第8話
あれから4日半。ライドは気絶した女戦士の言葉の通り、仮住まいを与えられた。そして、そこには毎日のように若い雌鹿のような女戦士が訪れる。
雌鹿のような赤毛の女戦士はロニと言う。所作は綺麗だが気性の荒い雌鹿だ。
そのロニが今日は「力」の強い誰かと共に、100メール程離れた一軒家から此方を伺っている。しかし、教会の礼拝に向かう障害にもならない。借宿の中から「歪」で移動して終わりだ。こうして今日も、トフソーと礼拝の時間を共に過ごしてきた。ソドムの影を追う者達への偽装もできて両得の対応だろう。
ただ、ソドムは1人不満気だ。「歪」の使用頻度かと思ったら、ローレンまでの移動に使う戦士の歩法に思うところがあるらしい。
ロニの戦士としての実力は、年相応だ。今は戦士長候補だが多分、きっかけ次第で戦士長になる。地上に出て戦士の弱さに辟易して来たが、しっかりとした戦士もいるとわかって嬉しく思う。そのロニと共にいる人影は間違いなく戦士長だ。熟練とつけてもいい。道具と技術を加味すれば、ライドの故郷では相当な腕前に入るだろう。そんな戦士に該当するのは、この周辺では1人しか思い浮かばない。あの女戦士は怪我から復帰したようだ。故郷なら再起不能を疑う水準だが、この地の塀の人の回復力は想像を超える。
この4日は有意義だった。女戦士の置かれている状況が笑えない事態であることへの理解を含めて、ライド自身の欠陥の原因も集中して調べられた。
ライドは鍛錬を続けながら頭上の緑の葉の音を心地よく感じる。若干薄暗い程生い茂り、緑の匂いが立ち込める。
この地は地形に隠された集落がある。森と崖に囲まれ、外から見つかり難く、ロニはその集落のことを「さと」と呼ぶ。その里の北側には崖があり、内側に蟻の巣のような空洞が「知覚」で見える。尤も蟻にしては通路が大きく、今は生き物の気配がない。また、この周辺の大型の獣は、この穴を中心に綺麗に円状に避けて暮らしていた。何も住んでいなくても
普通の洞穴でないことはよく分かる。
『明け方の人影は戻ってこないんだな。』
「ああ、4日前に入った方も多分、残ったままだ。」
『始まれば飽和になるな。これはもう、ロニ嬢を口説くしかないね。』
今いる場所は「里」から400メール程離れた森の中にある。
ライドは「鍛錬」の合間に木々の真ん中にポツンと立つ大きな樹木を眺める。この樹木の中腹は不自然に巨大に膨み、入り口は2メール程の高みにある。丸太に足をかける場所を厨抜いたような梯子が付いている。根や幹は相応に太く、緑の葉に溢れ、小風で涼しげな葉音を立てる。それがライドの仮住まいだ。
風変わりな建屋で、扉や梯子以外に人の手が加わって見えない。木の幹が自分で部屋を作ったかのように成長した家だ。普通ではない成長を示す樹木だが、ソドムは一般的な森の人の住処だという。だとすれば、これを成したのは精霊術か。
ライドはその樹木の住居の傍らで、裸で汗を流す。膝を少し曲げ、両腕を上に伸ばして止める。止まっているのは見た目だけ。全力で力を入れている。各部位の汗の状態も鍛錬の効率を知る重要な情報だ。しかし、裸を人に晒す趣味はない。見張られているのは仕方ないが、木々を障害物にする。
右半身はほぼ完治し、右腕も随分回復した。鍛錬ができる程ではないが普通に動かせるし、もう布は巻いていない。見た目は指先から肘方向に縫い合わせたツギハギのようだが、白っぽい色で一回り細くなっただけ、後遺症もない。
戦士にとって鍛錬は日課。仕事の一つだ。それを大っぴらにできるのは、目覚めて以降、初めてだ。気分的に助かる。
鍛錬とは実戦での負荷を再現し、戦いを検討する作業だ。良い点、悪い点を洗い出し、目指す戦い方で予想される負荷を体に課す。格好は特に決まってない。目的に沿って、効率が良いと思われる形をとる。1つの格好で停止する時間は10呼吸程度。その後、ゆっくりと次の姿勢を探る。この鍛錬はロニには不評で、おかしな神に祈りを捧げていると報告された。今も誤解は解けていない。聞く耳なしだ。
汗が蒸発し、微かに湯気が立つ。
鍛錬で発する熱は水をお湯に変える。服を着たままでは駄目してしまう。だから裸なのだ。趣味ではない。説明しても、ソドムには何かにつけて揶揄われる。女戦士についてからかった意趣返しだろう。大人気ない奴だ。他にソドム用のネタは無いものか?。ライドは真剣に探している。これは意趣返しでは無い。それに俺は子供だからいいのだ。
繰返すがこれは鍛錬だ。
ただ、効率が悪い。
この体格になって以降の実戦不足が響いている。この体の大きさ、筋力の認識が弱い。現実と想定の差が上手く埋まらず、効率が上がらない。
