第4話 常識よこんにちは
アレクシアの4歳の誕生日は家族だけでお祝いした。
食べきれない程のご馳走とスイーツが並び、家庭教師が来たら必要になる豪華な刺繍セットやお茶会の練習するための普段よりヒラヒラしたドレスやアクセサリーなど、沢山のプレゼントも貰って大満足な1日だった。
そしてその2日後、楽しみにしていた家庭教師がやって来た。
今日はまずこの国の成り立ちから学ぶという事で歴史の先生が来た、兄達を教えている先生なので顔だけは知っている人だ。
白髪に手入れされた顎髭を撫でつけながら挨拶をしてくれた。
「ご挨拶するのは初めてでしたな、ジュスタン・ド・コロニーと申します。子爵でしたが今は家督を譲ってのんびり家庭教師をして老後を楽しんでおります。こんなに可愛らしいご令嬢を教える事ができるとは役得ですな、フォッフォッフォッ」
ジュスタンは自己紹介をすると楽しげに笑い出した。
アレクシアはこんなちびっ子にまでリップサービスをするなんて、若い頃遊び人だったんだろうなという印象を受けた。
「初めまして、コロニー先生。アレクシア・ド・ラビュタンですわ」
アレクシアが見様見真似のカーテシーで挨拶すると、眩しいものを見るように深い青色の目を細めてにっこり笑った。
「これはまた……小さくとも立派なレディですな。ワシの事は是非ジュスタン先生と呼んで下され、稀に学園で教師をしている息子が助手をしに来ますのでな」
「わかりましたわ、ジュスタン先生」
そして始まった授業では頭をぶん殴られたような衝撃を受けた、そしてそのお陰で今まで感じていた違和感の正体が判明したのだ。
この国が出来た1500年程前の事、当時は人口の半分が魔法を使えていた。
魔法は生活を支え、そして豊かにした。土属性の魔法があれば農作物も豊作が約束されていたし、狩りも攻撃魔法で簡単だった。
そして全ての人達がいつも食べたいだけ食べる事ができ、ふくよかな身体は裕福な証でステータスという考えが浸透したが、逆にそんな過度に栄養を摂取する生活を続けたせいでいくら食べても太りにくいという体質に人類全体がなっていった。
しかも信仰している神が美と豊穣の女神で、絵を見せて貰ったがアレクシアを大人にして更にでっぷりと脂肪を蓄えたような見事なぽっちゃりさんだった。
人類が太りにくい体質になっても一部の人はふくよかな身体を持って産まれており、美しさの象徴としてもてはやされて平民であっても貴族の妾や側室に迎えられていた。
その事もありふくよかな身体を持つ者は王侯貴族に多く、そして体質的にふくよかな者は筋肉がしっかりついているのが特徴でもある。
太りやすい食べ物で無理やりふくよかな身体を作ると、脂肪のみでふれるとぶよぶよとした身体になるので触れればすぐに違いがわかってしまう。
アレクシアは誰もが羨む生まれつきふくよかな身体で、その体質は母親譲りらしい。父親のオレリアンは食べて体型維持しているタイプなんだとか。
更に髪と目の色、これは先祖達が濃い色程強力な魔法を使っていたと文献に残っているので、濃い色程ステータスになる。
特に黒髪黒目は女神と同じで皆の憧れという。
これもやはり見た目を求める王侯貴族に好まれるため平民には
そして追い討ちをかけるようにジュスタンはアレクシアの見た目を褒める、細くてセクシーな切れ長な目、それを縁取るスッキリとした短い睫毛、低い鼻、情の深さを表すぶ厚い唇、下膨れで白い肌、どこをとっても美人の条件を満たしていると。
そしてオーギュストの事を人格は素晴らしいが、見た目だけが残念で惜しいとも。
(え? 嘘やん、まさかアレなん? 美醜逆転ってやつ? それか美的感覚が平安時代…、もしかして足短い方がカッコイイとか言わんよな? それにしてもこの糸目を切れ長でセクシーって…、
嫌な汗が背中を流れた、ゴクリと唾を飲み込んで恐る恐るジュスタンに質問する。
「あの、先生…? 私を褒めてくださるのは嬉しいですが、素敵な男性の条件はどんなものなんですか?」
「そうですなぁ…、ウィリアム様はかなり理想的と言えますな。ふくよかな身体に目もかなり細いですし、重心が低く安定感のある短い脚…いやぁ、アレクシア様といいラビュタン侯爵家は将来楽しみですな」
アレクシアは今が座学で良かったと心の底から思った、もし今立っていたらきっと雷の時のようにショックで倒れていただろう。
クラクラする頭を叱咤しながらその後も授業を受けたが、この世界にはエルフが存在するという。
エルフは魔法ではなく精霊術を使う事が出来るらしいが、精霊と契約する過程で銀髪に濃い緑の目になってしまうという。
そして基本的に森に住んでいてほぼ草食なせいで細身が多く、見た目が悪いと敬遠されるらしい、しかし街に住んでいるエルフは食生活の違いですぐに太れる羨ましい体質なお陰で長く街に住んでいるエルフ程モテるとの事。
怖いもの見たさで太ったエルフを見てみたいものの、今まで抱いて来たエルフのイメージをブチ壊されるかと思うと出会わない方がいいのだろうかとも思う。
「しかし最初の反発が大きいせいで大抵はすぐに森に帰ってしまいますから、街にいるエルフは確固たる信念を持っているか余程の変わり者というほんのひと握りだけですな。さて、今日はこの辺にしておきましょうか、また次は3日後ですな」
「はい、ジュスタン先生ありがとうございました」
始終興味深く話を聞いていたアレクシアに機嫌を良くして、ジュスタンは帰って行った。
そしてオーギュスト兄様やメイドのソフィーに周りが冷たい理由もわかってしまった。
美と豊穣の女神がアレなせいで、その正反対な細身で手足が長くて目鼻立ちのはっきりした人達は女神と敵対する者の様なイメージを持たれて蔑まれてしまうようだ。
憂鬱な気分になったアレクシアはオーギュストに甘えに行き、ヤキモチを焼いたウィリアムに引き剥がされてしまうのだった。
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