第34話(里帰り)

ーー朝。アキはリュウの部屋の外で座っていた。膝に顔を突っ伏して。リュウを諦め切れない。突き放した事を後悔している。すると、憲一郎がやって来た。


「お嬢さん、そこで何をやっている?」

「リュウ君……大家さんを待ってるとよ」

「ほう。リュウの知り合いか。お名前は?」

「アキ」

「藤原パン店の子じゃね? 中に入らんのか?」

「鍵が掛かってるとよ」

「マスターキーならワシも持っておる」

「おじいさん、何者?」

「ワシはリュウの祖父。稲葉憲一郎じゃよ」


アキがバッと顔を上げ、憲一郎を見る。


「おじいさん。リュウ君を助けるとよ。協力して」

「ワシもそのつもりじゃ。アナザーシープで良からぬ事が起きておる」


アキは立ち上がり、憲一郎が部屋のドアを開けた。


「おっはよー! じいちゃん、それにアキも」


アキと憲一郎はビクッとなる。突然のリュウの登場。リュウはタニア国王の許しを得て地球に帰って来た。


「リュウ君!」


アキはリュウに抱き付く。リュウがアキの頭をポンポンすると、アキは涙ぐむ。


「そうだ! せっかくだし、アキも滑りに行くか?」

「え、うん」

「リュウ。遊んでる場合ではないぞ。アナザーシープの連中を倒すのじゃ」

「俺はアナザーシープの国王と結婚する事にしたから。今日は里帰りだ」

「何を言っている!?」

「あ、じいちゃんがタニアに掛けた呪いを解いといたから」

「リュウ。左腕を見せるのじゃ」


言われた通り、リュウは憲一郎に左腕を見せる。


「2万じゃと!? まさかアナザーシープの国王とキスをしとらんじゃろな?」

「2回したよ」

「いかん」


人間なら害はないが、異世界の者、特に魔力の高い異性とキスすると魔力回復と伴に毒素が身体を駆け巡る。しかし、リュウには耐性があった。それを知らない憲一郎はリュウにキスがいかに危険か説く。


「リュウ、目を覚ますのじゃ。国王は危険じゃ」

「大丈夫大丈夫。アキ、走りに行こ」


リュウもタニア国王にゾッコンだ。

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