第206話 宰相からの課題
※今回は新川恭一目線の話です。
クラスメイト七人が集まった翌日、俺と三森、霧風の三人は宰相ユド・ランジャールを訪ねた。
これまで以上に積極的に、ユーレフェルト攻略を支援するという意思表明のためだ。
それと新しく築かれる王都に、俺達七人の生活基盤となる土地の確保を要請した。
霧風から俺たちの計画を聞いたユドは、いくつか質問を投げかけてきた。
「皆さんは、ユーレフェルトという国が無くなることに反対なさらないのですか?」
「正直に言って、ユーレフェルトには良い思い出よりも悪い思い出の方が多いです。確かに世話になった人達もいますが、国が無くなったとしても人が消える訳じゃないですからね」
「なるほど……ですが、王族の方々は状況次第では命を落とされる可能性もありますよ」
「そうですね。ですが、それは俺たちが協力しなくても、いずれ起こることですよね?」
「状況次第ですが、フルメリンタから攻めこむ可能性はあります」
俺からすれば可能性があるどころか、ユドは虎視眈々と機会を窺っているように見える。
「でしたら、俺たちは極力人的な被害を減らし、短期間で戦闘が終結するための献策をして、世話になった人々が命を落とさずに済む道筋を見つけたいと思っています」
「そうですか。私としては、皆様方には今後もフルメリンタのために助言をお願いしたいと思っております。拠点となる土地の提供もするつもりです。なので、お三方には提供する資料を基にして作戦を考えていただきたい」
ユドの話では、既にフルメリンタ侵攻の計画を練り始めているそうだ。
今回の戦いも銃や大砲を使った戦術が主力となるので、異世界から来た俺達の作戦にも少なからぬ期待が寄せられているらしい。
ユドから提供された資料は、コルド川西岸地域の主要な都市と街道を記した地図、予想されるユーレフェルト、フルメリンタ双方の戦力、提供が可能な銃と大砲の数、弾薬の数などが記されていた。
その他にも、領地を治める貴族がどの派閥に属していたのか、どのような性格をしているのか事細かに記されている。
それらの資料を基にして、俺たちに求められたのは戦力の配分、銃や大砲を使った戦術などに加えて、一番肝心な事だった。
「今すぐユーレフェルトと戦をするつもりはありません。そうですね……夏の終わり頃までに計画を詰めていただければ結構です」
先の戦いで、コルド川東岸地域が疲弊しているので、フルメリンタとしては秋の収穫が終わるまでは動くつもりは無いらしい。
俺たちは、宰相ユドから出された課題を抱えて帰宅した。
「作戦の立案は主に俺と三森が担当して、そこに霧風達の意見を加える形でいいか?」
「俺は異議無しだ、霧風は?」
「俺も異論は無いよ」
霧風には、貴族や金持ち相手の痣消しの仕事がある。
俺と三森も軍部などのアドバイザーの仕事はあるが、時間的な余裕はあるし、現場とのコネもあるから俺達がやった方が良いだろう。
「ぶっちゃけ、銃と大砲を量産してるみたいだし、負ける可能性なんて限りなくゼロに近いとは思うが、極力短期間で終わらせて俺たちの存在をアピールした方がいいだろう」
「だったら、初戦だろう。ユーレフェルトの連中が待ち構えている所を圧倒的な力で捻じ伏せれば、戦意喪失させられるんじゃね?」
三森の言う通り、前回の戦いでも城の門を砲撃で粉砕して、散弾銃を抱えた連中が雪崩れ込むと、籠城している連中は呆気なく敗北を認めて領地を明け渡した。
今回は国の存亡がかかっている戦いだから、前回のようにはいかないかもしれないが、それでも初戦の派手な勝利は、その後の戦いを優位に進める力となるだろう。
「宣戦布告して、何月何日の何時から攻撃を仕掛ける、住民はそれまでに避難しろ……とか使者を送って、指定されている時間に圧倒的な勝利を収めれば、人的被害も最小限で大きな戦果を得られるんじゃないか?」
「一番効果的なのは、霧風が言ったやり方だろうな。問題は開戦の理由だな……」
これまで俺たちが経験した戦は、いずれもユーレフェルトが先に仕掛けて、フルメリンタが反撃する形で進められている。
一度目は、俺達クラスメイトが仕掛けた中州への奇襲。
二度目は、俺と三森が中州に配置されてすぐに起こった理由なき攻撃。
「二回とも国王に無断で攻撃したんだろう? 第二王子派って、馬鹿の集まりなのか?」
「そうだと思うぞ。俺をフルメリンタに引渡すと決めたのも第二王子派だしな」
