第11話 【勇者Side】再会
「そうか……カテラ殿が……」
奴が魔法を使えない、只の詐欺師とは知らない目の前の
跪きつつ、顔だけ前に向けた俺は今ここで真実をぶちまけてしまいたい衝動に刈られていた。
魔法使いカテラは魔王討伐の褒美を得るために今の今まで魔法が使えない事を隠していたのです!と。
それを聞いた国王の顔がどうなるのか見てみたい。恐らく、激怒するに違いないだろう。
あぁ、早くその顔が見てみたい。そして
だが今はダメだ。俺の口からそれを言ってしまったら手元にある奴の品物が売れなくなる。
レアルと約束したのは二日後。それまでに俺はオークションでこれらを売り払い、それからレアルが奴が無能であることを発表する。
その時にアイツが生きてようがどうでもいい。置き去りにした洞窟から徒歩で来たとしても一週間は絶対にかかる。魔法が使えない無能が、なんとかたどり着いた時にはもう遅い。事実は王都中に広まり居場所は無くなっていることだろう。
それを想像するだけで笑みが止まらない。堪えろ、国王が妙な物を見る目で俺を見ている。
不意に背後に殺気を感じて俺は慌てて振り返る。まるで巨大な龍に一睨みされたかのような、ぞっとするような気配。
城内での抜刀はご法度だと理解はしていたが、足元から背中を駆け上る
そこにあったのは、紫色に発光する魔法陣。紋様からして、転移魔法のそれだった。
さっき国王が見ていたのは俺ではなくコレだったのか、そう理解した矢先に魔法陣は眩く輝き、とっさに空いている左手で顔を覆う。
徐々に光が収まり、そこに現れたのは――
「ようヒスト、置いていくなんて酷いじゃないか」
にやにやと憎たらしい顔をした、無能だった。
――――――――
転移が終わると、俺は冷や汗をかいた勇者に剣を突きつけられていた。一方アキレウス王は驚きを隠せないのか、俺へと声を掛けてきた。
「これはカテラ殿!ご無事でしたか……。勇者殿から死んでしまったと伝えられた時はその叡智が失われたかと……」
アキレウス王の言葉はまだ続くが、その内容から、まだ事実は知られていないと推測できる。まだ挽回できる。そう確信した俺は反撃に出ることにした。
「ヒスト、とりあえずその剣おろしてくれないか?」
不承不承と剣を納める勇者。彼が何故
「俺が死んだ、ねぇ。お前が見捨てたから死んだ、の間違いじゃないか?」
「それは……洞窟内で分断されたから……」
「見苦しい言い訳だな。はっきり言おう。俺が邪魔になったからお前は俺を置いていった。そうだろう?」
「違う……」
「分断された?あの洞窟は一本道だ!そんな調べられたらすぐわかる嘘しかつけないのか!?」
「違う!違うんです!」
勇者は何故か
「本当に彼が死んだと思って俺は苦渋の決断であの洞窟を後にしたんです!信じてください!」
その言葉を聞いたアキレウス王は、立派なカイゼル髭をいじりながらどちらの言い分を聞くか決めかねていた。
そして彼が下した決断とは――
「両者の言い分は平行線、確たる証拠も見つからず……普通の裁判にはかけられぬ。ならば、決闘裁判しかないだろう」
決闘裁判。証拠や証人が不足している場合に決闘を行いその行方で判決を決めるという物だ。
つまるところ、勝者こそ正義。実にシンプルである。
「是非そうしましょう!このままでは埒が明きません!」
その言葉を受け、ヒストはすぐに同意の言葉を投げ掛ける。そして勝ち誇った顔で俺を見た。
それもそのはず、奴の脳内では未だに俺は魔法が使えない魔法使い、すなわち凡人で歯牙にも欠けない存在なのだから。
なら、その思い込みが間違いだということを身をもって
「分かりました。勇者がそう言うのであれば、私も受けてたちましょう」
勇者に負けじと、俺も余裕
それからは、決闘の準備があるとのことで暫し待つことになった。
俺はその時間を利用して、学院の寮に置いてきた荷物を回収しに自室へと足を運ぶ。
その途中、俺の姿を見て驚く学生の姿が多いことに気付くが、普段出歩かない俺を見かけたことに驚いているのだろうと気にも留めなかった。
誰かに引き留められることも無く、あっさりと自室に着いた為さっさと中へと入ると、相も変わらず俺の部屋は魔法関連の資料で足の踏み場もないほどに散らかっていた。
見渡す限りの資料と本の山。雑多に積まれたそれらが部屋を白く染める中、俺の定位置である木製の机と椅子、それと料理に使う鍋だけが茶色を添えていた。
本来ベッドがある場所には寝具は無く、ただの研究資料置き場と化していた。寝るだけなら椅子で十分だからだ。
それを横目で眺めつつ、備え付けられた料理鍋で小腹を満たすために料理をすることにした。
まず用意するのは市場で買ってきたジャガイモ一個。それを火で炙り、焼き色がついたら完成。
立派な食料である焼きジャガイモの完成である。俺はこの16年間殆どこれで過ごしてきた。とはいえ、完全にこれだけに頼るには栄養面が心もとないため週に一、二度はアリシアの手料理を食べては居たが。
料理する時間があれば、それすらも魔法の研究に充てる。睡眠時間も極力削り、椅子の上で気絶するように眠る。隠してきた事実がバレた悪夢を見て叫んで飛び起きることも数えきれないほどあった。
それほどまでして守り通してきた事実が、今暴かれようとしている。
それだけはなんとしても避けなければならない。今までの俺の人生は、無能であることを隠しながら有能になるために寝食を削ってまで努力し続けてきた日々なのだから。
ここでバレては、その頑張りも無に帰すことになる。それを避ける為にも、勇者との決闘には必ず勝たなけれぱ。
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