25 ▽情報収集開始▽




「おー、いい壺だな!」


「待て! 触るんじゃない! まったく油断も隙もないやつだ」


聞き覚えのある声が広間から聞こえてきた。僕は待機していた部屋から駆け出して行く。


「…ああ、会いたかった!」


「…お? アナスタシア!」


僕は宮廷まで来たニキータに駆け寄る。首輪がすでに外されている。よかった。


「お前…なんかすごい格好してるな? 完全に貴族様だぜ」


「えへへ…似合うでしょ? ルシーダから借りてるんだ。今度僕のも作ってもらえるんだよ」


「ルシーダ? この新領主様のことか?」


「そうだよ」


ニキータは少し不思議そうに僕を眺める。


「…アナスタシア、お前ほんとに何者なんだ?」


「…おい、奴隷! あんまり勝手なことするなよ」


後ろからルシーダが声をかける。


「アナスタシアがどうしてもって言うから買ってやったものの…俺は別にお前には用無いんだからな」


「本当はあの奴隷館から王国軍を追い出してほしかったんだけどね。ニキータの居場所だったから」


「それは俺でも無理だ。俺も王国軍の言いなりだからな」


「まあ困ってたから、とりあえず助かったぜ。ありがとな」


ニキータは僕の肩に腕を回すと、僕の頬に軽くキスをする。


!!


わ、て、照れるな…


「…おおおおいおい! アナスタシアから離れろ! なんちゅうやっちゃ!」


「いやー気が強い女子だね…新領主様っていうからどんなやつかと思ったけど、こんなかわいこちゃんだったとは」


「か、かわいこ…!」


「…そうそう、ルシーダは男だよ」


「は? 何だって?」


ニキータはきょとんとしてルシーダの方を見る。ルシーダは相変わらず睨んでいる。


「いや女だろ」


「男じゃボケ!」


「ひえー…おっかねえ。しっかしあんたら本当どうなってんだ?」


まあでもこの中で一番真っ赤な口紅が似あうのはニキータ、君なんだけどね。


「少なくともお前は人のこと言えんだろ!」


「オレはイケメンじゃん? でも領主様は女子って感じだぜ?」


「おんのれ生意気な…!」


「まあまあ」


この二人は相性あんまりよくないかもね…


「…なあ、アナスタシア。あの辺の壺、後で1つ2つかっさらえねえかな?…絶対高く売れるんだけどな…」


ニキータが僕の耳元でひそひそ小声で話す。さすがはニキータ…いつでも家業に余念が無い…


「だめだよ」


「しゃーないか…」


「おい! 何をこそこそ話してるんだ!」


「いやいや何でもない何でもない!…で、オレはこの宮廷で何をすればいいんだ? 買ってもらったのはいいけど、宮廷でのんびり暮らし…ってのは柄じゃないんでね。暇で死んじまうぜ」


「えっと…ルシーダ? ニキータのことは僕に任せてもらってもいいかな?」


「もちろんだ。お前が希望したことだからな」


「よろしく頼むぜ。いやーあの領主様が主人じゃなくてよかったぜ」


「アナスタシア! そいつ散々こき使ってやれ! あとお前! いつまでアナスタシアに触ってるんだ! いいかげん離れろ!」


「まあまあ…」




▽  ▽  ▽




僕とニキータは、ルシーダと別れて宮廷の屋上まで来る。眼下に帝都の風景が広がっている。その向こうにはレンブルフォートの森と草原。


「…へえー、上の方はこんななってんだなー。この間来た時は見られなかったからな」


「…最初に会ったの、この宮廷だったね」


「地下の牢屋で寝てたんだよな、お前。上階で戦争してんのによ」


そよそよと風が吹いている。心地良い。


「…ま、俺は分かってたけどな。お前が一般人じゃないってことは」


「バレてたね」


「バレバレだった。そろそろ教えてくれるか?」


「ま、簡単に言うと、僕もレンブルフォートの皇族なんだ。ただし、昔のね」


「皇子様ってわけか。あの領主様と親戚なのか? いとことか?」


「それは全然違う。僕とルシーダの関係は、ちょっと複雑なんだ」


「そうか…」


「僕は今、わけあって、王国側に内緒で、領主のルシーダに匿われてる。自由も制限されてて、特に宮廷の外ではあまり自由に動けない。そこで、君にお願いしたいんだ」


「オレの仕事だな?」


「そう。これから僕の指示に沿って情報を集めてほしい。君なら宮廷の外でも僕やルシーダが許可すれば自由に動けるからね。君はシーフもやっていたし、適任かと思って」


「そういうのなら得意中の得意だ」


「特に王国軍には気をつけて。今レンブルフォートを実質的に主導する立場にあるのは軍部だから」


「了解。久しぶりにおちょくってやっか」


「なんだか親友を利用するみたいで申し訳ないけども」


「とんでもない、全然気にすんな。むしろワクワクしてきたぜ」


「お願いできるかな?」


「任せろ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る