第61話 捜索Ⅱ

 森の奥深く。

 滝を目指して、ガモリの隊列は颯爽に駆け抜けていく。


「ここで、お待ちください!」

 先を進む、騎士のガモリが急に足を止めた。


「急にどうしました?」

「何か異音が……?」


 ――ガサ、ガサ

 

 遠くで木々が揺れる音が微かに聞こえた。


「何……?」

「何でしょう……?」


 ――ガサ、ガサ


 音は徐々に大きくなっていく。

 そして、だんだん近くの木々も揺れ始めて、ドンドンと激しい物音も聞こえ出す。


「何かがやって来ます!」

「一体、何が来るの? もしかして……?」

 目の前の木々も揺れ始める。

「みんな、武器を構えて!」

 皆、用心して武器を構える。

 そして、騒音の正体が目の前に現れた。


「何――⁉」

「これは……って……なんだ、ガモリじゃん」 

 現れたのはガモリに乗った別の騎士だった。

 しかし、騎士の様子がどこか変だ。


「良かった……‼」

「一体、どうしたのですか?」

「皆さん、早く……。高原にまで戻ってください! こっちに来ています……」

「……来ているって何が?」

「……奴です……白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスです‼」

「……白銀鱗の大蛇竜ハクジュオス⁉」

「大変だ‼ 引き返すよ!」

 ガモリを急旋回し、元来た道を引き返した。


「ぁぁぁぁあああ―――――――――――――‼」

 突然、森の中に響き渡る騎士の悲鳴。


「ねぇ、今の声は……?」

「仲間の騎士の声だ……」

「やっぱり、助けに行こうよ!」

「いけません、レイナ殿! 隊長の命令通り、高原へお戻りください!」

「そんな……」

「仕方ないよ、レイナ。これは隊長の命令だから!」

「……うん」

 ガモリは止まることなく、全速力で走り続ける。


 ――ガサ、ガサ、ガサ、ガサ


 しかし、すぐに周りの木々が大きく揺れ出した。

 どうやらすぐそこまで迫ってきているようだ。


「ダメです、奴が来ます―――!」

 高い木々を押し退けて、真後ろについに姿を現した白銀鱗の大蛇竜ハクジュオス

 この真っ白な鱗、この凶暴な目、そしてこの大きさ。

 間違いなく、この前の白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスだ。

「あれが白銀鱗の大蛇竜ハクジュオス……⁉ レイナ、しっかり掴まててね!」

 ジュエルはガモリの綱を強く握った。

 全速力で走るガモリだが、後ろから追いかける白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスがじわじわと近くにまで迫っていた。


「ダメだ――――――――‼ ぁぁぁぁああああああああ―――――――――――‼」


 後方にいた騎士たちはガモリごと白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスに飲み込まれてしまった。


