宣戦編ー3

 ―痛い。普通に痛い。ただ門を触っただけなのに。あんなことになるなんて。門に電気を流すなんて、どうかしてる。どうしてそこまでして私たちに部活動戦争をさせたいのだろう。さっきはソフトボール部が大声を出して近くを通ったのを見て、驚いた。まさか、本当に部活動戦争を始めようと...―

 岡谷は保健室で休んでいた。といっても、ソフトボール部の大声や、生徒の悲鳴の声で休んでいる気持ちではいられなかった。保健室には、連れてきてくれた桃倉と、心配して駆けつけてくれた張(はり)野(の)彩(あや)花(か)もいた。

「なんか、すごく騒がしいけど大丈夫なの?」

「噂なんだけど、ソフトボール部と理科部がやばいって。しかも、川嶋が主犯とかいってるし。」

「ええ?川嶋が?絶対ゆるさない!」

 張野から返ってきた予想外の答えに、岡谷は激怒した。

「まあ、いずれソフトボール部がなんとかしてくれるって。」

「そういう人任せなところよくないよー、彩花。私が川嶋にとどめをさす!」

「とどめって、こわっ。あ、そういえば、川嶋は理科部を仲間にしてるらしいよ!ソフトボール部が理科部を襲おうとしたとき、理科部員を助けたんだって。理科部だけ特別扱いだよね。」

「そんなことばかり話さないでー。」

 加熱し始めた二人の会話に、桃倉がストップをかけようとした。

「でも、なーんで川嶋は戦争させたいんだろ。」

 先ほどより少し落ち着いた声で、岡谷はまた話を続けた。

「え、ストレス発散じゃない?戦ってるとこ見て。」

「戦ってるとこ見てストレス発散とかやばっ。」

 しかし、また会話は加熱し始めた。岡谷が、

「理科部を仲間にして戦争をさせたいってどうかしてるって!」

 と、大声を上げた。すると、桃倉があることに気づいた。

「ん?あの手紙には、戦争をさせたいって書いてあったよね?でも、川嶋くんは理科部とソフトボール部が争いになりそうなところを止めたわけでしょ?なんか変じゃない?」

「えー、ちょっと難しいことはよくわからないや。」

 岡谷は桃倉の疑問をあっさりとスルーした。

「結構大事なことな気がするんだけど...」

 桃倉の温度とは正反対に、張野が続けた。

「そういえばさ、外にメッセージ伝えたんじゃないの?そろそろ警察とかに伝わってたりしてるんじゃないのかな?早く学校からでたーい。」

 時刻はもう午後一時を越えていた。

「あ、そうだった。確か竹下くんたちが外にメッセージを出してくれたはず。でもその直後に四階が爆発しちゃったって言ってた。だから、少しはメッセージカードが外にあるはずなんだけどなあ。」

 桃倉がそうつぶやくと、校外のほうから、サイレンの音がした。保健室から外の様子は見えないが、パトカーが来たと思われる。

「あ、警察来たんじゃない?やったー外行こうよ!」

 張野が外に出ようとするが、桃倉が必死に止める。

「外に出たら、何が起こるかわからないよ。さっきは、教室が爆発されたんだから。むやみに外に出ようとすると危ないから、警察が来てくれるのを待とうよ。すぐに来ると思うから。」

「しょうがないなー。」


 テニス部は、外にいたため周りの様子がはっきりとわかった。計画を立てている途中にサイレンの音がしたため、外の柵のほうに近づいた。すると、パトカーが何台も並んでいることに気がついた。しかし、中に入ってくる様子はない。

「おかしいぞ。なんで警察は中に入ってこないんだ。警察なら電気柵もなんとかなるだろ。」 竹下がそう言うと、鈴木が返した。

「あ、もしかして、変なことをすると、学校が爆破させるかもしれないことが伝わってるんじゃない?」

「いや、それはない。一枚だけメッセージカードを外に投げたけど、それは五年次の教室が爆破される前だったから、何か余計なことをしたら、爆破されるかもしれないというのは警察には伝わっていないはず。教室が爆破されるところを近くの住人が見てたのか...?」

「もう、助けてもうらおうよ、竹下!そんなぶつぶつしゃべってないで!」

 そう言うと鈴木は、体育館の建物の脇を通って、正門よりも北側の門へ走って向かった。

「おーい!おまわりさーん!たすけ」

 ドオーン!!

 走リ始めた瞬間、体育館の建物の脇にある、小物置き場が爆発した。先ほどの五年次の教室が爆破されたときよりも少し大きい爆破であった。

「うわっ」

 爆破の勢いで飛んだ破片が、鈴木の足に直撃した。さらに、砂ぼこりが立ちこめていた。「おい大丈夫か鈴木!」

 竹下を始め、テニス部の男子、女子が集まってきた。鈴木は右足を抱えている。どうやら、右足のすねのあたりを怪我したようだ。

「ああー痛い。うう、足が、足がめっちゃ痛い。」

 これほどの爆破があっても、警察は校内に入ってこなかった。

「警察は今の状況をすべて把握してるのか?だから、爆発を恐れて校内に入ってきていない...?」

「どうするの?早く保健室に連れて行って、応急処置しないと!」

 テニス部女子が竹下に呼びかけた。しかし、竹下は自分の思考の世界に入ってしまい、それどころではなかった。それを見かねて、テニス部員たちは竹下以外の部員と協力し、鈴木を保健室に連れて行くことにした。鈴木は、足の他にも背中や腹部などの場所も怪我していることが運んでいる最中にわかった。テニス部員たちは、保健室の近くまで来た。

 保健室にいた岡谷たちは、その足音に警戒した。

「え、誰か来てない?なんか人数多いし!もしかしてソフトボール部!?」

 岡谷は恐怖でその場から動けなかった。張野も同じ状況であった。

「え?ソフトボール部?二階のほうにいるんじゃないの?きっと大丈夫だよ。」

 桃倉は岡谷たちを落ち着かせようとするが、なかなか落ち着かない。先ほどの正門での感電事故も岡谷に影響を及ぼしているようだ。桃倉の顔が曇った。桃倉は、なにか嫌な予感を感じ取った。

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