第12話 エスコートと聖女の力
「――あの、ギルバート様……本当にいいんですか?」
「何度も言っているだろう? 今日は、君のエスコートをしたい」
今夜はいつも以上にキラキラしているギルバート様と一緒に歩いている。いつもなら、2人で夕食を共にしている時間なんだけど……
「ですが、お仕事あるって聞きました。王宮内の警備するって」
「君の方が大切だ。それに国王やノアも了承済みだし、優秀何部下も沢山いる」
それを言われたら何も言えない……けど。
「……それに第一、俺がメルのそばにいたいのだ。メルは違うのか?」
「そんな、わけないです! 私も一緒にいたいですけど……」
「ならいいだろう。さぁ、私の姫」
「ひ、ひめっ!?」
なんでそんな恥ずかしいセリフをサラッと言えちゃうの!?
私はこんなにドキドキしてるのに、言ってる本人はほぼ無表情って……
「……早く王宮料理食べたいんだろう? 腕組んで」
ギルバード様が腕を差し出す。私は、腕の内側に軽く手を添える……んだよね、これで合ってるのかな。
「上手いな、他の令嬢に劣らない。幼い頃から教育を受けてるようだ」
「ありがとうございます。始めたのはこちらに来てからですのでまだまだ勉強中の身です」
「謙虚だな、メルは笑っていてくれたらいい」
「はい」
この世界の礼儀作法・教養を学んだ上で分かったことは男尊女卑だということだ。女性は一歩下がり、男性を立てる……という日本とは違い女性は花のような存在で、まるで絵本の中の姫と騎士のような感じだ。
「両陛下と王太子殿下に挨拶に行こう」
「はい。アイリーン王女様はこの場にはいらっしゃらないのですか?」
「あぁ、主役だからな一番最後に婚約者殿と会場入りされる」
「そうなんですね」
私とギルバード様は、両陛下と王太子殿下に挨拶に行った。王妃殿下はあまりいい顔はしなかったが、国王様に挨拶出来て一安心だ。
「メル、今からは自由だ。食べに行こう」
「はい!」
立食パーティーのように綺麗なテーブルに料理が並べられていて、美味しそう。さすが、王宮……キラキラしてる。
「ケーキも食べようか、王宮の専属菓子職人のだからうまいよ」
「楽しみです」
ギルバート様と一緒にケーキを取りに行こうとすると、歓声が上がった。その中心にはリー様とウィリアム王子がいる。
周りから「あれが婚約者のウィリアム王子ね、かっこいいわ」「美男美女でお似合いね」と言った声が聞こえる。本当に美男美女……。美男美女って言葉は二人のためにあるんじゃないかと思うくらいに。
「挨拶に行かなくていいんですか?」
「これだけ人がいたらいけないだろうな……お二人の姿が見られたし、そろそろ――」
ギルバード様の声を遮るように「キャァ――!」と叫び声が聞こえた。その声の先には、倒れている男性とその男性を揺さぶる女性……それはウィリアム王子とアイリーン王女だ。私が何も出来ずにいると、会場内は黒いモヤに包まれる。
「これは……」
「なんでこんな場所に」
皆は口を押さえていて吸い込んではいけないものらしい。それはギルバード様も同じみたいだ。
これ、確か……どこかで。そうだ教養の授業で、瘴気によって汚された人が周りを巻き込んで死者を数十人出したとか……だけどそれを数十人だけにして救ったのは――……
「――聖女の、力」
聖女の力を使うのは怖いし、本当にその力が使えるのか分からない。だけど、この場にいてもなんの影響もない。ってことは私が聖女だからだと思う。
来たばかりの頃の閉じこもっていたあの頃とは違う。今は大切な人がいる……なら、やることは一つだ。
私は両手を組む。読んだ記述通り目を瞑ると髪がふわふわと舞い出し、光が現れた。
「聖女メル・フタバ・セダールントの名において、この空気を浄化せよ――」
――お願い、みんなを助けて。
――どうか傷つく人が、一人もいませんように……。
「……っ……」
目を開けると、さっきまでの真っ黒なモヤは全く無くなっていて周りの人も、ウィリアム王子も無事みたいだ。よかった……。
安心したのか、力が枯れたのか分からないが自分でも倒れると思った時には私は意識が遠のいていた。ただ、ギルバード様の私を呼ぶ声だけは私の耳に響いていた。
***
「メル・フタバよ。起きたかい?」
「……え、だれ」
私は目が覚めると、ふわふわのベットで寝ていて目の前には美男子がいらっしゃる。
「私かい? 私は、この世界の神だ。君をこの世界に落としたのは私だ」
「え? 神様? 落とした?」
「まあ、混乱するのも無理はない。今の君の状態は意識不明だ」
「意識不明?」
少しずつ思い出してきた。瘴気を祓おうと本で見た聖女の力とやらを実践して……それから。
「結構危険な状態だ」
「私、死ぬんですか?」
「いや。死なない……私が助けることもできる。君は異界人だからな」
へえ〜……
「じゃ、治してよ」
「それはいいんだが、君を治療すれば故郷には戻れなくなる」
「故郷って、日本? この世界に来た時点で帰れないんじゃ?」
記述でもそんなこと書いてなかった。
「いや、帰れる。他の聖女が
「帰った人はいないってこと?」
「私の記憶の中ではいない。もし、戻ったらこの世界のことは全て忘れる。実際、今あっちの世界では行方不明として存在している。こちらにいると言うなら、あっちの世界では“双葉メル”という人間は存在自体なくなる」
あっちに帰れば、この世界のことを忘れる。ということは、もうギルバード様のことも初めて経験した恋心も全て忘れてしまうということだ。
だけど、こっちにいればギルバード様と一緒にいられる。
「さあ、どうする? 君は、何を選ぶ?」
「私は――を選びます」
「本当にいいんだな? 後悔しないな?」
私は、頷くと神だと言った彼は私の額に親指を当てトンっと押した。すると、風が吹き着ているワンピースが揺れた。
「またな、メル・フタバ。この世界の者たちを頼むぞ」
そう言って神様は消えていった――……。
「……ん……っ」
私が目を開けると、目の前には心配そうに見つめる彼だった。
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