第29話 航海

 緑の孤島グリュースを出発して数時間。

 船はゆっくりと大海原を進んでいた。


「うぇ~~~~~~~~~~」

 海面に向けて、盛大に嘔吐する俺。

 激しい波の揺れに船酔いしていた。


「ニャ~~~~~~~~~~」

 隣にはニャーも。

 俺と同じく気分が悪そうに、同じくポーズで海面を向いて嘔吐する。

 猫もどうやら航海は苦手なようだ。


「なんだ、お前ら船酔いか……。そんなじゃここから数日間、船の腕上で生活できないぞ!」

「大丈夫、一日寝れば治るって……うぇ~~~~~~~~」

「エン、大丈夫? お水飲む?」

「ありがとう……レイナ……」

 こんな狭苦しい船の上でレイナは唯一の癒し、いや、女神だった。

「でも、これから船の上でどうやって生活するんだよ?」

「なーに、水は海水を蒸発させて飲めばいいし、腹が減ったら海の魚を釣ればいい!」

「雨が降ったら、どうするんだよ?」

「濡れるしかないな!」

「え――」

 レイナのテンションがガクンと下がる。

「そういえば、お風呂もトイレもない……」

「女の子にはキツいかもしれないが、それが船の旅ってものだ!」

「はぁ……、やっぱ連絡船で行けばよかった……」

 と後悔しても既に海の上。

 島からはかなり離れており、周りを見渡しても果てしなく広がる海のみ。

「大丈夫、要がしたくなったら、ここにほら、海へ直接流せる穴があるからここで……」

「はぁ――――――――?」

 増々、嫌な顔をするレイナ。

「大丈夫、布ならあるから、使いたい時はこうやって隠せば、俺たちからは見えないぜ!」

「やだ、やだ、やだ! こんなところでトイレなんか絶対にやだ!」

「って言ってもな……」

「宝島まであと何日かかるの?」

「そうだな、五日から七日ぐらいか?」

「……はぁ……もう、私、寝る……」

 それからレイナの機嫌が直る事はなかった。



 次の日、俺とニャー、船から釣り竿を垂らし、のんびり魚釣りをしていた。

「なかなか、釣れないな……」

「ニャー……」

 船酔いも一日経てば、この通りすっかり元気だ。

 慣れれば船旅も悪くなかった。

 海風は気持ちいいし、海で獲れた魚は美味しいし。

 まぁ……、トイレだけは勘弁だけどな……。


「ニャー、ニャー⁉」

 俺の釣り竿の糸が引いた。

「お、魚だ⁉」

 急いで、釣り竿を上げた。

「よっしー! 獲ったぞー!」


 ――ピチピチ

 船の上に一匹の魚が上がった。

「なんだコイツ……⁉」

 黄色く網目模様で無数のトゲがある魚。どう見ても見た目は……。

「エン、何それ? ……パイナップル?」


 ――ピチピチ

 船の上で威勢よく跳ねる魚。

「見た目は完全にパイナップルだけど、おそらく、魚だよな……?」

「ニャー?」

 ニャーがクンクンと匂いを嗅ぐ。

「どう?食べられそうか?」

「ニャ――――‼」

「よし、早速、焼くか!」

 船の上で、火を起こし、獲れたパイナップル魚を焼いていく。

 焼けた魚からいい匂いが漂ってくる。


「はぁ~、匂いまでパイナップルだ~! すげーなこの魚‼」

「おっ、いい匂いだな?」

 昼寝中だったカイも良い匂いに目を覚ました。

「カイも食べるか?」

「美味しそうだな、いただこう!」


 ――ぐぅ~~~~~~

 レイナのお腹が盛大に鳴った。

「わ、私は要らないから!」

 絶対にトイレに行きたくないからと、昨日からずっと飲まず食わずのレイナ。

「レイナ、このまま何も食わないと死ぬぞ?」

「いいの。ここでトイレするぐらいなら死んだ方がまし!」

 そんなにこの船でするのは嫌なのか……。

「よし、できた!」

 焼けた魚をニャーが切り分ける。

 皮こそ硬いが中身はとても柔らかい。

 本当に中身までパイナップルそっくりな魚だった。


「ニャ――!」

 ニャーが空中で高速で魚を綺麗に切り分け、各々のお皿に乗せていった。

「いただきます! うめ――――!」

「ニャ―――――‼」

「本当に味までパイナップルじゃん!」

「何だ、そのパイナップルってやつは?」

「この魚と同じ味の果物だけど……」

「そんな果物があるのか? この魚の味はこの魚でしか食ったことないぞ!」

 ひょっとするとパイナップルはこの世界に存在しないのか……。

「そうなんだ……」


 ――ぐぅ~~~~~~

 再び、レイナのお腹が鳴る音。

「はい!」

 見兼ねて、俺は残りパイナップル魚を渡した。


 ――パクパク

「美味しい!」

「なー、旨いだろ?」

「でも、これ以上は食べない……」 

「まぁー、そんなにピリピリすんなって! 途中で島を見つけたらそこに寄ってやるから!」

「ホント……? なら、食べる!」

 少しだがレイナお嬢様のご機嫌が回復した。


「ウェン!」

 見張り台にいたウェンギンが指を差す。

「お前ら、あっちを見てみろ!」

「わぁー、イルカ……ぽい生き物だ!」

「可愛いー! でも、なんであんなにカラフルなの? 青、赤、緑、黄色……」

「まるで虹みたいだな!」

 交互に水面から飛び上がるカラフルなイルカのような生き物。

 海面上に綺麗な虹のように並んで泳ぐ。


「私たち、本当に魔法の世界に来たんだね!」

「そうだな! これからもっと、すごい生き物に出会えるかもしれないな!」

「どんな生き物がいるか楽しみだね! ねぇ、あれ見て!」

 見たことのない生き物に胸弾ませるレイナ。

「なんか、最初は嫌だったけど、船旅も案外楽しいかも!」

「よかった!」


 その後も、目にする生き物は本当に凄かった。

 小魚のように群れになって、水面を飛び回るトビウオのような魚。

 無数の群れが一つになると大きな鳥の形になり、襲い掛かる海鳥たちを追い返す。

 それから、遠くの方で巨大なクジラのような生き物も見かけた。

 水面から顔を飛び出すと、まるで風船の様に空に浮かびだすと、そのまま雲の中へ消えて行ったではないか。


「やっぱり、凄げーな! この世界は!!」

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