第8話(看板娘)
ーー憲一郎は帰っていった。リュウは財布に渋沢栄一10枚を入れる。携帯電話とキーケースを持って、徒歩で藤原パン店へ行く。憲一郎が言っていた看板娘とはどんな子か? 昨日行った時に居た柴犬じゃないことを願って。
リュウは藤原パン店に着く。中に入ると、そこには藤原のおばちゃんと看板娘が。
「いらっしゃいませ~」
リュウは聞き覚えのある声に驚いた。
「アキ!」
「リュウ君? おはよう」
「藤原パン店の看板娘ってアキの事だったのか」
店の奥から藤原のおばちゃんが来た。
「アキ、お得意様だよ。オマケしてやんな」
「はーい。リュウ君、外で話すとよ。着いてきて」
リュウはアキに手を引かれて軒先にあるベンチに座る。アキは隣に座った。例のごとくリュウから話を切り出す。
「アキはバイト?」
「うーん。何になるんやろ。一応親戚のお店で働かせてもらってるの」
「親戚? アキのフルネームはなんて言うの?」
「藤原秋ゆうんよ」
アキは携帯電話のメモ機能に名前を打ち込み、リュウに見せる。
「あっ。アドレス交換してたな」
「フフフ、抜けてるところあるんやね」
「まだ朝早いから頭が回ってないんだ。それよりさ。立ち退きの話が出てない?」
「やっぱりリュウ君はエスパーなの? うち、九州に戻らなきゃいけないのかな…………」
「大丈夫。ラスボスの不動産会社にガツンと言ってやったから。俺が藤原パン店のオーナーになって守るから大丈夫さ」
「それ本当? 嬉かぁ」
「アキに悲しい顔は似合わない。笑ってて」
「リュウ君…………」
二人はキスをしてしまった。リュウは我に返り、少し離れる。
「ごめん」
「うちこそ、ごめん」
「まあ、パン屋の看板娘がアキで良かった」
「リュウ君には言っておくね。うち、クスリに頼ってるの」
「今すぐ自首するんだ」
「違うと。肝臓の薬とよ」
「蜆エキスたっぷりの蜆チャンスか」
「うちね、C型肝炎とよ」
「そ、そうか。今は薬で治る病気だよね」
「だから昨日はごめんね。せっかく飲みに誘ってくれたのに」
「なるほど。お酒が飲めないからか」
「奈良漬けもダメとよ」
暫しの沈黙の後。
「このパン屋は俺が守るから大丈夫だからな。さ、仕事仕事」
「はい、オーナー」
「じゃがバターパンはあるかね?」
「はい、先ほど焼き上がりました」
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