変更の運命論
「いつそんな話を……?そもそもアノマリーって何だっけ」
コウくんに聞くと、コウくんは後半の質問だけに答えてくれた。
「アノマリーっていうのは、ある法則、理論から見て異常だったり、説明できなかったりする事象や個体などを指す言葉だね。ここでは世界の特異点とでも言おうか」
私はその答えを反芻したが、全くわからなかった。
「ごめん、全然分からない」
「つまり僕はこの世界の特異点、世界の法則を超えた存在ってこと」
「どういうこと……?」
私がさらに聞くと、コウくんは呆れたような顔を見せるでもなく、ただ平坦な声で
「たとえて言うなら、神さまに似た存在だね」
そう言った。チヒロが「エヴァンゲリオンみたい」と言って、作り笑いを浮かべる。コウくんはそっと手を掲げた。
「冗談なんかじゃないよ。じゃあ、見せてあげよう」
私はコウくんが抜いた指示語を推察できずに聞いた。
「見せるって、何を……」
チヒロが単純明快な答えを告げる。
「コウくんが世界を書き換えるところをじゃない?」
コウくんはうなずき、手を反時計回りに回し始めた。
「うん。例えば、この世界には時間が流れているよね。それをこうやって、逆に回すこともできるんだ」
パチンという指を鳴らす音がして、みんなが動きを止めた。まるで時が止まったように。
アヤナ「我々は負けてはいません!我々はたった一度、評価を得られなかっただけです。我々はまだ戦える。さあ、次の大会に向けて前進しましょう!」
アヤナが演説風に喋っている。コウくんがアヤナをまじまじと見て言った。
コウ「アヤナ、どうしたの?」
私……チヒロはアヤナに確認するように言った。
チヒロ「今回の大会はばっちり最優秀賞だったじゃん」
アヤナ「え……?」
アヤナは困惑している。コウくんがエラーを見つけたシステムエンジニアのような渋い顔をして言った。
コウ「アヤナの記憶が書き換わってない…のか?」
チヒロ「そうっぽいね」
私はそう言って「どうしようか」と続けかけたが、コウくんは何事もなかったかのように言った。
コウ「まあいいや、このまま続けますよ」
私はアヤナに言うようにして感想を言う。
チヒロ「コウくんの脚本めっちゃ褒められてたね」
コウくんは嬉しそうに言った。
コウ「まあそうだね。二人の演技も素晴らしかった。これで心置きなく引退できるね」
ずっと一緒に頑張ってきたコウくんからの言葉に、感動すら覚えた。
チヒロ「そうだね、ほんとに」
コウ「ところでアヤナ、なんでチャップリンの真似してたの」
コウくんが問うと、アヤナは困惑をさらに強めた。
アヤナ「え……?」
チヒロ「アヤナ、ここどこか分かる?」
そう聞くとアヤナはあり得ないものを見るような目で言った。
アヤナ「コウくんが……いる」
チヒロ「当たり前じゃん。コウくんはいつも演劇同好会にいたよ」
コウ「その通り」
当然のことを言ったはずなのに、アヤナは困惑している。
アヤナ「え……え?」
コウくんが澄んだ目でアヤナの目を見る。
コウ「アヤナ、夢から覚めて」
コウくんが手を叩くと、澄んだ残響とともにアヤナはフリーズしたように動かなくなった。
コウ「駄目だね……」
チヒロ「そうだね」
コウ「アヤナさん、完全にフリーズしちゃいましたね」
チヒロ「困ったなあ」
コウ「まあ今のうちに確認をしておきましょうか」
チヒロ「じゃあコウく……」
コウ(食い気味)「さてチヒロさん、これからどうするんでしたっけ」
チヒロ「それ私に聞くの?配役上はコウくんが私に説明するはずだよね」
コウ「そうですけど、あえて聞くのも面白いかな……と思ったので」
チヒロ「まあいいか。このあとはアヤナにハッピーエンドを選んでもらうだけ。それで、私たちの出番も終わる」
コウ「そうですね」
チヒロ「そろそろアヤナさんは目を覚ましますかね」
コウ「真似をするのはやめていただきたいんですけどね」
チヒロ「良いでしょ、別に」
アヤナに関するデータが書き換わったことを示すように窓の外の夕日の色が一瞬消えたあと、窓の外は再びオレンジ色に輝き始めた。
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