残念ながら訓練に適当な相手がいない。相手には巨大な粘性体程度の力は欲しい。条件を整えれば手足の長い鱗の巨人でもなんとかなる。格下からでも必要な情報を揃えられるのは経験の賜物だが、限度がある。例えば、樹木の横に干した白い毛皮の持ち主。体長3メール。重量はライドの約5倍。体躯としては中々だが、頭を差し出して突っ込んで来る阿呆では役にも立たない。
しかし、効率が悪くても鍛錬は優先する。傷は癒えても制御できない「力」を減らす手段は鍛錬しか思いつかないからだ。元々鍛錬は「力」の増加より、容量増加の方が大きい。日々繰り返すことで極めて僅かずつ体外の制御不能な「力」の量は減っていく。
そもそも、ライドは鍛錬が好きだ。どうすれば楽に終わらせられるか夢想できる。現実にはあり得なくても問題はない。それは楽しいものだ。
また脳裏から幼い日の映像を消す効果も期待している。
鍛錬を辞めたり、気を抜くとすぐに脳裏に張り付き、ライドが強者ではないと伝えて来るのだが、これは精神的に疲れる。
強くなればいい。強くなる為の近道は、誰かの作り上げた道を走り抜けること。つまり強者に師事する道だが、現在ライドは自分の欠陥を鑑み、諦めた。
4日半前、女戦士の包囲の中に侵入したライドは視界を失う程の立ち眩みを覚えた。制御している内側の「力」を掻き乱された結果だ。体内の「力」とは身体機能そのものだ。外で防御し、更に内側で制御するもので、本来別の生き物が触れることすらできないものだ。この理由について、この2日様々な検証を繰り返したが、得られた結論は最悪の想像を裏付けて終わった。
ライドの「力」は、体外でも維持されている。体外の「力」はライド自身のものだ。非常識だがこの結論は動かない。おそらく若返る前の体から溢れたものだろう。しかし、ライドの制御は体外には届かない。つまりこの「力」は誰でも自由に使用でき、且つライドに直結しているものだ。思い返せば赤子の模倣も突然攻撃が強烈になった。利用できる「力」の存在に気がついた可能性が高い。あの時、ライドに干渉可能と気付かれたなら、逃げることもできずに死んだだろう。身震いする。
仮に誰かに師事すれば、近場で観察し続けられる者が複数になる。いつかは皆がライドの命に近いところだけを狙えるようになるだろう。
冗談ではない。
対抗策は体外の「力」を感知させないこと。つまり一切使わないこと。しかし、この対策も確実か分からない。この地の技術は高過ぎる。それに体外に属する「知覚」を切る勇気がない。切ってしまえば風の壁の向こうからの攻撃に対してほぼ無防備になる。敵は捉えられず、一方的に認識される。
出した結論は、辛うじて人を感知できる濃度での「知覚」の使用。そして鍛錬の継続だ。この程度であれば感知されないと信じたい。
そんなライドの不安を、緑の清涼感ある空気が心地よく癒す。喉が潤い、清涼感ある匂いが気持ちを落ち着かせる。
故郷では地底湖が人気があったが、それよりずっと心地よい。
ロニが動く。
ライドは即座に鍛錬を打ち切り、井戸から水を汲み上げ、身体にかける。焼けた石の上に水をかけた時と同じく泡立つ音と濃い水蒸気が立ち上る。
塩まみれで人に会うのは失礼だ。身体を冷まし、残った水を「力」で払う。身を震わせる様は獣のようだ。そして、ハッシュベル駐屯地で貰った服を着る。
ライドは着替えを終え、住処に充てがわれた樹木の側の、平らで広い3つの台の土埃を払う。この台は獣の肉を捌くのに、毛皮の処理に、来客の応対に、何にでも使い易い。ライドが寝そべるには少し小さいが、そう言う使い方も出来るだろう。機能美がある。森の人の住処は馴染めないが、万能な合理性を目指す嗜好は好みだ。適当に置いて作られたものであろう筈がない。
「おはようございます。ナリアラ様。回復されたこと、お慶び申し上げます。」
近づく人影は2つ。雌鹿に似た女戦士ロニと、ソドム好みの大柄の女戦士ナリアラだ。ナリアラはもう怪我の影響を感じさせない。改めて脅威的な回復力を感じる。見た目は同じでも別の種族なのだと思い知らされる。
「元気そうだな。その挨拶はロニに仕込まれたのかい?。」
「失礼のないように敬意を示せと。」
大柄な女戦士は、女性にしては低いが柔らかい声を出す。茶色い厚手の半袖と、ゆったりとした灰色のズボン、そして硬い木製の靴という出で立ちだ。今日は腰に太く短いナイフを下げるだけで、斧槍は持っていない。下ろした肩より長い癖のない茶髪は、後ろで無造作に束ねている。
その横に控えるロニの出で立ちはいつも通り。4日半前から変わらない。そして、いつも通りの完全武装だ。
「我々の許しがあって匿われているのです。立場をはっきりさせなくては。要らぬ誤解と思い込みを生みます。」
