第25話 酒場

「どうやら、この店のようだけど……?」

 宿屋の亭主が教えてくれたのはこのアミラ酒場。

 まだ陽が暮れていない内から、多くの男たちが飲み食い倒れているほど大賑わいなお店だった。

 こんな大人のお店に、中学生二人で入るのは少し躊躇うが……。


「仕方ないわ、入るわよ!」

「おう……」

 旅のためには仕方がない……。

 まぁ、お酒を頼まなきゃ、ただの食堂、いやレストランだ。


「よう、兄ちゃん! 見かけぬ顔だけど、どこから来たのだい?」

 入店してさっそく酔っ払いに絡まれてしまった。

「えーっと……この島の反対側から……」

「そうかー! はるばるよく来たな! まぁー楽しんでいってけ!」

 みんなこの街の人だろうか。

 みんな仲良くドンチャン騒ぎの愉快な店内。

 こんな中で、本当に地の大陸アースランドまで連れて行ってくれる人なんか見つかるのだろうか……。

 オドオドしながらも店内を進む俺たち。

 なぜか周りから注目を浴びているような……。

 ――ヒュー! ヒュー!

 あちらこちらで口笛を吹かれる。

 恐らく、レイナに向けてだ。

 まぁ、こんな可愛い子がこんな店にいるんだ。

 周りの男どもからも注目されても仕方が無い。

 そんな、酔っ払った連中の中を掻き分け、奥の空いていたテーブルに座った。


「お二人さん、いらっしゃい~! 見かけぬ顔だね! ようこそアミラ酒場に!」

 恐らくこの店の人だろう。

 とても美人のウェイトレスさんが話しかけて来た。

 ウェイトレスさんは美人なだけではなく、今にも服からは弾け出てきそうなほど豊かな物が……いや、見ちゃダメだ……!


「ど、どうも!」

「さて、注文は何にする?」

「えっと……メニューは……」

「メニューはあそこの壁に書いてあるから決まったら呼んでねー!」

「ありがとうございます! ……って……そうだった……」

 壁に書かれたメニューを見ても、異世界の文字は読めない。

 それに値段も。

 いくらかこの世界の金貨は持っているが、お金の相場も分からないので、この金貨で何が頼めるのだろうか……。


「レイナどうする?」

 俺は小声で相談する。

「そうね……。ここは任せて……! あの、すいません!」

「あいよー! 何にするか決まったー?」

「ごめんなさい、私たち、別のところから来て、文字もお金の相場も分からないんだけど、この金貨で何が頼めるかしら?」

 とレイナは手持ちの金貨を数枚見せた。

「これだけ、あればとても豪勢な料理が頼めるわよ! じゃあ、お題はこの半分でいいからこの店のおすすめの料理を何品でどうだい?」

「じゃあ、それでお願いします!」

「あいよー!」

 しばらくして、一度に沢山の皿を運んで来るウェイトレスさん。

 お皿に乗った料理も凄そうだが、ウェイトレスさんが歩くたび揺れる……。

 ぷるんぷるん……。

 凄い……。

 

 ――ドン!

 一度に沢山の皿を机に置いたウェイトレスさん。

「はい、まずが、ルーナ草のサラダに、ファングの干し肉に、子メギのチーズね!」


「美味しそう!」

「そうだな!」

「ニャ~!」

「じゃあ、早速!」

「いただきますー!」

 早速、目の前の料理をいただくことにした。

「うめぇー!」

「おいしー!」

「ニャー!」

 どれも聞いたことの無い名前の食材だが、料理は美味しい!


 ――ドン!

「はい、こっちは、アミラ港で今朝、獲れた新鮮な魚のお刺身の船盛りねー!」


「わぁー、すごーい!」

「すごいけど……大丈夫か……?」

 刺身にしては、見たことの無い青・緑・黄色切れ身。それにでっかく乗っているのは何の魚の頭だ⁉ 凄い大きな角があるぞ……。

「えー、順番にマジロにピラメにブジにラッキ貝、海ツムリに、ゴールドキングダイの尾頭付きはサービスね! これ、滅多に獲れない魚だから、お兄ちゃんたちラッキーね!」

「……エン?」

「何、レイナ?」

「この青い刺身、食べてみてよ?」

「え、俺から……? 毒味役じゃないんだから……」

「いいから、早く!」

「分かったよ! 身は透明で綺麗なんだけど、色が青じゃなきゃな……」


 ――パク…………


「どう……? 大丈夫……?」

「…………うっ…………」

 俺の表情が変わる……。

「えっ⁉ ちょっと、エン、こんなところで死なないでよ!」

「…………うっ……めぇ~~!」

 俺は謎の青い刺身を更に口に入れた。

「ちょっと、私の分も残してよ!」

「ニャ――――⁉」

「美味しい~! 色はちょっとだけど、今までに食べたことない触感だな!」

「じゃあ、次、緑の奴はレイナが先な!」

「えー、仕方ないな……」



「はい、お待たせ! メインディッシュのインペリアルゾーモスのステーキね!」


 ――ド―――ン!


 置いた重みで机が揺れる程、目の前にとんでもないボリュームのステーキが……。


「お――、すげー‼」

「お――、すごい‼」

 俺もレイナもあまりの大きさに開いた口が塞がらなかった。

「ねぇ、早く!」

「そうだな!」

「いただきます!」

「うめ―――――――――――――――――‼」

「にゃ―――――――――――――――――‼」

 二人と一匹は夢中となって巨大ステーキを頬張った。

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