第56話 卒業パーティー

「何だか……、わたくし一瞬ドキッしてしまったわ」



「凄く素敵だけど、下のシルクが象牙色だからアレクの肌との境目が曖昧で素肌にレースを纏っているみたいに見えてしまうせいね」



「うふふ、マックスを誘惑出来てしまいそうね」



「アレクがそのドレスを纏えば誰であれ誘惑できるのではないかしら?」



「それは間違いないわ」



 話を合わせてはいるが、アレクシアは内心鏡を見た事を後悔した。



(アカン……、これ、アカンやつや……! 豚のヌイグルミにゴージャスな銀糸の刺繍入りレースのドレス着せたようなモンを人様に披露するって……、どんな罰ゲームなん!? 誰か私に鋼のメンタル下さい!!)



「あ、ほら! 下でマクシミリアン様がお待ちしているわ! 早く行かないと!」



「う……、この格好で寮の中を歩くのは恥ずかしいわ……」



「「大丈夫!」」



 モジモジと部屋から出ようとしないアレクシアを、2人はグイグイと押し出す。

 3人の中で今日の卒業パーティーに参加するのはアレクシアだけなので、リリアンとレティシアは部屋の前で手を振って見送った。



「全く……、アレクったらどうしてあんなに控えめなのかしら? わたくしは早くドレス姿を見せたくて仕方なかったというのに」



「本当に、私があれ程美人だったらもっと調子に乗ってると思うもの。でも……昔程容姿を気にせずいられるのも、あれだけ美人のアレクが見た目に頓着しないからというのもあるんだけどね。2人の前だと私も普通の令嬢になったような気になれるから感謝してるの」



「何を言っているの? 誰が何と言おうと貴方は普通の貴族令嬢よ? 容姿も以前に比べたらふっくらしたし、最近は変に絡んで来る人もいなくなったじゃない」



「そうね、あの日リリアンの家でのお茶会の為に髪飾りを買いに行ってアレクに出会ってから私の人生が変わったと思うわ。あの時はまさか公爵令嬢とこんなに仲良くなるとは夢にも思っていなかったもの」



「ふふ、わたくしもアレクと出会っていなければ今のわたくしは居ないと思っているわ。本当に不思議な子…、まるでわたくし達と見えているものが違うみたいに感じる時があるくらい……。さ、夕食までまだ時間があるからわたくしのお部屋でお茶でも飲みましょう」



「素敵な提案ね!」



 ニコルは楽しげに隣の部屋に入って行く2人を見送った後、窓から下を覗いて寮から出て来るアレクシアを待った。



「お待たせ、マックス」



「アレ……ク…………」



 声を掛けられて振り返ったマクシミリアンは笑顔で振り向き、アレクシアの名を呼んでいる最中に固まってしまった。



「マックス? どうしたの? あの……、このドレスが似合わない……とか?」



 アレクシアは恥ずかしくなってきて自分を抱き締めるように腕をクロスさせた、すると順調に成長している胸が深い谷間を作り上げる。

 その瞬間を目にしたマクシミリアンの顔は面白い様に真っ赤に染まった。



「え……っ!? マックス!?」



「あ、いや、その、あまりにも綺麗で……。誰にも見られないように今すぐ閉じ込めたいくらいだ……」



(い、言えない、素肌にレースを纏っているように見えて凄くエロいなんて……! こんなアレクを他の男の目に晒すなんて不味くないか!? ただでさえ美人で日増しに色々成長してて色気も出て来ているのに、こんなの恋敵を量産しに行くも同然じゃないか!)



 つい胸元に視線が行きそうになるのを何とか逸らし、エスコートする為に横に並んで肘を差し出した。

 アレクシアは嬉しそうに頬を染めて微笑み、差し出された肘に手を掛ける。



「えへへ、マックスになら閉じ込められたいな……なんて……」



(むしろ今すぐ閉じ込めてもろたらこの恥ずかしい姿を他の人に見られずに済むしな、誰にも見せへんようにしたいっちゅーならお願いしたいくらいやし!)



 アレクシアの言葉を聞いて、マクシミリアンがいきなり片膝をついてうずくまった。



「えっ!? マックスどうしたの!?」



「あ……、いや、アレクがあまりにも可愛い事を言うから……」



「やだ、何言ってるの! うふふ、マックスがそんな冗談言うのは珍しいわね? さ、行きましょ?」



「ちょ、ちょっと今力が抜けてしまって……、少し待ってくれ」



「そんなに驚くとは思わなかったわ、変な事言ってごめんね、マックス……」



(その姿でそんな事を言われたら……! ただでさえ免疫が無いというのに、アレクは俺の理性の限界を試しているのか!? アレクがそんな事考えてる訳無いとわかっているが期待してしまう自分が情けない……。落ち着け、別の事を考えるんだマクシミリアン!)



「あぁ、もう大丈夫、行こうか」



 マクシミリアンは何とか色々と鎮めて平静を装い立ち上がると、アレクシアと共に講堂へと向かった。

 さざ波のような騒めきが聞こえる会場で、ある講堂の扉を学園が手配した使用人がアレクシアに見惚れて頬を染めながら扉を開く。



 会場に足を踏み入れると会場がシンと鎮まり返り、マクシミリアンとアレクシアに視線が集中した。

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