第24話 ブレ:一日目④

「もう一人の私を・・・、殺す────。」

「そうだ、そうすればこの世界に起こっている不具合は取り除かれ、ブレが終わる。」

殺す、それは他人が対象であっても決してやってはいけない事だと思う。

それが自分自身を対象とした場合、どうだろうか。

果たしてそれは『他人を殺す』という枠にはまり切るのだろうか。

「それでだ、ここからが君と話したかったことなんだが・・・。

 どうする? 君が"自分自身"を殺すかい? それとも俺たちがその役を引き受けてやろうか?」

なるほど、そういうことか。

冬島さんは要は気を使っているのだ。

別の世界の自分であったとしても、紛れもなく彼女は私の道を途中まで辿ってきたに違いない"鹿野紅葉"なのだ。

彼女を殺すということは"私自身"を殺すといっても過言ではない。

それであればまず私にそれを聞くのは筋が通っている。

私の死因が"自殺"か"他殺"かとでは鹿野紅葉という1人の人間の生涯を大きく左右する要因となる。

"自殺"の場合、それは私自身が合意した上での終わり方。

ようはその時点で鹿野紅葉は自身の生涯をやり切っている。

しかしそれが"他殺"の場合、それは合意があるかどうか以前に"他の者"がその人の生涯を終わらせてしまっている。

それは間違いだと思う。

これは私にかかわらずその人の人生だ。

人の財産だ。

それを他人が終わらせることは断じてしてはいけない。

だから私は苦悩する。

この場合、あの"鹿野紅葉"は他人であるのかと。

「・・・彼女は、私自身なんですかね。」

私にはその答えがわからない。

だから聞いてみる。

「ん────、彼女は君とは違うね。

 いや、これは別に君に彼女を殺してほしいから言ってるわけじゃないんだけどさ。

 因みに紅葉、彼女って間違った道を進んでいる自分だとか思ってる?」

「え?」

「そこから話そうか、まぁこれは俺自身の考え方でもあるからこれを聞いた後に改めて考えてみてくれ。

 もしもの話だけどさ、あの凶暴な彼女が本来の自分が通るべき道で今の君が外れた道の鹿野紅葉だった場合、どうする?

 もしそうだったら彼女からしたら、君っていう自分を否定する存在は許せないんじゃないかな。」

「あ────。」

いつの間にか私は思っていた。

あの彼女は黒崎を殺したと言った。それを聞いた私はそんなことおかしいと思ったし、アレが自分なんて・・・とも思った。

それは彼女自身も思ったのではないか?

『ダッサ。』

胸に突き刺さる言葉が湧き上がってくる。

彼女が本来の自分で今の私が偽物。

だがそれで、本当に合っているのか。

私の選んできた選択の数々がその存在によって否定され続ける。

どっちだ。どっちが私なんだ。

「すまんすまん、そんな黙り込ませようとしたわけじゃないんだ。

 これに関していえば、俺の答えは"どちら"も鹿野紅葉だと思う。

 ようはああいう存在、自分ではない自分自身っていうのかな。あれって実は常に自分の心の内にあるもんなんだよね。

 まぁ簡単に言えば、二重人格とかがわかりやすいかな。本当の二重人格者はもっとはっきりしてるもんだけど。」

冬島さんはあの彼女を"私自身"と言う。

「だからぶっちゃけ"自分自身"を殺すなんていう重いもんじゃない。

 これは本当の"鹿野紅葉"の押し付け合いなんだ、どっちが正しいのかわからない。それは勿論。

 だってどちらの"鹿野紅葉"もまだ終わってない。

 なら間違った自分を終わらせて、今の自分が正しいと彼女に証明するんだ。」

曇っていた心の中に光が射す。

殺すとか殺されるとかじゃない、自分自身の押し付け合い。

そう考えてしまうと"殺し"を嫌う私から逃げたと思われるかもしれない。

人殺しになりたくないだけかもしれない。

・・・だけど、・・・だけど、今はそれでいいか。

なんたって世界の命運がかかってるんだ。

それならさっさと私のケンカを済ませてしまおうじゃないか。

「私は・・・、私自身で彼女を倒して、今の自分が正しいと証明します。」

いずれ罪を背負うかもしれない。

だけど、その時に今の自分が正しいと信じられたのなら今のこの選択は"正しい道"のはずだ。

「うん、覚悟は決まったようだな。

 それじゃあ早速修行でも始めますか────。」

「え?」

「それはそうでしょ、彼女結構強いぜ?