「私の恩人だぞ?。ロニ。悪かったね。クレイル君。」
ロニは、ナリアラより一歩後ろでライドを警戒している。その手の長い棒の先には布を被せているが、いつでも外せるように、固定すらされていない。
「いえ、私も作法を学びたいと感じておりました。教育の機会を頂き有難く感じております。今後、多くのことに役立ちましょう。」
嘘はない。もし「あれ」への対応必要になれば、権力者への協力要請が必要だ。教わる機会が得られたことは有難い。
「口だけの言葉遊びが作法なものか!。何だその態度は!。」
「見本を見せて頂ければ努力できますが、言葉で「恭しく」「所作美しく」と言われましても分かりません。」
ライドの言葉にロニが、「誰がやりますか。」と吐き捨てる。ナリアラがそのやりとりに微笑を浮かべる。
「改めて、ナリアラだ。」
「クレイルと申します。」
「お陰で命を拾ったよ。でも言葉遣いは普段通りでいいよ。覚えた努力は買うが、見ていられない。」
「それは助かる。座らないか?。聞きたいことはナリアラから聞けと言われ続けている。出せるものは水しかないが。」
ナリアラはライドの示す石の台に躊躇を見せたが腰掛ける。3つの台のは中央の一点を中心に並んでおり、内側に腰掛けると話し合いに丁度良い。
しかし、その席にロニが太い眉を逆立てる。
「常識をどこに忘れてきた?!。こんな序列のない席を用意するなんてっ。居候の自覚はどこにやった?!。」
「そう言うしきたりには疎くてな。だが此処の他に席はないぞ?。知っての通り、家の中は壁際の斜めに張り出した幹しかない。小屋に行くか?。」
「私は構わない。作業台に腰掛ける行為に馴染みがなかっただけだ。」
「師匠が宜しいのでしたら。」
ライドは「座る為の場所でもあると思うぞ。」と口を尖らせる。
ナリアラが腰掛けると、ロニはその後方に立つ。ナリアラは「知覚」でわかる通り、よく鍛え込まれている。肩から首にかけての隆起と腕回りは、服の上からでも太さが分かる。目立たないのは均整が取れた女性らしい容姿のせいだ。襟から上と肘から下しか露出のない服装だが、肉感的だ。
「お陰で礼を述べる機会が得られたな。これは謝礼だ。」
ナリアラはそう言って腰に吊り下げた袋から、貨幣の中心に紐を通した束を差し出す。
「受け取ろう。」
ライドは受け取ると、約半分を自分の脇に置くと、残りをナリアラに差し返す。ソドムから『ナリアラが貰う報酬を考えれば大した額じゃないぞ』と声がするが、出した手は戻し難い。ライドにとっては、出された謝礼は半分返すのが礼儀で、特に深い意味はない。
「クレイル。受け取ってくれ。」
「情報を買いたい。」
「話せないことは話せないぞ。」
「俺はサティとザードと名乗る子供に心当たりがある。出来るならこの里に連れてきたい。受け入れられる余地があるか?。」
「話はロニから聞いてる。ザードが教会で馴染めそうにないって話だね。拾った日は混乱してたからじゃないかい?。」
ナリアラの口調はかわらないが、用意されていたかのような問い返し方だ。勿論、当日の話ではない。ここ数日、トフソーから確認している話だ。
当然、それは言えない。
「あれだけ復讐に取り憑かれた子供が素直になるとは思えない。」
ナリアラは何故教会の協力を得られたのか、何故その場にいたのかを聞いてきたが、ライドはローレンに出てきた田舎者が、教会に配給を期待したとの理由に沿って返答する。ソドムと事前に打ち合わせた出身の話だ。その中には「山岳の悪魔」、ディーンからの誘いがあったことを含める。
この件に部外者として関わる為だ。ライドにはナリアラと信頼関係を築く時間がない。しかし、強引な提案を押し付ける必要も出て来るだろう。その理由付けに、「山岳な悪魔」の名前に見出された能力として、都合よく裏付けに使う。嫌とは言うまい。それがソドムの判断だ。
ナリアラはライドの返答に、「そうかい。」と言葉を終える。
「有難いね。でも、暫く後になる。今は受け入れられないよ。質問の途中で悪いんだけど、幾つか割り込ませてくれないかい?。君に対する疑念だよ。何処まで話せるのか。君に確認したい。」
「構わない。」
「さっきの裸・・・」
「鍛錬だっ。」ライドは思わず強い語気でナリアラの言葉を遮る。「ロニにも言ったが何故祈りになる?。「かみ」とは男の裸踊りを捧げられて喜ぶものなのか?。」
「井戸の水の使ったあの煙は?。」
「湯気だが。」
ロニが「見え透いた嘘だな。」と噛み付く。ロニはずっとこの調子だ。ライドは黙ってナリアラの返答を待つ。
ナリアラには100メール以上の「知覚」はあるようだ。側で迂闊に「歪」は使えない。
「普通は鍛えるのに使い慣れた武器を振るう。武器に必要な過不足ない筋肉が1番好ましいからね。それに武器は少しでも手に馴染ませたいだろ?。」
