第18話 王宮でのお茶会
「ああぁぁ、行きたくない……」
「全く……、そんな事言うのはお嬢様くらいですよ? 王妃様主催のお茶会なんですからね!?」
「そうですとも、私達のように年齢に見合う王子様方が居なかった者からすれば、羨ましくて仕方のない事ですのに!」
メイドであり男爵令嬢のエマと、子爵令嬢のニコルの呆れた声を聞きながらアレクシアはため息を吐いた。
今日は年に一度の王妃様主催で開かれるお茶会の日だ。
現在このラルトニア王国にはアレクシアの4歳上に王太子、3歳上に第2王子、1歳下に王女、2歳下に第3王子が居る。
そして王太子が5歳になった時から年に一度開かれる王妃様主催のお茶会に王子達と年の近い入学前の貴族の子女は必ず一度は全員招かれ、将来の側近や伴侶候補として少しずつふるいに掛けられていくのだ。
レティシアとクロードは数回で脱落したが、アレクシアとリリアンは王妃様のお気に入りとまで言われている。
身分、美しさ、優雅さ、淑女としての嗜み、どれをとっても申し分が無い上、リリアンの我儘さはアレクシアのフォローにより目立っていない。
正確に言うならば王子達の婚約者候補に入りたくないアレクシアが必死にフォローし、自分より身分の高いリリアンを隠れ蓑にしているのだ。
実際のところリリアンのフォローしている事は周知の事実で、全く隠れられていなかったりする。
事実、ただの側室・側近候補として呼ばれるのは顔合わせを兼ねた年に1度のお茶会だが、お気に入りと呼ばれる者達は毎月招待されていたりする。
数十人ずつに分けて開催されるお茶会に毎回招待されるので、誰がお気に入りか一目瞭然だ。
身支度を終えて玄関ホールに向かうと、護衛のパスカルの他にもワクワクした顔のエミールが待ち構えていた。
エミールも第3王子の側近候補として初めて王宮のお茶会に参加する為、共に向かう事になっている。
王子達が住む離宮の庭に到着すると、アレクシアは顔馴染みの令嬢達にエミールを紹介して回った。
大抵エミール程の容姿であれば6歳にして尊大な態度の者が多い中、アレクシアの教育により謙虚で見た目に左右される事なく礼儀正しい挨拶をして回るエミールはとても歓迎された。
何故か途中から合流したリリアンが自分の手柄かのようにドヤァと胸を張っていたが、どうやら自分をエミールの姉同然と思っている為誇らしかったようだ。
実際エミールも自分を可愛がってくれるリリアンを、アレクシアと同じように慕っている。
アレクシアはリリアンと共にエミールと同じテーブルに着いて歓談していると王妃と王女、そして第3王子の来場が伝えられた。
慣れている者達は優雅に立ち上がるとカーテシーや紳士の礼で王族を迎える、初参加の者も周りに合わせて礼をとると美しく着飾った3人が現れた。
「皆良く来てくれました、楽になさい」
王妃イヴォンヌが声を掛けて着席すると招待客は礼を解く、そして同じテーブルに王女オデットと第3王子リシャールが着くと初参加の者が挨拶の為に家の序列順に列を作った。
今回初参加の公爵家は居らず侯爵家もラビュタン家のみの為、エミールとつきそいのアレクシアが最初となる。
本来ならば上の者が声を掛けるまで話してはいけないが数代前に名前を覚えるのが苦手な王族がおり、最初の挨拶は下の者が先に名乗る事になっている。
「ラビュタン侯爵家長女アレクシアと三男エミールがご挨拶申し上げます」
「お初にお目にかかります、ラビュタン侯爵が三男エミールにございます。以後お見知り置き下さいませ」
エミールは普段から公爵家に出入りしている事もあり、目上の人間……王弟であるポリニャック公爵とも仲良く話す事もある為緊張する事無くいつもの人懐こい笑顔で挨拶出来た。
「まぁぁ、アレクシアの弟だから期待していたけど、想像以上に可愛らしいわね。ウィリアムより素敵に成長しそうじゃない?」
目を見開いて驚いた王妃は、目を細めて笑うとオデット王女に視線を送った。
「ウィリアム様も素敵ですがエミール様も将来楽しみですわね、弟のリシャールと仲良くしてやってちょうだい。もちろんわたくしとも」
「うん、エミール、これからよろしくな」
「ありがたきお言葉」
(おぉっとぉ、オデット様はリシャール様が私に懐いとんのを気に入らんようやったけど、エミールの事は気に入ったようやな。むしろ年下やけどロックオンされたんとちゃうか? リシャール様とエミールの相性も悪くは無さそうやしひと安心ってとこやな)
「アレクシア、エミール、挨拶が全て終わったらお話ししよう」
「「はい、光栄です」」
こうしてエミールの初めてのご挨拶ミッションは完了した、王族の方々にも好印象を残せたとアレクシアはホッと胸を撫で下ろした。
「上手にご挨拶出来て偉かったわよ、エミール」
「えへへ、アレク姉様が一緒にいてくれたおかげです」
褒められて嬉しそうに笑うエミールの頭を撫でるアレクシアの姿を、リシャール王子がジッと見つめている事にアレクシアは気付かなかった。
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