三森と霧風が呆れているように、二度の戦の引き金を引いたのはユーレフェルトの第二王子派だが、現在は壊滅状態らしい。
ユドから聞いた情報では、第二王子、第一王妃、第一王女は死亡、旗頭だったエーベルヴァイン公爵家も取り潰されたそうだ。
「てかさ、ユーレフェルトを滅ぼしちゃうなら、開戦理由とかどうでも良くね?」
「いや、開戦理由があった方が、制圧した後に民衆の支持を得られやすいんじゃないか」
「俺も霧風の意見に賛成。ていうか、俺らが参加した戦場でも、反乱軍とかが協力してたじゃん」
「あぁ、そういえば、突撃要員とかに使われてたな」
俺や三森がいた戦場では、フルメリンタの部隊がユーレフェルトの反乱軍を取り込んで、武器や防具、食糧を与える代わりに最前線に立たせていた。
フルメリンタ側の戦死者の多くは、そうした元反乱軍の兵士達だ。
開戦の理由が正当であれば、反乱軍のようにこちらに力を貸してくれる者も現れる。
逆に、正当な理由がなければ、逆に襲撃される可能性もある。
「でもさ、前回、前々回みたいに、ユーレフェルト側から攻め込まれる可能性は無いよな?」
「無いんじゃねぇの」
「無いだろうな」
現在、ユーレフェルトとフルメリンタの国境、コルド川を渡る橋はセゴビア大橋だけだ。
セゴビア大橋を渡って攻め込もうとしても、待ち構えているフルメリンタの軍勢に銃撃を浴びせられて全滅するだけだ。
後は、船を使って渡るしかないが、フルメリンタも警戒監視を強めているから、見つかればハチの巣だ。
ユーレフェルトは銃も大砲も火薬も持っていないが、それらの恐ろしさは身に染みてわかっているはずだ。
例え分厚い金属製の盾を並べても、銃撃は防げても砲撃までは防ぎきれないだろう。
普通に考えるなら、ユーレフェルトは守りを固めて自分達からは攻め込んで来ないだろう。
「たぶん、宰相には考えがあるんだと思うし、既に動いてるはず。それでも考えてくれって言われたのは、自分達とは違う突飛なやり方があるかもしれないと思っているからじゃないかな」
俺や三森よりもユドとの付き合いが長い霧風の推測は正しいのだろう。
「それって、俺たちが試されているってことか?」
「そうだと思う」
霧風は俺の質問に即答した。
たぶん、霧風自身が何度も試されてきたんだろう。
「基本的な確認だけど、フルメリンタが攻め込む正当な理由なんて無いんだよな?」
「無いから考えるんだろう」
「だよなぁ……」
三森は砲撃を効果的に使う戦術とかを考えていたようだが、予想外の要求に戸惑っているみたいだ。
三森は富井との関係を見ても、ちょっと頼りなさそうに見える外見よりも意外に芯が強いところがある。
自分達の勝利のためには奇襲作戦とかも考えるが、こじ付けの理由で戦争を始めるのには少々抵抗があるように見える。
「ユーレフェルトの民衆も納得するような開戦理由なんて無理じゃねぇの?」
「前回は反乱軍とかが居たんだろう? また反乱とか起こさせればいいんじゃね?」
霧風の言うように反乱が起きていれば、敵の敵は味方……みたいな感じで取り込めるのだろう。
ただし、必ずしも良好な関係だったとは言い難い。
反乱軍の連中の様子を思い出してみたら、気付いたことがあった。
「反乱軍の連中は食うにも困っていたから反乱に加担したって言ってたよな」
「そういえば、奴らガリガリだったな」
「ユーレフェルトの王家や貴族のせいで、生活が困窮すれば反乱が起こる……霧風、なんかいいアイデア無いか?」
「お、俺? 生活に困るっていったら食糧、水、あとは……なんだ?」
霧風の言葉を聞いて、一つ頭に浮かんだ。
「塩はどうだ? 確か、ユーレフェルトの南側は独立したんだよな? 海じゃないと塩取れないよな」
「おーっ! いいじゃん、塩の流通を止める。それを王家や貴族のせいにすれば良いのか」
「でも、西の国から輸入するんじゃね?」
「そこはユドに手を回してもらって止めるように協力させれば良くないか?」
西の国がどの程度協力的か分からないし、戦後に領土の分割で揉めたりしそうだが、ユーレフェルトから手を出させる一つの方法にはなりそうだ。
これから夏に向けて塩の需要は増えそうだし、塩の流通を止める作戦を霧風を通じて進言すると共に、引き続き別の方法も無いか検討することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます