第18話 岩石斬りⅢ

 そして、岩を斬り続け十日が経った。

 巨大な一枚岩もずっと斬り続けた結果、大きく凹んでいた。

 残りは三割ってところだろうか。

 しかし、ここに来て非常に不味いことに気付いた。

 百本あった大量の剣も残りは僅か四本しか残ってないのだ。


「たあああああああああああああああ――――――――――!」


 ――カ―――――――――ン

 岩に当たると、剣身が真っ二つに折れ、跳ね返る。

 そして、地面に突き刺さった。


「あ――――、折れた―――!」

 これで、残りは三本。


「くっそ……あと三本で斬れるのか……」


「少しは様になって来たな!」

「テツさん!」

 足元の折れた剣先を拾い、そう口にした。


「出会った頃とは、段違いに剣を振れるようになっただろ?」

「はい! もう少しでこの岩も斬れそうなんですが……他にも剣はありませんか……?」

「ない! 残りの三本でなんとかしろ!」

「そんなの無理ですよ!」

「そうだろうな! いつまでもただ剣を振りかざすだけじゃ、斬れる訳がない?」

「じゃあ、どうすれば……?」

「どうすればいいか? その剣を見れば分かるだろ!」

「……この剣?」

 地面に突き刺さった折れた剣。熱を帯び煙が立ち昇っていた。

 もしかして炎……⁉ 

 でも、どうやって……?

 僅かな火花で少しずつ岩を削っても、たった三本の剣で斬り抜くのは確実に無理だ。

 黒鉄色の大蜘蛛ダークアイチュラ―との戦った時のように、あの大きな炎を出せたら――この岩だって一撃で斬り抜けるのでは……。

 でも、これは《太陽の剣》ではなく、ただの打ち損なった剣。

 この剣でもあの時の炎を出す事なんて……。


「とりあえず、やるしかない!」 

 俺は剣を大きく振りかぶった。


「炎よ、出ろ! 炎よ、出ろ!」

 そう念じながら、大きく剣を振りかざす。


「炎よ、出ろ! 炎よ、出ろ! 炎よ、出ろ!」


 ――キ―――ン

 ダメだ……何も起こらない。

 どうしたら、炎が出るんだ? 

 あの時の事を思い出せ……。


 確か、俺は――。

 黒鉄色の大蜘蛛ダークアイチュラ―に殺されそうになって、咄嗟に剣を振ったんだっけ……そしたら、勝手に炎……。


 あの時、感じていたのは、恐怖……? 

 俺は死にたくないから剣を振り抜いたのか……? 

 確かにそれもあった。

 けれど、それより強い思いは――。

 あの時のあそこで俺が黒鉄色の大蜘蛛ダークアイチュラ―を倒していなければ、俺だけじゃなく、お爺さんまで殺されていたかもしれない。

 そう、誰かを助けたい、守りたい気持ちだ。

 その思いを強く念じよう。

 この剣に思いを集中させ、全て切り抜く大きな炎を、熱く全てを燃やし尽くす、太陽の様な炎をイメージするんだ。

 俺はこの岩を斬り抜く――。


「はぁあああああ―――――――――‼」

 剣身全体から炎を宿すイメージを!


 ――バチッ! バチッ!

 不思議なことに剣先から僅かに火花が生じると、剣身全体が赤く熱を発し、やがて、剣に炎が宿り始める。


「たあああああああああああああああ――――――――――!」

 俺は渾身の一撃で振り抜いた。


 ――ジュ――――‼

 ――カ――――ン‼


 剣は確かに岩に命中したが、宿った炎は消えてしまっていた。

 剣身が岩を焼き溶かし食い込みが、すぐに熱は冷め、柄の部分を境にポッキリと折れる。


「くそっ……‼」

 炎の威力が足りなかった……。

 でも、この感覚だ!


 残る剣は二本。

 岩を斬り抜くのにもっと強い炎を宿す必要がある。


 ――ふぅ―――――

 息を吸って、再び炎をイメージする。 

 燃えろ――、燃えろ――、燃えろ――!


「たあああああああああああああああ――――――――――!」

 大きく振りかぶった剣からは再び炎が宿る。


「あああああああああああああああああああ――――――――――!」

 俺は剣を最後まで振り抜いた。


「どうだ……⁉」

 炎を宿った剣はイメージ通りに岩を斬り抜いた。

 しかし、目の前に分厚い一枚岩が残る。

 僅かに奥まで斬り抜くまでには至らなかった。


「もう少しか……って、えっ……⁉」

 剣の柄より先は炎の熱で完全に溶けていた。


 ……これが最後の一本。


 かなり深く削れた岩。

 しかし、ここから先は岩の奥までは剣先は届かない。

 さっきより大きな炎が必要だ。

 もっと強くイメージしよう。


 俺は目を瞑った。

 

 燃えろ――、燃えろ――、燃えろ――!


 大きな炎を! 何もかも燃え尽くす業火を!


 燃えろ――、燃えろ――、燃えろ――!


 俺は剣を高く振り上げ、剣に魔力マナを溜め込むイメージを。

 剣身に偶然、陽の光が当たり、まるで太陽の様に輝き出す。


 燃えろ――、燃えろ――、燃えろ――!


 燃えろ――、燃えろ――、燃えろ――!


「これで斬ってやる!」

 俺は大きく目を開く。



 燃え上がれ、俺の炎――――――――――――――――――――!



「たあああああああああああああああああああああ――――――――――――‼」


 振り上げた剣に再び炎が宿る。

 橙色の熱い炎が。

 炎は大きく伸び上がり、一つの剣の形となる。


「ああああああああああああああああああああああああああああ――――――‼」

 巨大な一枚岩に目掛けて、剣を振りかざした。


 ――バ―――――――――――――――――ン

 目の前で小さな爆発が起こり、爆風が吹き荒れた。



「……どうだ……?」

 視界を曇らせていた爆風が消えていく……。


「や、やったあああああああああああ――――――――――――――――――――!」

 岩を斬り抜くどころか、周りの岩まで全て粉々に粉砕したのだった。


「これが……洞窟……⁉」

 そして、目の前に大きな洞窟の入り口が現れたのであった。

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