第17話 岩石斬りⅡ

 三日目。


「もう、朝か……。今日も頑張ろう……」

 俺はいつもの様に岩に向かう。


「そうだ、その前に!」

 テツさんのアドバイスを求めてみた。


「コツ? そんなものねーよ! ただ、ひたすらに斬るしかねーな!」

「ですよね……」

「まぁ、でも、一つあるとしたら、ちゃんと同じところを斬ることだな。大事なのは勢いでもパワーでもない。ちゃんと確実に同じところを何度も何度も斬り続けることだ!」

「同じところかを斬るか……なるほど、やってみます!」

「おう、頑張れ!」

 

 ――キ―――――――――ン

 ――キ―――――――――ン

 ――キ―――――――――ン


 テツさんのアドバイスを意識して、一発、一発、同じ所を狙って剣を振り抜く。


「ダメだ……‼」

 同じ所を斬り抜くことは、まだまだ難しい。

 三回に一回、いや五回一回に当たればいいところだ。

 この精度を上げていくしかない……。

 何度も何度も諦めずに剣を振っていった。 

 何度、剣が折れようが……。

 手の感覚が無くなろうが……。

 俺はひたすら剣を振り続けた。


 

 四日目。

 この日は朝から雨だった。

 雨に打たれながらも、俺は今日も懸命に岩の前で剣を振り続けた。

 日に日に切り口が大きくなっているのは分かる。

 しかし、このペースでは、あと数週間、いや数ヶ月はかかるかもしれない……。

 まだまだ遠いな……。

 それでも、下を向かず、雨に打たれながらも懸命に剣を振り続けた。



 五日目。

 ここまでくると、前日までの疲れも全く感じなくなった。

 手に出来たタコは潰れ、硬くなっていた。

 五日間、必死に斬り続けた岩。

 平らだった表面も大きなVの字に。

 しかし、岩はまだまだ分厚い。

 残りは七、八割って所ところだろうか……。

 剣の振りの方も安定してきた。

 最初に比べて、同じ箇所を連続で叩けるようになってきった。

 数回斬ればすぐに折れていた剣も、折れなくなってきたし。

 この調子、いい感じだ!


「はぁ…………癒される………」

 この日の夜も木で出来た風呂で日中の疲れを癒していた。

 窓からは綺麗な月が見えた。


「こっちの世界に来てもう一週間か……」

 元の世界では長く退屈だった一日一日が、こっちではあっという間に感じる。

 まさか、異世界に来て、こんな辛いことをすることは思ってもいなかったが……。

 だが、日々、力がついていることが実感できる。


「俺はもっと強くなってやる!」



 六日目。

 今までより体が軽く感じる。

 毎日、剣を振り続けたせいか、だんだんと体に染みついてきたようで、姿勢、スピード、パワーがよりも安定してきた。


 もっと強く! 

 もっと早く!

 もっと的確に! 

 斬るんだ! この岩を斬り抜くんだ!

 


 七日目。

 この日も雨。

 大粒の雨で視界が悪い中でも、確実に同じポイントに剣を当てていた。

 どうだ! こんな雨の中でもヘッチャラだぜ!



 八日目。

 岩に向かって渾身の一撃。


「たああああああああああああああ―――――!」


 ――バチ、バチ


「今のは⁉」

 岩に当たると剣先から火花が飛び散ったのだった。

 俺は剣身を触った。


「熱っ……‼」

 確か、テツさんとの力試しの時もこんな火花が出たっけ……。


「もう一回! たああああああああああああああ―――――!」

 しかし、今度は何も起こらなかった。


「この火花どうしたら起きるんだろ……?」




 九日目。


「たああああああああああああああああ―――――!」


 ――バチ、バチ

 ――ジュ――――――――


「まただ……!」

 どういう事かは分からないが数回に一回、剣から火花が出る様になった。

 同時に剣は赤身を帯びるほど熱くなり、次にその剣を振り抜くとボキッと簡単に折れてしまう。

 しかし、この熱のおかげで岩の削れる量は初めの頃よりも大きく増えた。

 この火花を毎回出すことができれば……。

 でも、一体どうすればいいのやら……。

 その答えを見つけられず、俺はただひたすらに剣を振り続けていた。

 残りは半分いや四割となった岩。

 切口もどんどん大きく広がっていた。

 この調子だと、斬れるかもしれない、この分厚い岩を!

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