみたいですね(笑)」


 強盗は背筋が凍った。彼が持っている45口径の自動拳銃、ガバメントはマガジンに7発の銃弾が入る物である。銃本体の薬室内にも一発入り、最大で8発程撃てるのだが、この全裸の男の口に向けて放った時にスライドがホールドオープンしていたのだ。これはマガジン内にも薬室内にも一切弾丸が残っていない事を示すものである。この男は言動から行動、そのすべてがめちゃくちゃだが……その実力は素人ではない確かなものだと強盗にはわかってしまったのだ。全裸の男は貼りついた笑顔でじりじりと、距離を詰めていく。強盗は拳銃を落とし、腰を抜かし、後ろへと下がっていく。


「オシリデス♪!!!!!!!!!!やってしまいなさい!!!!!!!!!!!!!!!!」


 彼がそういうと、店内のオシリデス♪がすべて強盗に向かって飛び込んだ。様々なおしりにめちゃくちゃにされ、強盗は考えうる限り最悪な状態の中で気を失った。ちなみにそのお尻の中には全裸男のおしりもあったことは付け加えておくべきか。


   * * *


「オシリデス♪オシリデス♪」


 しばらくして、オシリデス♪によってカフェから強盗が運びだされ、工具を持ったオシリデス♪がカフェへと入っていった。その出入りに紛れて、全裸男がカフェから出てきた。よく見てみると、今度はちゃんとパンツをはいていたし、よく見てみるとちゃんともっこりしていた。どういう原理なのだろうか。

「あ、あの!」


 元全裸男は、その声で呼び止められた。その声の主は、クルだ。


「えっと……ありがとうございました。おかげで助かりました」

「?????????」

「あの……私はクルって言います、もしよければ……名前だけでも教えていただけませんか?」


 元全裸男は困惑している様子だった。しかしそうクルが言うと、彼は少ししてから、こういうのであった。




「え、いや、ただのバカ野郎ですが……」




「バカ野郎さん、ですね。ありがとうございました、バカ野郎さん!」


 それを聞くと、元全裸男は首を傾げながら、カフェの目の前に止めてあった大量のお尻でできたスポーツカー――ちなみにウィングには「ネオオシリデス号」と書かれていた――へと乗り込んだ。エンジンをかけて二、三回吹かすと、X軸に回転しながら沈むように地面へと潜っていった。


 クルはそんな彼を笑顔で見送ると、またいつものような日常へと戻っていった。クルが再び元全裸男の彼に出会うのは、それから数日後の話だった。

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