「武器はない。猟師だからな。」
ライドの返答に、ナリアラは一瞬悩むそぶりを見せたが、樹木の脇にある毛皮に移ると何かを納得する。
ライドは故郷では、地上に出て、獣を狩る生き方をしてきた。ソドムが言うにはは、それをこの地では猟師と呼ぶらしい。
「罠師かい。珍しいね。この辺りにまだ熊が居て、君はそれを狩っている。初めてだよ。着替えたのは私達が向かってくるのが分かったからか。」
「そうだ。」
「そんなに煩かったかい?。」
「目で見える必要はない。分かる。」
「やっぱりね。夜の闇の中を動ければ、熊を狩るのも容易い。納得だよ。4日前、君が4人打ちに乱入したのも、争いに気がついたから来たんだね?。」
「勿論だ。外からなら石を投げても崩れそうな曲芸だったな。」
「いい目だよ。それで君は誘拐犯を探しにきたと。私は誘拐犯かい?。」
「違うな。子供に懐かれている。今はこの木々の中で包囲する相手に何かをするなら手伝いがしたいと思っている。」
ナリアラの目が細まり、ロニが「出鱈目をっ!。」と怒鳴る。
ナリアラ来訪の目的は協力要請だ。謝礼ではない。そんなものは、話の切欠に過ぎない。そもそも今日の来訪はライドが仕掛けたものだ。ライドは昨日、熊の肉をロニを通じて差し入れた。この地は大型の獣が寄り付かず、里では肉が重宝されるとみたからだ。更に、大型の獣を単独で仕留める程度の腕前を示す為だ。
つまり、人手として興味を惹く為。
「昨日、仕事に出た里の狩人が外に出られず追い返されたよ。商品を運び出す馬車まで通して貰えない始末なのさ。包囲の連中はダンマリらしいけど、目的は私達だろうね。お陰で里の中では肩身が狭い。馬車の轍を辿れば見つかるのは時間の問題だけど、今更包囲するほどの人数をかけてきたのが疑問でね。」
「それを調べる。猶予は?。」
「話が早いね。なら少し他の質問を先に片付けようか。」
「踏込んだ答えを期待する。」
ライドの返答に、ソドムが『全額渡して交渉になるのか?。』と呆れる。それについては返す言葉がない。
まずは、ザードとサティを救出した時の状況について見解を聞く。何故1人だけ溺死させようとしたのか。あの川には川熊という肉食獣が生息し、習性として下流の巣穴に死体を運ぶらしい。その巣は浅瀬の藪の中にあり、上からは覗きやすいとか。川熊の集める死体で作戦の進捗を確認したのではないかとみる。流された方は、その場に川熊がいなかった時の保険だ。暫く人目に晒し、騒ぎを起こさせる。つまり、ナリアラは仲間の全てを監視されていたことになる。
「分かった。次だ。シャルは村人を名乗った。紛れられるほどの集団だった筈だ。ローレンの手前で襲撃されたか?。子供の親はその時死んだんだろう。ロニの合流はその前後だな?。ロニの地元はローレンで間違い無いか?」
「概ねその通りだよ。私達はジュヌ教徒の集団に紛れ込んだし襲撃はあった。そしてロニはローレンの出身だ。」
ナリアラはチラリとロニを見上げる。ロニは眉を潜めて首を振る。
「どこで聞いたんだい?。質問の意図が分からないね。」
「狩を想定した場合の推測だ。狩は獲物を誘導するところから始まる。追い詰めた獲物に打撃を与えるのは必勝の罠に追い込んだ後だ。その後は休む間を与えず仕留める。ローレンは追いにくい場所だ。隠れる場所が多いからな。だが5日前、ナリアラは追い詰められていた。すでに追いたてられる段階にあったはずだ。別働隊まであっさり見透かされ、ローレンから追い出されるほどにな。なら打撃はローレンに入る直前だ。そしてローレンの中では地理に詳しい者が必要になる。だが追い詰めていた割には今日までの5日間が静かすぎる。その理由を考えていた。」
ナリアラは口を結んで渋面を作る。ロニが「師匠、だから怪しいと言ったでしょう?。私への当て付けも入れてくる。」と言葉をかける。
「村人の考え方とは思えないね。」
「それが褒め言葉か分からないが、俺は貴族じゃない。平民だ。」
しかし、貴族の知識は活用している。
「シャルとその周りの子供の関係は?。襲撃は2つのことを考えさせる。一つは、ローレンに誘導されたこと。そして、ローレンに追い込んだ相手は軍を使える長であることだ。」
「まあ、いいだろう。君は敵ではない。私達と狙いを分散させる偽装する為に利用した。結果は残念だがお陰でこうして私は此処にいる。」
「シャルには姉がいる。その有無が追手を引きつけたのか?。」
「だろうね。実際、流行病でなければ置いていくなんてシャルが許さなかった。実行の間際のことだよ。」
「兆候が分からないとは思えないな。シャルにうつさない自信があったのか?。それとも内通者を疑ったか?。」
