第三十三話
濡れた制服は除湿器を起動させた部屋に置いてきた。いざ風呂場へ。
どうせなら湯船に浸かりたいけど、お湯が沸くのを待っていられなかったのでシャワーで済ませる。
洗面所に置いてあるシャンプーとコンディショナーのボトルを手に取ると、補充が必要なほど減っていることに気付いた。
髪を洗う時は二回に分けて合計四プッシュしているから減りが早い。髪の長さによる弊害極まれり。
今度の休日に美容院へ出向くとして、服を脱いで裸になり、浴室へ。
風呂場の鏡を前にして温水を浴び、冷えた体を温める。そのまま髪を濡らし、シャンプーを泡立てる。この長い髪との戦いにも慣れたものである。
中学二年の確か春頃。ふと、髪を伸ばしたいと思った。
好きな子ができてその子がロングヘア好きだったとかではない。ヘアドネーションを考えたわけでもない。
理由はない。ただの気まぐれ。漠然と伸ばしたいと思っただけに過ぎない。私がもう少し大人になったら若気の至りだったと笑い飛ばせる一種の中二病のようなもの。
髪が長くなるにつれて、短いほうが似合っていたと憤慨する不届き者がいたりした。誰だったかな、下級生だったかもしれないけど、覚えていない。
今となっては慣れたものだけど、髪を乾かす時間のあまり、ドライヤーが火を噴きそうになる。家のドライヤーは行きつけの美容院で紹介してもらったもので性能は高いが値段も高い。壊さないためにもまだまだ研鑽が必要。
何かとめんどくさいけど、今の髪の長さは気に入っている。それにヘアケアは私の趣味。眉唾物の髪に効果のある食べ物を食すのは楽しい。ワカメとか昆布とか。
コンディショナーと洗顔を終え、次は泡立てたボディソープを体に滑らせる。
首を洗っていると、なんとなく自分のうなじがどう見えるのか気になった。
百井のうなじがあれほど良いものであれば、私のうなじにも芸術的価値があるかもしれない。
一度、泡を洗い流し、洗面所から手鏡を持ってきた。
早速うなじを出し、両方の鏡の曇りを取ってから合わせ鏡をした。
当然鏡にはただの後ろ首が映っていた。そりゃそうだ。自分の体を見てうっとりしようものならナルシスト極まりない。
百井のうなじは良いものだと思えるのに。人体の不思議だ……もしかして私が変なのかもしれない。確かに同級生の女の子のうなじを芸術品扱いしているのは変だ。倒錯している。まずい。いや百井のうなじは確実に良いもののはず。わからない。
こうなったら……風呂を掃除して正道に立ち返る。
正しき精神は清潔な場所を生み出す工程によって形成される。
これしかない! 善は急げ!
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