第11話

現在ルクセイア公爵夫妻は、公爵家自慢の見事な庭を並んで歩く。手繋ぎで。



(いやいやいやいや、何でこうなった!?窓から外に出ようとしたら何故か旦那様に捕まった。いつからいた?もしかして忙しいフリして、ずっと邸に潜んでた?いやそんな訳ないよ!分からない誰か助けて!)


シルヴィアの頭の中は大混乱に見舞われていた。手を引かれ歩く中、薔薇を眺めながらアレクセルが呟く。


「綺麗に咲いてますね」

「そうですね」


二人の手繋ぎ散歩を侍女達は遠巻きに、微笑ましそうにこちらを眺めてくる。


(何だか微笑ましそうにしてるけど、貴方達ここまで至る経緯知ったらドン引きだからね!?)


町の露店の串焼き食べたさに、こっそり窓から出て更に柵を飛び越えて、脱走しようとした。なんて言えるはずがないのだが。



「シルヴィアはどんな花が好きですか?ここになくて取り寄せてほしい花などはありますか?」


「好きな花ですか、花は全般に好きですね。

控えめな小さな花も好きですし薔薇園も大好きです。あと花というかハーブ」


「ハーブですか」


「ハーブは観賞用にももちろん可愛くていいですし、それぞれ色んな効能があります。薬にもなりますし、料理やハーブティーなど食べても飲んでも美味しいなんてとっても効率的です」


(思わず力説してしまった……)


「なるほど、確かに」


以外にアレクセルはシルヴィアの話を興味深く聞き入り、思案し始めた。


「では庭師に相談して空いてるスペースに、シルヴィアが好きなハーブを植えさせましょう。ああ、ハーブ園なんかもいいですね」


(私のために…?)


「そうだ、シルヴィアは青薔薇を見た事がありますか?」

「いいえ。青い花自体珍しいですよね」

「実は魔法大国の実験結果で、青薔薇の品種改良に成功したようなのです。シルヴィアの瞳の色にちなんで、庭園に植えてみたいと思うのですが、どう思いますか?」


「えっ?素敵だと、思います」

「本当ですか!良かった。早速手配しますね」

「あ、ありがとう、ございます」


嬉しそうに破顔するアレクセルに呆気にとられたシルヴィアは、そう返すのが精一杯だった。


今までシルヴィアはもしかしたら、夫から嫌われているのかもしれないという、可能性を考えていた。だが、嫌われているどころか、好意を持たれていると錯覚してしまうほど。


(天性の女タラシとか……?)


そのまましばらく二人で庭園を散歩した後、アレクセルは邸での用事を済ませてから、夕方には王宮へと戻る事となった。


「申し訳ありません。また王宮に戻らなくてはいけません」

「はい。お身体に気を付けて下さいね」

「ありがとうございます!では行って参ります」

「行ってらしゃいませ」


(初めて行ってらっしゃいが言えた……)

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