第2話 何か……変?

「さすがウィル兄様、物知りなのね!」



「ははは、僕はもう家庭教師が付いて色々勉強してるからな。知りたい事があれば何でもお兄様に聞いていいぞ」



 あれから目を覚まして情報収集相手として目をつけたのは、お見舞いに来てくれたラビュタン侯爵家の長男であるウィリアム。

 現在8歳だが普通4歳から家庭教師がついて、マナー等をひと通り学んでから5歳でお茶会デビューというのが通例なので、当然アレクシアより色々知っているのだ。



 ちなみにアレクシアとよく似たぽっちゃりさんで浮腫むくんだような顔をしている。

 アレクシアと同じく蝶よ花よと育てられた坊っちゃんなので少々高慢な態度が鼻につくが、優秀である事は間違いない。

 それに妹であるアレクシアをそれはもう溺愛してくれているので、嫌いにはなれない。



 ウィリアムの話によるとこの世界に魔法はあるらしい。

 ただ先祖返り的に魔力量の多い者しか使えないため、国に数人しか居ない。

 数百年前にはゴロゴロ居た魔法使いも時代と共に減り、その代わり誰もが体内に保有しているわずかな魔力で動かせる省エネ魔道具の開発や魔獣からとれる魔石を利用する方法が研究され発達した。



(くぅっ、記憶と共に魔力が溢れて聖女扱いされるとかやってみたかった……、せやけどこの見た目で聖女とかゆーたらドン引きされるやんな……。まぁ、記憶取り戻したお陰で勘違いブス一直線を阻止できただけでも儲けもんと思うしかないな)



「どうした? まだ気分でも悪いのか? 水を持って来させようか、それとも果実水の方がいいか? アレクシアが倒れたと聞いた時は僕の心臓が止まるかと思ったんだぞ」



 うんうんと頷いて1人で納得していると、怪訝けげんな顔をしたウィリアムが声を掛けて来た。

 見た目と性格がちょっとアレだが、前世の兄弟に比べたら凄く優しい兄である。

 その時ノックが聞こえて次男のオーギュストと、飲み物を持ったメイドのアネットが入って来た。



「アレクシア、体調はどう? 果実水を持って来たから飲むといいよ」



「わぁ、オーギュ兄様ありがとう! 今ちょうどウィル兄様が飲み物を準備してくれようとしていたところなの」



「ハッ、お前も来たのか、お前の不細工な顔を見たらアレクシアの具合が余計に酷くなってしまうだろう。だからお前は来なくていいんだぞ」



 ウィリアムは鼻で笑い、不細工と言われた6歳のオーギュストは口惜しそうに下唇を噛み締めて俯いてしまった。

 しかしオーギュストはウィリアムに比べてイケメン、しかもスタイルだって普通にスッキリしている。

 確か父方の祖父に凄く似ているのだが、思い出してみると以前から何故か祖父やオーギュストを自分を含めた周りは粗略な扱いをしていた気がする。



「ウィル兄様酷いわ、オーギュ兄様は私を心配してお見舞いに来てくれたのにそんな意地悪言うなんて…」



 悲し気に眉を下げて訴えるとウィリアムは慌てて言い繕う。



「いやっ、僕はアレクシアのためを思って…! アレクシアだってあんなギョロっとした目とか、ヒョロっと蜘蛛みたいに細い手足は見たく無いだろ!?」



(なんじゃそりゃ!)



 言われてオーギュストに視線を向けると、見られた本人はビクッと身体を強張らせた。

 オーギュストの見た目は髪と目はウィリアムと同じ茶色、しかし顔立ちはパッチリ二重にスッと通った鼻筋、唇は見事にタラコだけど、身体付きも子供らしさを持っていつつシュッとしている。



「ウィル兄様? オーギュ兄様の目はギョロっとしているんじゃなくパッチリしているんです、手足もヒョロっとしているんじゃなくシュッとしていると言うんですよ?」



 コテリと首を傾げてウィリアムの顔を覗き込むと目を瞬いている。



「シュッて何だ? それにパッチリだなんて言い方してるが、同じような意味じゃないか」



「えぇ!? 全然違うわ! ウィルお兄様のは悪口だけど、私のは褒め言葉よ? あとシュッっていうのは……え~と……細いというか……素敵?」



「ははは、アレクシアはあまり言葉を知らないんだな、まだ3歳だから仕方ないか。パッチリも細いも褒め言葉じゃないぞ?」



 ムッとするアレクシアを可笑しそうに笑いながら、ウィリアムが頭を撫でた。

 オーギュストはさっきまでこちらを見ていたが、また俯いて下唇を噛んでいる。



「もうっ、とにかく私が言いたいのはオーギュ兄様も素敵だって事よ! 妹を心配して飲み物を持って来てくれる優しいお兄様だわ! 意地悪な事言うウィル兄様より素敵なんだからね」



「わかったわかった、そう興奮したらまた倒れるぞ。全く……アレクシアは姿形だけでなく心まで美しいんだな。時々わがままになるがそこもまた可愛いし……さては天使だな?」



「なんでやねん」



 ありえないべた褒めにアレクシアは思わず手の甲でビシッとウィリアムの肩を叩いてツッコミを入れてしまった。



「「「……………」」」



 三者が戸惑うあまり気まずい空気が流れたが、アレクシアは無かった事にしてオーギュストに声を掛ける。



「オーギュ兄様、私果実水が欲しいわ。ちょうだい?」



 アレクシアはちょっと強引だがあざとく可愛子ぶっておねだりしてみた、ぶちゃいくだけど幼児ならブサカワで許されるだろう、と。

 そんなアレクシアの言動に兄2人は相好を崩して争うようにお世話してくれた。



 部屋の隅に控えるアネットがそんな兄妹を眩しそうに目を細めて見守っている事に、アレクシアは気付かなかった。


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