ライドはソドムの確信めいた言葉を聞くと、ナリアラに確認する。ナリアラは苦笑を貼り付け頷く。
「そうか。ならローレンに誘導し、偽装した集団の中で頼りになる存在について噂を広めた者がいる筈だ。」
「行き先を決めていたのは私だ。計画の詳細を漏らしたことはないよ。そんなに前から内通者がいたなら、シャルを確保する機会は幾らでもあったことになる。辻褄があわないね。」
「どうかな?。シャルを捕らえるのが、目的なのか?。殺す線はないが、泳がせるのが目的じゃないのか?。ナリアラを包囲した戦士は、前を走る馬車に見向きもしなかった。捕縛も殺しもないなら、後は誰かに接触させる線が残る。」
「・・・覚えておくよ。」
ソドムは何かを確信している。貴族に死者はいないか、何処かで調べたいと言い出している。
ここにはローレンの他にはミラジという領地しかなく、他は馬車で1週間以上離れていると聞く。
「依頼人も追手も貴族か。」
「答えないよ。」
否定のように聞こえるが、ソドムは肯定されたと見る。
ライドは此方に連れてきたシャル以外の子供について尋ねる。ナリアラは眉を潜めているが口は滑らかだ。ライドの返答に興味があるのだろう。とは言っても、すでにライドも話の筋は見えていない。ソドムの為の情報収集だ。何が見えているのか気になる。
「ジュヌ教徒の村人だよ。身寄りを失ったが、面倒を見てくれる大人が見つからなくてね。この里の心当たりに頼った。里は昔から子供が少ないんだ。それこそ問題になるくらいね。」
「ついでか。この里で仲間と落ち合う予定だったんだな。だが仲間は来ていなかった。その事情に心当たりはないか?。連絡は取れたのか?。」
「話を進めるな。私は一言もそんなことを言っていない。」
ナリアラは少し視線を厳しくしてライドを睨む。
『連絡は取れてないか。ディーン君の話だと、ここローレンはキルケニー伯爵の支配地域だ。他の領地の貴族が無断で軍を進めれば大問題になる。交渉で不利な手札だ。その危険を冒しても後援者が待っているはずだったのに、いなかった。そして、今は軍が包囲している。後援者の手勢が危険を感じて逃げたのか、始末されたのか。この4日半は無防備な隙だと思ってたけど、ここを包囲する人数を考えれば、逆に早すぎる。知っていなければできない動きだ。そして、こんな探られる目印のような腹を見せるのは、鉄壁の言い分があるから、軍が動いて自然な理由がね。』
ローレンで追い立てられたナリアラは、重要な情報を得る機会もなかったと見る。軍の動きを知られない為に追い立てた意味もあったか。ここまで来ると、ライドには常識が違いすぎて、口を挟めない。ただ、追手の狩の技術が高くて圧倒される。それを読むソドムの想像も、合っているなら驚異的だ。狩られる側になったらと思うと背筋が寒くなる。
ただ、話を聞く限り、包囲への動きは悪手ではなかろうか?。軍を動かして不自然ではない相手を相手取りながら、ナリアラの何を制限するつもりなのか?。
『ナリアラ女史に罪状がついたのかもね。他の貴族の協力者が接触できない程のさ。それなら、逃げる協力者をナリアラ女史は無知故に追う。罪状によっては黒幕と見られては不味いこともある。依頼者は逃げ切るためにナリアラ女史を切り捨てるかもしれない。でも軍を動かした追手は自由に使える有能な人材には事欠かない。相手の尻尾を掴む気だよ。本気度の高い作戦だ。』
「追手の目的は?。確認方法は?」
『包囲してる軍に侵入するのが早い。罪状の手配者なら見えるところに掲示してるだろうね。複数の目的を絡ませるのは不思議じゃない。それぞれに責任者も居れば十分な人手もあるからね。ただ優先順位はある。』
「包囲の相手を確認しよう。隠れて中を調べる。」
ライドはナリアラに改めて提案する。今度は目的の明確になった調査の提案だ。ナリアラは少し口元を緩める。これがナリアラの目的のようだ。
「調べてくれるかい?。何を大義に包囲したのかを。ロニ。一緒に行って奴らが動く予兆を見てきてくれ。君には時期を探って欲しい。軍の経験のないクレイル君には荷が重い。」
ナリアラは腕組んで目を閉じる。
「反対です。サティとザードと関わった大柄な少年は、今朝も教会におります。この者の言葉は嘘です。信用に値しません。」
ロニは敵意に満ちた目をライドに向ける。
「調査が下手だな。俺と同じ程度の体格の男としてトフソーがいる。見間違いか、ちゃんと2人いるのか確認したのか?。俺はここにいる。」
ライドは否定する。ロニの情報は又聞きに聞こえる。ろくな確認はしていないだろう。物証がないなら堂々としていれば時間が稼げる。これはソドムの入れ知恵だ。軍が仕掛ける時期はもう間も無くと確信している。残された短い時間、黒にならなければいい。
