第17話 オーギュストの入学
「はあぁぁぁ」
アレクシアは何度目か分からないため息を吐いた。
「週末には帰って来てくれるんでしょう?」
「そうだけど…、平日は子供の人数が半分になってるのよ? 家庭教師の授業や剣術の訓練があるとしても暇だからお話しようと思った時にエミールしか居ないのは寂しいのよぅ」
現在はレティシアの部屋で3人だけのお茶会をしている、話題は春に学園に入学してしまったオーギュストの事だ。
ラビュタン家の庭園でセザールにキャメルクラッチをキめてから1年近く経過し、今はウィリアムとオーギュストの2人は寮生活をしている。
学園も屋敷も王都にある為、週末になると帰って来るものの自分を可愛がってくれる兄達が居ないのは寂しいのだ。
「あと3年もしたらアレクだって寮生活をするんだろう? 今からそんな状態で家族から離れられるのか?」
紅茶に口をつけながらクロードが呆れた眼差しを向けた。
なんだかんだとこの3人は同い年という事もあり、よく遊ぶので今ではお互い猫を被る事もせず砕けた話し方をする様になっている。
「寮にはレティだっているもの、自分が行くよりも置いて行かれる方が寂しいと思わない? 馬車で1時間じゃなくて10分の距離なら寮に住まなくても良かったのに…!」
「それは流石に無理ね、学園はお城の向こう側だし、周りは商人街や研究施設なんかに囲まれているもの。職場兼住居でないと住めないわ」
広大な敷地の王宮の向こう側、つまりはその分大回りしないとならない。
この位置関係は権力にモノを言わせて介入しようとするバカ親と子供達を隔離する事と、効率良く将来の職場で実習体験出来る上、身分に関わらず実力ある者を実家に邪魔されずに勧誘できるという利点がある。
「はぁぁ…、仕方ないから我慢するしか無いんだけどね…。そっか、あと3年で私達も学園に入るのかぁ、まだ3年あると言うべきかもう3年しかないと言うべきか」
「私は入学までに頑張って少しでも太るわ!」
「レティが太るのは無理じゃないか? 甘い物をいっぱい食べると気持ち悪くなるんだろ?」
「う…っ、それはそうだけど…」
「あ、そういえば…」
ふとレティと同じ様に入学前にデブ活を頑張っていたオーギュストの事を思い出した。
正確には太る為に食べていた物である、前世で世界一太る食べ物と言われたアレがこの世界には無いなと気付いて勧めてみたのだ。
食事の付け合わせとして、オヤツとして毎日食べ続けたところ、ぽっちゃりでは無いがほんのり丸くなった気がする。
「「どうした」の?」
「あのね、オーギュ兄様が少し太るのに成功したからレティも試したらいいかもって思ったの」
「どうやって太ったの!?」
令嬢にあるまじき勢いで前のめりになったせいでクロードもちょっと引いてしまっている。
「えーと、『ポテトチップス』と言ってポテトを半月状に切って揚げるのではなく、指が透けて見えるくらい薄く切って揚げて塩をまぶしたものなの」
「それはフライドポテトとは違うの?」
「う~ん、よく分からないけど薄くパリパリに揚げてある方が太りやすいみたい」
この国は所謂洋食文化で一応揚げ物も存在している、しかしレストランでスライスしたポテトを揚げて出せという客も居らず、何度もダメ出しされてブチ切れたシェフがこれでもかと薄くして揚げる事も無かったのでポテトチップスが存在しなかったのだ。
同じ様にトランプ的な物は存在してもカードゲーム好きのサンドイッチ伯爵が存在しなかった為、サンドイッチも存在していなかったりする。
「早速今日から食べてみるわ、ありがとうアレク!」
「あぁ、待って。油の温度とか厚みとかウチの料理長が何度か失敗して研究してたからレシピをこちらの料理長に書いて貰うわ。あと甘い物と交互に食べるとずっと美味しく食べられるわよ、一応ポテトチップス…略してポテチのレシピは秘密って事にしておいてね」
アレクシアはそう言って先程から聞き耳を立てていたクーベルタン伯爵家のメイド達を笑顔で振り返った。
時々やって来る美少女のお世話はクーベルタン伯爵家のメイド達にとって楽しみのひとつだった、普段は背景の様に扱われるメイド達は笑顔を向けられドギマギしながら頷く。
「あなた達がクーベルタン家の料理人に頼んで作ってもらう分には問題ないわ、でもレティのお姉様には秘密にしてね。レティが大きな交渉をお姉様とする時の切り札として取っておきたいの、無理に聞き出されそうになったら私の名前を出していいからね」
「お姉様に秘密ってどうして?」
「今後レティの知りたい情報を持っている時に交換条件として教えるとか…、そうだわ! ポテチの事をクリストフ様の為にポリニャック公爵家にも教えましょう、そうすれば内密に公爵家に伝えた物を勝手に広めて良いかどうかわかりませんって言えるもの!」
アレクシアが天啓を得たりと言わんばかりにグッと拳を握った。
「お前…、よくそんな事をポンポンと思い付くな…。というか僕も食べてみたいんだけど」
「ふ、レティに分けてもらえばいいわ。料理人は大変かもしれないけどレティが多めに作って貰える様に言えばいいでしょ? もし余っても片付けに協力してくれる人達はいるもの、ね?」
アレクシアが再びメイド達の方に振り返ると、その場に居た全員が良い笑顔でコクコクと頷いた。
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