黎明の海碧色

星空の告白論

 星空の下で、私は目を覚ます。1時間程度で夜になるはずはない。それどころか、教室にいたはずなのに、私はいつか玉虫を見た丘の上かもしれない草原にいる。


「あれ?今何時?」


 ぼんやりとした頭でチヒロに問うと、チヒロは言った。


「四時……ぐらいかな」


「そっか、四時……」


 私は何かがおかしいことに気づいた。


「四時?」


「そうですね、そろそろ朝の四時半です」


 起き上がった私に、コウくんはどこかでそうだろうと思っていた答えを告げた。


「なんでこんな時間なの?」


 私が聞いても、コウくんは何も言わない。コウくんは東の空を背にして西の方、夜の底にぼんやりと見える山並みを仰いだ。


「さぁ、もうそろそろ訣別のときです。朝ですよ、もうすぐ日が昇ります」


 私は困惑した。というか、狼狽した。


「え……?」


 コウくんは私を見て言う。


「あなたはこの世界の住人じゃない。元いた世界に帰らないといけません」


 チヒロの方を向くと、チヒロは私から離れていた。


「またいつか会おうね」


 そういったチヒロに、何かが消えたことを感じる。


「二人とも……どうしたの?」


 私に、コウくんが答える。


「私たちは、その気になればいつまでもこの宵闇の下で待っていられます。さぁ、アヤナさん。あなたにはまだ、やるべきことがあるのでしょう?今しか出会えない、未来があるはずです」


 ある単語が脳内に浮かぶ。でも、それは……。


「……ここは」


「大丈夫です。そのうち現実に戻り、自己認識が戻るでしょう。私たちはあなたがログインしたRPG、『宵闇の夏色』のキャラクターです。あなたは最後のミッション以外のすべてのミッションをクリアしたんです」


「こんなリアルなゲームがあるわけ……」


 私はそう言った。言うほかなかった。


「それはそうでしょう。あなたの意識を改変しているのですから」


 チヒロは私の前を通り過ぎてから振り向いて「じゃあね、アヤナ」と言い、コウくんと一緒に西側、夜の帳の中へと退場しようとする。


「待って」


 私は思わず呼び止めていた。


「どうしたの」


 チヒロが振り向いて私に問う。


「まだ、私はここにいたい」


 私の言葉に、チヒロは「理解できない」とでも言いたげな顔をした。


「どうして?ここは現実じゃないんだよ?」


「だって、ここは……」


 そこで私は言葉につまる。


「でも……嫌だ、わかんないよ」


 頭を抱えてうつむいた私に、コウくんが言う。


「アヤナさん……ここはあなたが作った世界でしょう」


 私の頭の中に、色々な知りたくなかったことが流れ込んでくる。私は絶句し、コウくんはさらに話を進めた。


「ここは、平たく言えばあなたの夢の中。あなたが作り出した空想上の舞台です」


「どういうこと?」


 私はコウくんに問う。まだピンとこないが、何か嘘ではない雰囲気を感じた。


「今までの出来事は、全てシナリオの内容通りなんです。そして、あなたは今からこう言います」


 私の口から『そんなのあり得ない、私はシナリオの登場人物じゃない』と言う言葉が発せられるのと同時に、コウくんも同じことを言った。


「……え?」


 私は混乱していたが、コウくんは無表情なまま出会ったときのような敬語で話を続けた。

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