それにしても一体ソドムは何をしてきたのか。考え方が怖い。それともこれが貴族なのか?。
「手を繋げる部分だけ、俺を使えばいい。俺は子供が被害者にならない手伝いがしたいだけだ。」
「クレイル。ロニをあまり挑発しないでやってくれ。素直で面白いだろうが私にとっても君は心がざわつく存在だ。」
ロニは面白いと言われて口を尖らせる。そのロニを、ナリアラは嗜めながら話を戻す。
「君は避けたいと願う現実を突きつけてくる。だが参考になった。君を寄越した者にも感謝を。」
「寄越したと言われともな。そういえばシャルの姉は流行病だと言ったな。状態はどうなんだ?。」
「発熱、嘔吐、下痢だ。今は数人の発病者と共に隠れ家にいるよ。」
隠れ家に閉じ込めている、が正確か。しかし4日半前の情報だ。ナリアラの無機質な声に押し殺した感情を感じる。年齢は14歳だという。
ライドは「そうか」とだけ応える。故郷と変わらない対応だ。流行病は集落の存続に関わる。一度発病すれば、年齢性別問わず隔離され、半数程が死ぬ。親を求める子供の声、愛する者に最後にひと目会いたいと願う慟哭。その全てが聞く者の精神を削り落とす。それを叶える訳に行かないのが、地下で生活するということだ。これ程技術が進んでもこの事態は変わらないらしい。ライドの視界にトラウマの光景が色彩を強めて浮かび上がる。
ナリアラとロニが今後の動きについて話をしている。その中でロニの話す言葉に注意する。
「此処の周囲は崖に囲まれています。崖側は登れば遠目にも目立ち、実式で警戒されれば登れません。実式の捜査には闇も影響がありませんから。火や里への突入もないでしょう。シャルを生かして捕らえるなら、混乱による不慮の事故を恐れます。私は堂々と勧告に来ると思います。不利な記憶は残させない為にも合理的です。里の者は封鎖に疲れつつあります。食糧も心許ない。里の者に封鎖の原因を引き渡そうと動くのではないでしょうか。」
ロニはナリアラに佇まいを直して嬉々として応える。その姿は懐いているようにしか見えない。また、話す内容からナリアラもロニも捕縛の線を第一に見ていると分かる。ソドムはローレンに誘導されたとみているが、2人はそうではない。
「割り込んですまない。今の話を確認したい。実式は離れた場所を見れるのか?。記憶は好きに引き出せるのか?。」
「ふんっ。離れた場所を見るには2つの方法がある。動物の眼と同調する方法と数人が協力して範囲内を捜査する方法だ。特に「捜査」は便利だ。だが環境の変化に弱い。煙とかな。記憶を探る技術はまだ新しい。質問で想起された記憶を覗くことができる。だが、記憶は選べない。」
ロニはライドへの敵意と裏腹に丁寧に説明する。ロニの考えが見えない。
ソドムも予測が立てられないでいる。ロニが内通者の1人だ。その筈だ。
4日前のあの日。意識を失ったナリアラが命を絶たれれば、ロニはシャルを好きに誘導できた。「詰み」だ。最大の利益を目指せる下地が完成する。だからこそ追手の 引き際鮮やかだったし、暫く目立った動きはなかったと見る。しかし、その絵図を、ロニは何故か破綻させた。裏切りにも等しい行為だ。
『是非、包囲の指揮官を調べたいね。もし貴族がいるなら、軍については全権委任されてる可能性がある。現場判断で方針が変わるなら、そこはつくべき隙だ。』
今の指揮権は包囲する軍にあるとソドムは見る。追手が計画を修正しようとするなら判断の早さが命。現場で指揮を取る必要がある。ただ、これには危険もあり、それまでの計画に歪みが生まれることもあるとか。指揮官が違えば、方法は変わるものだと。それを見極めるのは難しいが、やるしかない。
さらに、ソドムは里に止まる来訪者についても言及する。この男は狩人で、包囲された森の中を1人で抜けてきた。包囲者の意を汲んでいない筈だがない。ならその役どころは何か?。知った上で調べる必要があるらしい。普通に里で暮らすところを見ると、元は里の者と見る。
『私は、大義が生まれ、この地に駐留している軍勢の一部を使っているんだと思っている。』
ソドムが見解を語る。
大義とは、集落の規則に近い。此処では「法」と言い換える。ソドムはその大義の根拠は貴族殺しとみる。
最も使い易く、最も一定以上の罪を生み出せる。
貴族は尊重され、その命は尊ばれる。しかし、尊ばれるにすぎない。現実に貴族を殺すのは貴族だ。しかし、罪として利用するなら、下手人は平民になる。
証拠の捏造だ。その為に人手、資金、時間を投入するのだが、それをまとめて資源と呼ぶようだ。
何とも不平等な話だが、貴族が正当に決めたことに対して、平民は覆すことを許されていない。
