少年

ザワザワと、うるさい教室。

いや、いつもうるさいのだが、いつもはガヤガヤといった感じだ。


そんなことはいい。そんな日もあるだろう。

それよりも気になるのは、ほぼ全員の顔から、「笑顔」が無く、代わりに「焦り」「困惑」等の顔で溢れているのだ。

あまりにも不自然。山に鮮魚がいるくらい不自然だ。


「ね、聞いた?この騒ぎってさ……」


と、僕の前に女子が二人通った。

丁度良い、少し聞いてみるか。


「おい」


「ヒャッ」


「……その反応は無いぞ。」


いきなり話しかけた僕も悪かったが、割とビビられてしまった。それもただのビビり方ではなく、お化けでも見たような反応。意外と心にくるな。心に60のダメージ。

備考:タンスの角に小指をぶつけた時のダメージは10000000。


「ご、ごめん……」


「まぁいいけどさ。ところで、この騒ぎは一体なんだ?」


そう言うと彼女は驚いた仕草をし、


「え?知らないの?実はね―――」


と、この状態となった原因を語り出した。


「――なるほど。そうゆう事があったのか……それなら、この状態になるのも合点がいく。分かった。ありがとう。」


「そう?」


「……止めないのか?友人なのだろう?」


「いやー、この前喧嘩しちゃって。」


「喧嘩とか、関係無いだろ。友人が死のうとしているのだぞ。」


そう言うと、彼女はハッとした顔になった。


「……分かった。行ってくる」


そう言う彼女の目は潤んでいた。


「どこに?」


「もちろん、止めに行くのよ。友達なんだから。」


「……そうか。」


走っていく彼女を見送り、呟く。


「まったく、ここで心中とか勘弁して欲しいな。」


結局、この状態の顛末は、1人の少女が屋上で飛び降りを図っていることのようだ。

しかもその少女は先程の女の友達らしい。

原因は、おそらく部活の顧問との事。

その顧問は僕でも聞いた事があり、かなり悪名高い人物だ。


顧問室に呼び寄せセクハラ紛いのことをしている、と言う噂があり、実際に被害を受けた生徒も多く居るらしいが証拠不十分との事だ。


その顧問は他の教師からの信頼が厚いようだ。


転校すればいい、と思うのだが、まあそこは当事者にしか分からないなにかがあるのだろう。


で、耐えきれなくて飛び降りと。

精一杯の復讐のつもりだろうが、効果は無いだろうな……この学校脳筋だし隠蔽するだろう。


さて、ひろ〇きの本でも読みますか。


と、本を机に広げた時、ザワザワしていた生徒たちが僕の後ろを指差ながら、悲鳴を上げた。


なんだ?と窓の方を見るとそこには、逆さまに落ちていく少女がいた。


目が合った。


僕は彼女の瞳を見た瞬間、明確に、





恋に落ちた。




そして、









失恋した。





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