美醜逆転!? ぽちゃり令嬢のビボー録【完結】

酒本アズサ@自由賢者2巻発売中

第1話 プロローグ

「せっかく今日は花だんの前でしょうぞうがを描かせるよていだったのに、どうして雨なんかふるのよ!」



 窓から大雨の降る外を睨み付ける様に見ていた3日後に4歳となるラビュタン侯爵家の1人娘、アレクシアが地団駄を踏みながら憤慨していた。



「アレクシアお嬢様、そんなに怒っていては花の精のように愛らしいお顔が勿体無もったいないですわ。先程アネットがこの王都で1番人気のチョコレートケーキを買って来ましたから、お茶に致しましょう」



 今朝雨が降っていた時点で予定の狂ったアレクシアの機嫌が悪くなるのがわかっていたため、メイド長が命じてご機嫌取り用のケーキを買いに行かせていたのだ。

 不機嫌そうな顔をしながらも王都で1番人気のチョコレートケーキと聞いて、テーブルに向かって歩き出した。



「あ……っ」



 カチャンと陶器のぶつかる音がして、部屋に居たメイド達の視線が紅茶を淹れていたメイドのソフィーの手元に集中した。

 そこには手を滑らせてティーポットをカップの上に落とし、こぼれた紅茶で濡れたチョコレートケーキが。



「ああーっ、何やってんのよ! せっかくのケーキがだいなしじゃない! あなた見た目が悪いだけじゃなく仕事もまともに出来ないのね、そんなかんたんな仕事も出来ない人はこの侯爵家のメイドとしてふさわしくないんじゃないの!?」



「も、申し訳ありません! すぐに新しいものをお持ちしますので」



 泣きそうになりながら零れた紅茶を拭いているソフィーを見てせせら笑った次の瞬間、視界を真っ白に染める程の光が室内を照らし、直後の屋敷を揺るがす程の大きな雷鳴で雷が庭に落ちたとわかった。



「「「きゃあぁぁーっ」」」



 落雷の轟音を聞きながらフラッシュバックのように蘇る前世の記憶。

 メイド達が耳と目を塞いで悲鳴を上げる中、アレクシアは脳裏に蘇る記憶に混乱していた。



(私知ってる、こんな真っ白な空間を、死んだ後に見た光景……。死んだ……後? そんな、ここって伊勢…ちゃうわ、異世界ー!?)



 許容量がオーバーしたアレクシアはそのまま気を失ってパタリと倒れ、1時間程して目を覚ました時には自室のベッドの上だった。

 前世の記憶を思い出したアレクシアは身体を起こすと、自分の中にあるこの世界の知識と前世の事を頭の中で整理して頭を抱えた。



(は? 誰が花の精みたいやって? 溢した紅茶を拭いとったソフィーの方がスレンダーで金髪に緑目やし、よっぽど花の精やん? 皆私が侯爵令嬢やからってご機嫌取りの為にお世辞を言うとっただけやんか!

 こんな幼児の内から成人病まっしぐらな体型やのに花の精とか言われて喜んどった自分が情けないわ、せやけどリップサービスにしては妙に皆うっとり私を見とったよーな?)



 アレクシアは今朝も鏡で見た自分の姿を思い浮かべる、美少女だの将来絶世の美女になるだの言われて周りにチヤホヤされていたが、記憶にある姿は肌こそ白く求肥ぎゅうひの如く柔らかなもち肌だが、目は完全に肉に埋もれた様な一重で浮腫むくんでいる様な……控え目に言ってぽっちゃりさんだ。



 平安時代なら間違いなく美人だろう、黒々としたスーパーストレートと言えば聞こえは良いが、伸ばしているからサラサラヘアと言えるものの結構な剛毛で毛量も多い。

 前世では美人とは言えなくてもしょっちゅう知り合う人から「友達に似てる」と言われる程その辺にいる普通顔だったのに、生まれ変わってある意味インパクトのあるこの顔かとガックリと肩を落とした。



「折角異世界に生まれ変わったんやったら、ソフィーくらいの別嬪べっぴんさんになりたかった……! しかもこの世界って魔石とか魔道具あるのに魔法ってないやんな……?」



 アレクシアは兄2人、弟1人と両親の6人家族だが、前世では近畿地方の片田舎で男兄弟に挟まれた5人家族だった、玩具やヘタしたら服まで兄のお下がりで髪を切るのも近所の美容院ではなく床屋という少年期……ではなく少女時代を送っていた。



 兄や弟の友人達に混じって遊ぶ事も多かったせいでゲームや漫画の知識は人並み以上にあるため、異世界=ファンタジー=魔法の図式が頭に浮かんでも仕方のない事だと言える。



(ところで自分何歳まで生きたんやろか……、最後の記憶は……えーと、30代の同僚から「四捨五入したら30歳で同い年やね ♪」っていうメッセージを受け取ったのは覚えとるで25歳やろか。死因が全く思い出せんわ……)



 ふぅ、とため息を吐いて頭を振るとクラッと目眩がしたのでそのまま後ろに倒れ込んで目を閉じる。

 アレクシアとして過ごした分の知識ではこの世界の事は「わからない事だらけ」という事はわかっているので、起きたら知識を得る事に集中しようと決心しながら微睡まどろんだ。

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