第11話 お揃いの髪飾り

 公爵家のお茶会はリリアンのお茶会デビューを兼ねている大規模なもので、子供だけのエリアだけで100人近く居る様だった。

 アレクシアはレティシアが居ないか探したが、近くのテーブルには居ない様で見当たらない。



(これ以上令嬢達の顔と名前覚えられへん、後でお母様がくれたリストと照らし合わせて復習せんと絶対忘れるわ…。それにしてもレティはどこにおるんやろ)



「アレク? さっきからキョロキョロしてどうしたの?」



「リリアン、あのね、この髪飾りと色違いをつけているお友達が来ているはずなんだけれど見当たらなくて…」



 リリアンは再従姉妹のアレクシアをすぐに気に入り、短時間でお互い気楽に呼び合う様になった。



「その髪かざりとてもキレイだわ、この黄色い宝石とドレスの黄色を合わせているのね」



「ありがとう、これはイエローサファイアですって、とても良い意味を持つ石らしいわ」



 そんな話をしていると離れたテーブルからガシャンと大きな音がして皆の視線がそちらに集まる。

 周りの人達が動く事をやめたお陰でアレクシアからも騒ぎの場所が見えた。



「あなたみたいなブスにこうしゃく令嬢のお友達がいる訳ないじゃない、うそつき! それかどうせあなたがかってにお友達と思ってるだけでしょ、きっとその令嬢はめいわくだと思ってるに決まってるわ」



「そんな…」



 少し年上に見える身体がレティシアの2倍くらいありそうな令嬢が地面に転んでいるレティシアを罵倒していた、アレクシアは駆け寄りたいのを我慢して出来るだけ急いで、そして優雅に見える様に向かう。



「レティ、探していたのよ。大丈夫? あちらにいきましょう、あちらの人達#は__・__#優しい子ばかりだから安心よ」



「あ…、アレク…っ」



 レティシアはアレクシアを見た途端に見る見る瞳が潤み始め、アレクシアは手を差し出して立ち上がらせるとドレスに付いた埃を払って2人で立ち去ろうとした。



「ちょっと待ちなさいよ! あなた誰!?」



 怒鳴っていた令嬢は無遠慮にアレクシアの肩を掴んで振り向かせた。

 アレクシアは内心かなり怒っており、無表情のまま優雅にカーテシーで礼をすると怒りを滲ませた笑顔をみせる。



「私はアレクシア・ド・ラビュタンですわ。あなたは家庭教師を変えた方が良いのではなくて? 先程から正しい教育を受けた令嬢ならばしない事ばかりしていてよ? 人に名前を聞くならば自分から名乗るべきでしょう、しかも折角のお茶会で騒ぎ立てて場の雰囲気を台無しにして…、それにご自分で人を上辺だけでしか見ていない浅はかな人間ですと公言する様な言葉…。そんな方には友人と関わって欲しくありません、失礼します」



 同じテーブルに居た他の令嬢は怒りを湛えてなお美しい姿と、およそ子供らしからぬ物言いと他者を圧倒する雰囲気に気圧されていた。

 怒鳴っていた令嬢はあっけにとられて立ち去る2人を見送り、我に返って顔を真っ赤にして怒り出した。



「なんなのあの子! ブスをブスと言って何が悪いのよ! 生意気な子…! お父様に言いつけてやる…」



「ベアトリス様、あの子は恐らく噂になっていたラビュタン侯爵家の令嬢ですわ」



「ちょっと可愛いからって本当に生意気ですわね」



 ベアトリスと呼ばれた令嬢はアレクシアが同じ侯爵位の令嬢と知って歯噛みしたが、取り巻きがアレクシアを貶す言葉を吐く度に少しずつ機嫌を良くして落ち着いた。

 しかし公爵令嬢であるリリアンの元へ行くのを見、その姿を鋭い目付きで睨んでいた。



「アレク、大丈夫だった? その髪飾りを着けているという事はその子がお友達と言っていた子なのね?」



 アレクシア達がリリアンのいるテーブルに戻ると心配そうに尋ねられ、2人のお揃いの髪飾りに気付いて見比べている。

 アレクシアは少しだけ容姿のせいでレティシアが拒絶されないか心配したが、リリアンは次兄のクリストフで耐性がある上、#自分が__・__#可愛いかどうかにしか興味がないせいで全く気にしていなかった。



「そうよ、レティシアっていうの、とても良い子だから皆さんよろしくお願いします」



「あっ、初めまして、レティシア・ド・クーベルタンと申します」



 アレクシアがテーブルにいる令嬢達に紹介したので、レティシアは慌てて自分でも名乗った。

 そして美少女であるアレクシアに微笑まれた令嬢達はポーッとなったまま頷き、それを見たレティシアは内心ホッと胸を撫で下ろした。



 リリアンや他の令嬢達も自己紹介をして和やかな時間が流れた、幸い同席している令嬢達は親からリリアンの機嫌を損ねない様に言い含められている為、リリアンがレティシアを受け入れた以上邪険にする事は無かった。



 お開きの時間になって皆が名残惜しく思いながら席を立ち、各自親の元へ向かっている時にレティシアがアレクシアに話し掛けた。



「アレク、今日は本当にありがとうございました。あの日アレクに会わなかったらお茶会をこんなに楽しい気持ちで過ごせなかったと思います。アレクと出会わせてくれたこの髪飾りは私にとって大切な宝物です」



「そんな風に言って貰えて嬉しいわ、私もあの時レティと出会えて良かったと思うもの」



 手を取り合って微笑み、そのまま手を繋いで先にレティシアの母親の元に行くと昔はふくよかだったのだろうと思われる弛んだ肌の女性が娘に友人が出来た事を目に涙を浮かべて喜んでいる。

 話は聞いていたが親に心配掛けまいと嘘を言っているんじゃないかと不安だったと呟きが聞こえ、色々心配し過ぎて病気になったのではないかとアレクシアは思った。



 帰りの馬車でお茶会の感想を聞かれてアレクシアは母親に出来事や誰と仲良くなったなど詳しく話すと、レティシアを怒鳴っていたのは「ベアトリス・ド・ポンポンヌ侯爵令嬢」だろうと教えて貰い、ポンポンヌ侯爵家のお茶会は断ろうという話で落ち着いた。

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