影と戦う者たち
秋月未希
プロローグ
「はぁ……はぁ……」
カイリという名の青年は、氷のナイフを片手に、息を切らしながら走っていた。どうしてこういう時に限って、雨が降ってくるのだろう。
街灯の光が、雨に当たって、キラキラと輝いている。
服が濡れて思うように手足が動かない。体力も消耗される。だけど、ここで立ち止まる訳にはいかない。
カイリはひたすらに、追いかける。『影』に取り憑かれてしまった人を。
カイリはやがて『その人』に追いつく。背中に容赦なく蹴りをいれて、馬乗りになった。
『その人』は抗う。爪や歯をむき出しにし、目を血走らせ、死にたくないというように、カイリに敵意を向ける。
『影』に取り憑かれてしまった人は、もう理性はなく、自我もない。ただ凶暴になり、人に危害を加える。
だから、殺すしかない。
「大丈夫だ。すぐに終わるから」
そう言うと、カイリは氷のナイフで『その人』の首を切った。
『その人』は、悲痛な叫び声をあげた。
心が痛む。 でも、殺さなければ、誰も救われない。
『その人』は、やがて静かになっていく。血が地面に滲んでいる。
カイリは氷のナイフをしまって立ち上がり、悲しそうな目で、横たわる『その人』の死体を見た。そして、手を合わせる。
たちまち死体は、夜闇の影と一体化していき、その場には血溜まりだけが残った。
カイリは全身の力が抜けたかのようなフラフラとした足取りで、家に帰ろうとした。しかし、途中で力尽きて、公園のベンチに倒れ込んだ。
頬に当たる雨が痛い。身体的にも、精神的にも疲れた。
本当に、どうしてこういう時に限って、雨が降るのだろう……
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