交戦編ー3
三
―どういうことだ?警察に僕たちのメッセージ―現在学校から出れない状態にあるので、助けて欲しい―という内容は伝わったはず。だけれども、何か脱出するようなことをすると爆発が起きるという内容は伝わってないはず。仮に爆発を目撃した近所の人が警察に伝えたとしても、俺たちが脱出をしようとしたから爆発したということまではいくらなんでも想定できない...けれども、すぐに警察は俺たちを助けるようなことはしなかった。すると、誰か事情を知っている別の人物が外に状況を伝えたのか?―
―かずっち!
あ、もしくは、犯人から直接警察に伝えたのか?
―ねえ、かずっち!
ところで、犯人は一体どういう奴らなんだろうか。この仕掛けをするには、一人じゃ難しいぞ...
―おい、かずっち!
竹下は我に返った。同じテニス部男子だ。怪訝な目でこちらを見ている。
「うわなんだよ」
「さっきから何ぼーっと立ってるの。警察の人に怪しい目で見られてるよ。」
「ほんとだ。」
「なんだし。そっけない返しだなー。なんか考えてたんでしょ?かずっちのことだから。」
「まあちょっと。」
「それで、何を考えてるの?教えてよー。」
「うるさいなー。あっちいっとけ。」
「冷たいなー。それにしても目の前に警察がいるのに助けを求められないってもどかし過ぎない?ん?あれ、ヘリじゃない?」
青空の中を、ヘリコプターが飛んでいた。
「もしかして、どっかの番組じゃない?全国から注目されてるのかもよ、僕たち。」
そんなテニス部男子のことは気にせず、竹下は先ほどの爆発が起きた場所へ歩き出した。地面には、壁のかけらや石ころが散らばっている。その中から、爆破装置のかけらのようなものを拾い上げる。
「小型だな。あの爆発にしては小型だ。この大きさだったら人目につかず、時間を掛けずに設置できる。」
「あ、もしかして犯人捜し?そんなの警察が見つけてくれるって!」
「いや、そういう訳にはいかない。俺たちをこんな目に遭わせた奴らを、自分の手で絶対に懲らしめる!」
テニス部男子の顔が強ばる。
「僕は、ここから逃げ出すことで精一杯なんだよ!かずっちの推理になんか付き合ってらんないの!」
「...ごめん。でも最初に絡んで来たのはお前だろ?」
正論を浴び、テニス部男子は何も言えなくなってしまった。不快そうな顔をしながら彼はその場を去った。竹下は、爆発した現場の観察をしていた。まれにとがった石もあるため、気をつけながら歩いている。地面を見つめながら、推理の続きをつぶやき始めた。
「...そもそも、犯人の動機はなんなんだ。俺たちに戦争をしてもらいたい人物...ただ俺たち同士が傷つけ合うのを見ていたいだけなのか?...!」
竹下の手から、爆破装置の一部が滑り落ちた。
「まさか...そうか、そういうことか!」
竹下は、保健室に走った。勢いよくドアを開け、中に入る。中にいた人たちは、驚いた目で竹下を見る。そして、自分の推理を話そうとした。
「おい、大事な話がある。聞いてくれ...あの...あ...」
口から言葉が出なかった。犯人が、生徒たちが戦争をしているところを見たいような人物であると考えると、せっかくならばカメラからではなく直接見るであろうと考え、その犯人は生徒の中にいると考察したのだ。もしも犯人、つまり生徒に、自分の推理を話してしまっては、どうなるかわからない。
「なんだよかずっち。もったいぶらずに言えよ。」
先ほど外で竹下に話しかけた生徒にせかされる。竹下の目には、全員が怪しく写る。
「おいかずっち!」
背中を叩かれる。
「やめろっ!」
手を弾き、保健室の外へ勢いよく出て行った。
「もう...誰も信用できない...」
時刻は二時半を迎えた。空腹が生徒たちを襲う。弦楽部である唐田は、同じ部活の生徒と集まっていた。ソフトボール部の騒動があってから、ほとんどの生徒が部活動ごとに集合している。
「みんなお腹すいてるよね?非常食って、どこにあるんだっけ?」
