宣戦編ー1

 一

 ―もう限界だ。耐えられない。給食が食べられないだなんて、苦痛でしかない。学校に来てから、水しか飲んでいない。しかも爆発が起きるってどういうことだよ。もういっそのこと、戦争しちゃったほうがいいんじゃないか。いや、こんなことを考えてはいけない。戦争は絶対にしてはいけない。戦争によって、過ちや、惨事を生み出してしまう。―

 二年D組の白鳥真隆しらとりしんりゅうは机に突っ伏していた。空腹が白鳥を襲い、精神を乱している。白鳥は理科思考部に所属していて、生物の研究をしている。理科思考部の二年次は多いため、戦争をしたら圧勝なのではないかという考えが頭をよぎるが、頭を振って気を取り直す。はたまた理科思考部は「科学」の力を駆使すれば、圧勝なのではないかという考えも頭をよぎるが、必死に気を取り直す。すると、クラスの中で、一人の男子が大声を上げた。

「もうこんなのやってらんねえよ!ふざけるな!部活動同士で戦って、勝てばいいんだろ?じゃあもうぶっ倒してやろうじゃねえか!ソフトボールの力をなめるなよ?」

 彼はソフトボール部の橋本亮。体はごつく、ソフトボール部の中でもエースである。その上頭に血が上りやすいこともあって、少し暴力的な生徒である。そのため、周りのほとんどの生徒は、黙り込んでしまった。しかし、黙り込まない生徒もいた。

「ああ!やってやろうじゃねえか橋本!一緒にぶっ倒そうじゃねえか!日頃のストレスがお前らに対してたまってんだよ!」

 同じソフトボール部の男子が、声を上げた。クラス内は非常に険悪な雰囲気である。すると、宣戦の合図でもするかのように、橋本が机を蹴り飛ばした。

 バンッ!

 その音と同時に、恐怖におびえた生徒たちが立ち上がり、壁に寄り始めた。悲鳴を上げている生徒もいる。その生徒たちを見て橋本は、

「何怖がってんだよ!」

 ガタンッ!

 次は椅子を蹴り飛ばした。生徒たちは流れ出すように教室から逃げて行く。そこで白鳥は必死にソフトボール部たちの興奮を押さえようとした。しかし、D組には三人もソフトボール部がいる上に、情熱的であるため、もう遅かった。

「ねえ、橋本くんたち!」

「うるせー!」

 話の途中で白鳥は平手で殴られた。とてつもない痛みが白鳥を襲う。もう、逃げるしかなかった。この三人には、いくら頑張っても一人では勝てない。白鳥は、痛む頬を押さえながら教室から出た。


 D組の生徒たちが逃げ出してから、A、B、C組は騒ぎ始めた。廊下を急にD組の生徒たちが走り去っていったからだ。叫び声や走る音が教室まで響いてくる。その音を聞いた生徒たちも、恐怖におびえた。すると、思わぬ人が声を上げた。

「もうやだー!」

「新島...」

 野犬が思わず声を漏らした。いつも真面目な性格の新島がパニックになったことで、他の生徒も耐えられなくなってしまった。「うわー」「きゃー」というような悲鳴が、クラス内に響く。ついに、教室から生徒が逃げ出してしまった。A、Cの生徒も、すでに教室から逃げ出していた。

 ソフトボール部は、校庭の端に集まり始めた。そして、バットやボールを持ってきていた。いつもは部活で活躍する道具が、あっという間に武器に早変わりしてしまった。

「もう俺たちの勝ちだな。バットを振り回していりゃあなんとかなるぜ。」

 ソフトボール部一同は、もう正気ではなかった。

 ソフトボール部が集まり始めると、続けて頭脳派、理科思考部が集まり始めた。 しかし、理科思考部は、他の部活を襲うことが目的ではなく、ソフトボール部の暴動を止めることであった。

「ソフトボール部だけなら、まだなんとかなる。たしか、ソフトボール部は十人弱だから、十六人もいれば止められるかな?」

 白鳥は、まだ痛む頬を押さえながら、理科思考部の生徒に呼びかけた。が、野犬はそれには賛成しなかった。

「そんな風に他の部活を止めようとしたりするから、部活動戦争が始まってしまうんだよ。だから、説得から始めよう。武力でおさえようとしても、状況が悪化するだけだよ。」

「わかったそうする。」

 白鳥は渋々答えた。


 そして、理科思考部一同は、校庭に向かった。そこには、浜田、橋本など、体力自慢の生徒ばかりいた。ソフトボール部員と、理科思考部員が数秒見つめあってから、

「ねえ、暴力で解決しようとしないで、みんなで話し合って、学校から抜け出す方法を一緒に話し合おうよ。最初はうまくいかなくても、話し合いを進めれば、いつか解決の道が見えてくるよ!ね。喧嘩は止めよう」

 と、優しい口調で野犬は説得を試みた。しかし、ソフトボール部は聞く耳をもたなかった。すると、

「うるせえな!きれい事ばかり言ってるんじゃねえよ!」

 橋本がそう言った瞬間、バットを振りかざした。近づいて話していた野犬の方にバットが向かってきた。必死によけようとするが、不意を突かれたようで、完全によけきることができなかった。バットの先端が、野犬の左肩に当たる。

「奥野!」

 あまりの衝撃に白鳥はあだ名ではなく、本名で呼んだ。それを見て、高端が、

「おい、橋本!何してるんだよ!暴力はよくないぞ!」

 普段高端は寝不足でおっとりしているため、その声には威厳がなかった。それをみかねて、橋本の闘志が燃えさかった。

「言うだけ言っとけ高端!もう話し合いなんてする気はないんだよ!」

 橋本は、野犬を心配する白鳥に向かって、またバットを振りかざした。それと同時に、他のソフトボール部員も、バットを持って、襲いかかってきた。


 

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