「……そんな……」

 しかし、レイナたちは止まることなく、ガモリを一目散に走らせる。


 ―オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛

 森中に響き渡る白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスの咆哮。


「あいつ、まだ追いかけてくるよ!」

 ガモリごと騎士たちを飲み込んだのにも関わらず、まだ足りないのか……。

 それとも、逃げる者はどこまでも追いかける本能なのか……。

 再び、レイナたちは追い駆けられていく。


「なんて速さだ……!」

「くそー、このままでは……!」

 引き離した差が徐々に詰められいく。


「ジュエル殿、レイナ殿、もしもの場合はよろしくお願いします!」

「何を言っているんだ! 高原まではあと少しだ!」

「ここで皆が殺られては、犠牲になった仲間たちの死が無駄になります。ここは私が時間を稼ぎます!」

「いや、いや、そんなの……!」

 白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスはもう目の前にまで迫っていた。

 このままでは、またガモリごと飲み込まれてしまう。


「あとは、頼みます!」

 そう言うと、ガモリの後部に乗った一人の騎士が、勢いよく飛び降りた。

「ダメ―――――――‼」


「くらえ、バケモノめ‼」

 長い槍を構え、白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスの頭に向けて突き刺そうとする。

「たぁぁあああああああ―――――――!」

 白銀鱗の大蛇竜ハクジュオス目掛けて槍を突き刺す。


 ――キ――――ン


「……なんて、硬さだ!」


「ぐはっ―――――‼」

 強固な鱗は槍などビクともせず、逆に騎士を弾き飛ばした。


「わ、わ、わ、わぁぁぁぁ―――――――――――‼」

 騎士はそのまま白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスの下敷きに。


 白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスはそのままスピードを上げ、ガモリに迫り来る。


「くそっ……!」

 騎士のガモリの真上には白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスの大きな牙。

 そのままガモリの体に牙が刺さると、大きな口の中へと飲み込まれていった。


「そんな……‼」

「ジュエル殿、レイナ殿、私は無事です! 早く、このまま高原へお逃げください!」

 騎士は飲み込まれる前にガモリを飛び降り、飲み込まれずには済んだ。

「わぁぁぁぁぁ――――‼」

 しかし、白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスの長い尾に薙ぎ払われて大きな木に衝突。

 そして、そのまま気を失った。


「うそ……⁉」

「レイナ、何が何でも私たちだけでも逃げ切らないと……」

「うん!」

「ほら、見えた、もうあそこよー!」

 目の前には森の出口が見えて来た。

 そして、高原を駆け抜けていく。


「このまま爆薬の元へ!」

 広い高原の中央に設置された沢山の爆薬。 

 ガモリは一目散に爆薬まで向かうと、白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスを近くまで帯び寄せた。



「良くやったぞ――! 二人とも‼」

 爆薬トラップの元に向かうもう一匹のガモリ。

 上に乗るのはアーリカだった。

 そして、爆薬の前でレイナたちとすれ違う。


「いいか、爆発に巻き込まないように、できるだけ離れた場所に待機しろ!」

 と言い残し、アーリカは白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスへと立ち向かう。


「隊長ー!」

 ジュエルが叫ぶが、アーリカは振り返らずガモリを走らせる。

 大きな口で襲い掛かる白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスに向け、槍を構えた。

 そして、詠唱する。


真風衝撃波ソニックバースト


「ハアアアアアアアアアアアアアアア―――――――‼」


 槍から放たれた衝撃波は白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスの目に突き刺さった。


 ―オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛

 片目を潰れ、その場にジタバタと藻掻き足搔く白銀鱗の大蛇竜ハクジュオス


 その隙に、アーリカは再び白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスに向けて、走り出す。

 そして、暴れる白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスの頭上に飛び乗ると――。


「ハアアアアアア―――――――‼」

 硬い鱗に槍を突き刺し、胴体を爆薬の方へ押し倒した。


「よしー! 今だ、爆薬を撃て!」

 爆薬のすぐ傍には白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスの巨体。

 爆破するには絶好のチャンスであった。


「レイナ、早く矢で爆薬を討って!」

 ガモリに跨りながら、レイナは弓を構えるが……。

「でも、まだ傍にはアーリカさんが……」


「なにしている、レイナ、早く、撃て―――!」

 倒れた白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスがだんだんと起き上がろうとしている。


「レイナ―――――――!」


 お願い、アーリカさん逃げて!

 レイナは矢を射抜いた。


 アーリカを睨みつける白銀鱗の大蛇竜ハクジュオス

 しかし、その横をレイナの放った矢が通り過ぎ――爆薬に突き刺さった。


 アーリカは地面に槍を突き刺し、呪文を唱えた。

 〝真風衝撃波ソニックバースト


 ――バ―――――――――――――――――――――――――ン‼

 広い高原に響き渡る大きな爆発音。

 大量の爆薬が爆発し、大きな衝撃波と共に黒い煙に包まれた。


「アーリカさ――――――――ん⁉」

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