形になってしまえば、その改編に文句を言えるのは貴族だけになる。そして、多かれ少なかれ身に覚えのある貴族が文句をつけることはない。そもそも貴族が証拠を隠滅した場所から、証拠を探し出すのは分の悪い賭けになる。それだけの利を見出せる理由がない。
『軍の優秀な人材を動かす理由になる。依頼の貴族が接触や援助できなくなる。仮に捉え損ねても目標に隠遁生活を強要できるし、目標の味方を装った信号を散りばめて待つだけで、大抵の炙りだせる。今回の追手はナリアラ女史の後援者との繋がりを示せる物証を手に入れている。直接シャルとその貴族を接触させれば言い逃れできない機会になる。本気で家一つ潰す気かな?』
ソドムはナリアラには既に勝ちはないと断言する。精々、成長し、シャルの人相が変わるまで隠れ、負けに近い引き分けを狙うしかないと。そうでなければ、追手の貴族を全面降伏させるか?。伯爵以上なら、精鋭だけでなく英雄も抱え、裏組織も傘下に収める可能性が高いとか。この時点で非現実的だ。更に高位の貴族に脅しに屈する発想がない。手を下させ、全ての貴族から敵と認識させれば、その周りの人間含めて綺麗に更地にできる。統治の害悪になる存在を認める発想がない。
『ジュヌ教会で聖者の絵をみたろ?。邪魔だと思えば住民を扇動するのは得意中の得意だ。』
ソドムの言葉に、ライドは肩を竦める。何とも言えない。
ため息が出る。この複雑な蜘蛛の巣はなんた?。何処を見ても糸しか見えない。ライドには取り除けない丈夫な糸だ。
『貴族は行為を下請けに移管する。足がつかないようにね。追手が失う資源は資金が中心で、人手や時間は殆ど使ってないんじゃないか?。別の目的で駐留している軍を利用すれば使う資源は最小限。消費されるのは立案者の時間だけ。指揮権を移譲した軍に後継者でもいれば、いい訓練もできる。』
聞けば聞く程、シャルの価値が分からなくなる。追わねばならない程の弱点ではないのか?。
『大義が確定すれば、収支は利益に振れる。シャル君が後援者と接触する。そんな止めを刺さなくても、大義の手札だけで動きを押さえつけることはできる。この大きな利が活きる間に何を手に入れるのか?。本命はそっちだ。』
「シャルは取られてはならない存在じゃないのか?。殺してでも渡せない情報があるんじゃないのか?。」
ライドの口にした言葉に、ナリアラとロニの会話も止まる。
『その価値は失われてないよ。多分ね。でも、大義が生まれた時点で使えなくなった。その類のものだと思うね。犯罪者の主張を聞いれるとは、黒幕を宣言するようなものだ。罪状によっては貴族の地位は失われる。もし私の想像が正しいなら、追手は既にシャル君が利用できる舞台は無くなったと見てる。もう守る必要もない。死んで困らないし、放っておいても何は追手の手元に戻る。』
何だかよく分からない。大義とは、相手から主張への信頼まで根こそぎ奪えるものなのか?。つまり、大義が成立した時点で、この包囲の相手は守りは完全になり、攻め手に優位な許可証を得たということなのか?。
シャルという子供の人生は?。
『相手が貴族だと分かった。逃げる覚悟は決めておいてくれよ?。指揮の統括者はそもそも邸の中から動いてない。遠話があれば有り余る人手から、同時に情報を集める手段も、それを精査する人材もいる。数の暴力は1人2人の嘘つきやこちらの協力者の存在なんてものともしないぞ。他の情報筋からすぐに判別特定するさ。私ならローレンにもミラジにも十分な人員を配置する。この2つしか都市がない場所に追い込んだんだ。少なくともシャル君は必ずここを通さなくては体力が持たない。その要所は押さえやすい。万が一の為に、例えば目ぼしい人には、誠実にナリアラ女史に協力させて、行き先の情報だけ後で連絡するように依頼する。この程度の罪悪感なら、夜飲む酒をひと瓶追加する為に実行するさ。報酬の二重取りだ。』
何というか、ソドムは心底楽しそうだ。
「・・・。情報を集めてくる。獣も狩って戻ろう。どの選択肢もナリアラとシャルは野営しながら移動することになる。保存食の準備がいる。早めに手をつけないと時間がかかる。シャルは野営に慣れていないはずだ。」
「準備は進めているが、肉が手に入るなら有難いね。頼むよ。」
疲れた顔で頭を振るライドに、ナリアラはそう言い残して里に戻る。
ロニは複雑な表情で見送るが、暫くするとライドに振り返り、低い声を出す。
「真に受けるなよ。里の場所を知らせる気は無い。報告は私がする。だがその前に問わねばならない。」
ロニは微かに殺気を出す。本物だ。殺す言い訳を探している。だとすれば、ナリアラに逃げる準備を優先させたくないと言うことか。
今朝の侵入者の情報と合わせれば、追手の行動は、今日、明日中に始まる可能性が高い。
