言葉の通じない異世界に放り込まれた俺は、いかにして世界を作り替えたか

変愚の人

プロローグ

異世界転生すれば全てバラ色、ガキどもが読むラノベやらなんやらじゃ、そんなもんが流行ってたらしいな。

まあ俺も、現実世界じゃ大したことはなかったわけだがな。……おっとすまねえな、気が利くねえ。

ここに来てどれぐらいだ?ほお、1年か。

言葉は?やっと片言か、まあしゃあないな。言語体系が、大分違うしな。

日本人の「落ちもの」は、まあまあ珍しいけどな。俺もここに来て3、4……42年か。その間に20人は見てねえな。

向こうの世界に戻りたいかって?うーん、もう思わねえな。もうこっちに生活基盤あるしな、それに空間の流れが歪んでるんだろ?戻ったらたった1年しか経ってねえとか、どうしようもねえじゃねえか。


おいおい、泣くなよ。ホームシックか、まあ辛いわな。大丈夫、元の世界に帰る手段はある。口利きは、俺がしてやるからよ。

優しいんですね、だと?ハハッ、当たり前のことをしてるだけよ。それに俺は、善人じゃねえぜ?こっちに来て、色々悪行もやった。

人も、まあ結果的に結構殺しちまったな。「落ちもの」の同胞を、手にかけたこともある。地獄があるなら、まあ地獄行きだな。だから、老い先短いこの人生の、せめてもの罪滅ぼしよ。


……おっとっと、あんがとよ。うめえだろ?その酒。俺が作り方、教えたんだよ。そのソテーも、テリーヌもだ。まあ来た当初は、ろくなものなかったからな。

まだまだこの世界はクソだが、それでもちったあマシになった。食い物だけじゃなくな。

実際、1年いてどうよ?ほお、女主人か。惚れたか?……ハハ、正直だねえ。何だよ、結構楽しそうにやってるじゃねえか。

まあ、住めば都になるかもしれねえぞ?もっとも、そう俺が言えるようになったのは、この20年ぐらいかねえ。

「落ちもの」がそこそこ普通に生きられるようになったのは、結構最近なんだぜ?昔はそりゃあ酷かった。人権もクソもなかったからな……


昔話を聞きたい、ってか。まあ俺も随分落ち着いたからな。酒の肴にでもしてくれや。

あれは土砂降りの夜だったな……今でも、ここに「落ちた」日のことは忘れねえよ。


長くなるから、まずはさわりだけな?じゃあ、話すとすっかね……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る