唐田は周りに問いかけると、校内地図を眺めた。
「あ、ここじゃない?小さい倉庫。」
周りの部員は「あーほんとだー」と目を丸くする。
「せっかくだからさ、他の部活にも配ろうよ。」
「え、でもソフトボール部どうするの。あ、なんか理科部にも配りたくないし。なんかやばそうな雰囲気してるじゃん?」
近くにいた部員が声を上げる。
「んんーそうだな。じゃあ僕一回様子見に行ってくるよ。」
「え、大丈夫なの?ぶん殴り合ってるかもよ。しかも、さっき地学室で物騒な音が聞こえたし。」
「じゃあついてきて!喧嘩してたら無理矢理食料配ろう!」
「ちょっとそれは...よくそんな勇気があるね。」
「学校に閉じ込められている状況なのに、争いなんかしたら取り返しがつかないから。」
唐田は一人で総合実践室から地学室へと向かった。幸い、殴り合いはしていなかった。しかし、椅子や窓ガラスが散らばっている。ため息を吐きながら地学室のドアを開ける。
「何してんの...ええ!?」
橋本が清水に取り押さえられている様子をみて、驚いた声を漏らす。
「んん...説明をすると長くなりそうだね。そっちの要件からお願い。」
「わかった。あの、非常食をみんなに配ろうかなって思っててさ。ちょっと様子を見に。」
「あ、もしかして僕たちの騒動がみんなに伝わっちゃった?まずいな...」
地学準備室にいる白鳥と川嶋は、地学室の生徒に少し遅れて、騒動が収まったことに気がついた。
「あ、川嶋君、もう大丈夫そうだよ。なんか終わってるし。ドアも開いたよ。もう閉じ込められてないよ。」
「もうこっちのドア開くんですけど。」
川嶋は廊下側のドアを開けるために、邪魔になっていた沢山の重い段ボールなどを先ほどどかし終わったところであった。
「じゃあそっちから出れば?」
「そういうことじゃないと思うんだけど。」
「じゃあどういうこと?」
「はい。なんでもないです。こっちから出ます。白鳥君は直接地学室に行ってくださーい。」 川嶋は真顔で捨てぜりふを残して、廊下に出た。二人は、同時につぶやく。
「なんなんだあいつ。」
「僕たちが騒動を起こしていることを知れば、当然部活動で集まるところも出てくるだろうし、警戒も高まる。そしたら、今回の僕たちのような騒動が起こりかねないよ。」
「じゃあ、他の部活に配り終わった後に、一階の倉庫がある場所に呼ぶよ。」
「ありがとう。」
「あ、唐田君じゃん!え、木下君!?」
準備室から出てきた白鳥が、萩原に手当てされている木下を見て声を大にした。
「あ、そうか、殴られたのか...奥野君は大丈夫?」
清水は野犬の方に顔を向ける。
「んまあなんとか...」
少し体を震えさせながら立ち上がる。浜田に殴られた痕が何カ所かある。部屋の隅にいた古畑がぽつりと言う。
「はあ...ひどかった。」
廊下側から、川嶋が入ってきた。
「あ、唐田君...部屋の中めちゃくちゃじゃん。」
床には椅子や小物が散らばっており、とても先ほどまできれいにそれらが整えられていたとは思えないほどであった。
「あ、さっき総合実践室から見えたんだけど、警察がたくさん来てたよ。助けてくれるかな?」
「どうだろう。近寄れば爆破する可能性があることを知っていれば、容易には近づけず、時間がかかると思うよ。警察に声明文が来ていたり、爆発した様子を近くの住民が見ていたりしたら、警察に伝わるかな。」
清水は淡々と答えた。すると唐田が思いついたように
「あ、さっきも爆発音したよね?体育館の方で!」
「もしかして、警察が中に入ろうとして...?いや、生徒が警察に助けを求めたということもあるかもしれない。」
清水は思考をめぐらせる。唐田は心配をしている。
「誰も怪我してないといいけど...かずっちとか大丈夫かな?なにか下手な真似して、爆発に巻き込まれてないかな?かずっちすぐ熱くなるとこあるからなあ...」
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