 残念だけど、今の君じゃ彼女が正しくなってしまうな。」

「うッ────。」

確かに────、と浅峰邸での一連のやり取りを見ていた私は納得してしまう。

「でも、彼女霊術使ってましたッ! 今の私はそんなもの使えませんし・・・。

 あれ、私でも使えるようになるんですか?」

明らかにあの彼女は戦い慣れしすぎていた気がする、あんな自分も居たのだと思うと少し驚くものがあるが。

「霊術は人為能力だからね、使い方さえわかればだれでも使えるよ?

 彼女がだれに教わったかまではしらないけど、相当使い込んでそうだから霊術を覚えて四年くらいは経ってるだろうね。」

四年────。

四年前はちょうど"何もしていない"時期だったはず。

あの時になにか考え方が変わるほどのなにかがあったのだろう。

「霊術は確かに君たちの能力には合っていると思うからいずれは覚えておいた方がいいだ

ろう。

 ただ今君に必要なのは霊術の鍛錬じゃない。君の超常能力でもある"悪意"が視えると

いう力の方だ。」

「超常能力?」

「超常能力っていうのは、奇跡の副産物。

 まぁ、ご加護みたいなもんだと思ってよ、それが君にあるわけ。

 ・・・それともう一つ、君は持っている能力があるっぽいんだ。

 だからそのもう一つの力と"悪意"が視える力を使ってレベルアップしよう。

 三大能力全て使える奴なんて中々いないから必ず強くなる、俺が保証しよう。」

なるほど、つまり私は神に選ばれた的な感じなのか。

あまりリアリティのない話ではあるが、どうやらこの世界はタイムトラベルとか平気で起

こるファンタジー世界だったみたいだし別に変なことでもないか。

「三大能力っていうのは?」

もう一つの力と"悪意"の視える力。の二つなら理解できるのだがもう一つとはなんなんだ

ろうか。

「三大能力っていのは人が持つ力の事だな。

 一つは人為能力、これはさっき話した霊術も該当する。他にも例えば料理だったりスポ

ーツだったりとにかくマニュアルブックさえあれば人間誰しもできるものが人為能力ね。

人為能力は基本的に練度で技量が増していく。料理を続けていればいつか上手くなるし、

スポーツだって努力すれば必ず上手くなる。霊術もね。

二つ目が特質能力、これはマニュアルさえあれば誰でもできる人為能力とは違って、人

を選ぶ。要はセンスと才能が必要ってこと、だからあまり練度は関係ないかな。

センスと才能さえあればどんな相手とも互角以上に戦えるだろう。それが特質能力。

んで最後が超常能力。これはさっき話した通り奇跡の副産物、加護って呼んでる人もい

る。これは正直言って練度とかセンスとか才能とかもう一切関係がない。もはや体質と

言っていいだろう。それぐらい自然に使えるものだし、奇跡の副産物というだけあって

強力だし想像できないようなことができたりする。

俺が知っている超常能力だと、未来予知だったりが一番想像つきやすいかな?

多分世界に数十人しかいないと思う。それぐらい奇跡なのね君。」

・・・改めて自分がどれだけ小さな的を射貫いたのか理解した。

昔から特殊だとは思っていたけどまさかそんなレアものだったとは。

「基本的に一般人は人為能力止まり。といっても全員が霊術とか知っているわけじゃないけど。

 ただ基本的に霊術とか知っている奴は戦闘狂、というか"こっち側"の奴らだから警戒したほうがいい。」

なるほど、つまりそういった能力が使える人たちはヤバいやつらという事か。

「それじゃあ、早速紅葉の特質能力について教えようか。」

「特質能力・・・。」

「君の特質能力はズバリ、『心意』と呼ばれる個人の在り方を定義している考え方、気持ち、感情それらが力となった能力だッ!」

冬島は私に人差し指を向けながら、堂々と告白した。

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