『間に合ったと考えよう。熊の肉を持たせて、ナリアラの注意を私達に向けるまでは成功だった。あと一日、早く行動したかったね。』
ソドムの言葉に苦笑で答える。ナリアラが起き上がれなかった以上、どうにもならない。
ロニが一歩間合いを詰める。迷いない足取りだ。人の命を奪い慣れている。そう確信する。
こんな若く嘘の苦手な女ですら人の命を奪い慣れている。そう思うとため息が出る。
「疑われているのはロニだ。何も感じないなら言おう。包囲する者の確認は何より優先する。何故今までロニに森の様子を確認させていない?。俺のような部外者に関わっている暇はない筈だ。毎日ロニを派遣していたのは何故だ?。ロニがナリアラを看病する間、シャルはどこに居た?。此処を出たら仲間と連絡を取る。その時シャルを預ける人手は1人でいい。ロニが役目を果たせるなら何故動かない?。俺への謝礼は口実だ。俺の手を借りる理由は何だ?。」
ロニの顔に一瞬怯えが走り、静かな殺気に変わる。
ナリアラは間違いなくロニの裏切りを疑っている。しかし、それでも利用せざる得ないほど人手がない。正確には追手に徐々に削られた。
そこに気がつかないロニは拙い。20歳の意識はこんなものだろうか?。更にロニは追手にとっても裏切り者だ。
自覚はないのだろうか?。
「追手はナリアラがトドメを刺され、シャルとロニだけになる状況を望んでいた。4日前、ナリアラを包囲した男は、馬車に全く興味がなかったしな。」
「貴様を拘束する。従え。」
「俺は包囲者を確認する。」
ライドが答えた瞬間、ロニは斧槍を動かす。ライドは距離を取るように後退する。
斧槍の軌道は読めない。「知覚」濃度を上げなくては軌跡が追えない。4日前、ナリアラとそれを囲う4人の戦士の動きから痛感している。
ライドは、後退しながら予め準備していた「歪」に飛び込む。ロニの一撃は根本的にライドにとって脅威にならない。離れる分にはよく見える。
ロニは慌てふためいてあたりを探す。その様子をライドは「歪」を通じて手の届く距離で眺める。
今ライドがいるのは枝葉の茂る借宿の屋根の上だ。大して離れていない。
「俺は逃げるのが得意でね。此処からは別行動だ。」
ライドの声は、ロニには耳元と周辺から重なって聞こえることだろう。位置を掴めず、胸の緑色の宝石を掴んで喚く。動揺しすぎだ。
ロニに戦士の歩法はない。精々直線で走り抜けるだけだ。ライドはそのことを認識する。「知覚」が狭すぎる。ロニのように10メールもない「知覚」範囲では制御は出来ない。森の中で使えば一瞬で何処かに激突する。
激突は戦士の歩法で最も気をつける項目だ。眠るのと意識が予期せず途切れることは、似て非なるものだ。眠る最中、心臓が動き続けるように、意識しなくても「力」は維持される。しかし、意識が途切れると「力」は途切れる。そこには身体機能強化も含まれる。激突する瞬間は意識が途切れる前だが、風の壁の向こうから此方に戻る時には意識と共に身体機能の強化は失われていることになる。そうなれば風の壁が生み出す衝撃は人の体など簡単に四散させる。
筋力の質を高め、より「力」を高めた熟練の戦士長が上を目指す時まで、この問題は戦士の歩法について回る。
『ロニを置いて行くのか?。有る事無い事言われるぞ?。』
「連れて行けば見つかるように行動する。ナリアラの信頼は情報の有益さで補う。」
『なら仮定の裏付けからだ。思い込みで動く訳にはいかない。次に逃走経路だ。シャル君を確保して退却する線も捨ててはナリアラ女史に言葉は届かない。例えば子供の気配はわからないだろ?。』
「ああ。無理だ。」
『なら軍は幾つかに舞台を小分けにして退却する。軍を無視する訳に行かない。更に少数精鋭の移動者を交えられたら判別は不可能だ。何処から当たっても賭けになる。事前に有力な経路にあたりはつけておきたい。』
ライドはソドムとの事前打ち合わせを終え、屋根の上から飛び降りる。
ロニは今更気がついたようだが、ライドは再び掻き消える。今度は「歪」ではない。そよかぜと戸を叩く程度の小さな音を残す戦士の歩法だ。
『最後に確認だ。ライド。今回、勝ちはない。敢えて言えば、この場所からナリアラ女史とシャル君を、一時的にでも監視から外して逃がせれば勝ちだ。私達にできる限界だよ。でも、もし失敗したらどうする?。君はこれからも関わって守るのかい?。』
ソドムの言葉にライドは答えられない。守れる気がしない。
そして、抵抗がある。ライドが時越えで失った価値は、2つの命に焚べられて満足などできない。
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