第5話
ハッシュベル駐屯地に着いて3回目の朝、キャシーがハッシュベル駐屯地の集まりに案内するとやってきた。
『ハッシュベルが撤退派に回るとは思わなかったわいな。』
キャシーはそう漏らす。
ハッシュベルとはハッシュベル駐屯地の名前だが、元は最前線の流通権を買った商家の屋号らしい。
彼らは今まではセリーヌと同様、一貫して調査派だったが、昨夜、態度が一変し、撤退派に回ったと言う。
ハッシュベルの長の意向とのことだ。どんな思惑か分からないが、これで天秤は撤退に傾いた。
ライドは吊るした腕の痛みに頬を引きつらせる。右半身の負傷は癒えた。まだ力は入れ難いが見た目程酷くない。右腕も指は全て動く。順調だ。金の刺繍の女セリーヌの施しに感謝する。セリーヌの希望とは反するが、赤子の模倣「御遣い」を撲滅することで応えたい。
赤く照らし出される岩肌と広く凹凸のない天井を見回す。ここは広い。その空間一面に天幕が犇く。周囲を警護する戦士はちらほら見えるが、一様に緊張している。撤退か。進軍か。その決定を待っている。
平和だ。蛇や蛙がライドのいるこの場所に近づくはずもなく、時折動く死体が現れては退治される。
今のところ、赤子の模倣や手足の長い鱗の巨人の出現する気配はない。特に赤子の模倣が動いたなら、可能な限り全てを捨てて逃げると心に決めている。戦士の矜持は集落の犠牲より個人の死を求めるが、この地域の集落は地上だと分かった今、ライド自身の命の優先順位は高い。
『ライド、周りから何か分かることはないかい?』
「赤子の模倣に動きはないな。」
『そうじゃなくてだな。セリーヌ元皇女達の方だよ。この視界にも慣れてきて思ったんだけど、周りの視線、敵意が凄いぞ。平気か?。』
「気にするな。」
ソドムは実戦経験がないらしい。やる気のない敵意などないのと同じだ。
『ここからが私にとっては本格的な社会復帰だ。楽しみたい。』
「地上は憧れ。楽しみな。」
『初々しいね。でも、色街はダメだぞ。ライドにはまだ早い。』
「行きたいのはソドム?」
『ライドの行為を見て楽しむ趣味はない。それに体がないせいか、こう、芯から沸き立つものがないんだ。ライドはどうなんだ?。思春期真っ盛りだろう。』
「興味ある。今の作法を教えて貰う。」
『思春期らしくない意見だ。もっとこう。勢いはないのか?。』
ライドは極力此処の言葉で答える。これも訓練だ。
ソドムはライドの外見を確認しても、呼び名が変わらない。四六時中子供扱いされないのは助かる。見た目はとにかく、中身は80才前だ。ライドの外見は17、18才らしい。これには年の数え方の違いもある。封印前の時代には、数字に「ない」を表す「0」がなかった。ライドの記憶で外見が18才なら、今の数え方では17才で丁度良い。しかし、18才と名乗ろうと思う。
「音は?」
『大雨の中にいるようだね。視覚と同じで焦点が合ってないのかもしれない。今のところ手掛り探しだ。』
ソドムはため息をつく。
キャシーの後を暫く進むと、塀の人が集まり、移動の用意をする集団が見えて来る。目的地はその先だ。大きな天幕の赤い布が見える。
移動の準備を指示する者は戦士には見えない。商人だろう。昨日のキャシーの話から情報を結びつける。その周りは数人の戦士がいる。何人かの商人が挨拶をしながら、和かにライドに近づこうとする。しかし、キャシーがそれを止める。それを見て、似たような動きをする男が苦い顔で戻っていく。
少し話をしてみたかったが、セリーヌから接触者を制限されている。情報の制限は厳重だ。今は実式で頭の中を覗けるそうだ。しかし、その厳重さには違和感を感じる。知られるだけで勝負が決まるかのような仰々しさだ。
「あれは何て動物?。大人しい。人が怖くない?。」
『見たことないのか?。言葉は違っても生き物は同じだろうに。あれは「ろば」だ。荷物の運搬に連れてこられたんだ。人に飼われてる動物さ。』
「生きていた方が役に立つ。だから食用ではないな?。」
ライドは養殖を試みた頃のことを思い出す。50才前後の頃だったか。地下で食べ物が得られれば、危険を冒して地上に出なくて済むと期待したが挫折した。健康、運動不足と言った獣の問題だけでなく、臭い、糞尿が齎した疫病に苦しめられた。
『飼育している動物については、役に立つかどうかだね。勿論、食べることもある。でも、感情的に食用にできない動物もいる。問題は見た目が動物に見える亜人だよ。その線引きは食糧難の時期には苦労させられた。結局、当時は亜人とは手を繋いで交易すると決めた。それは今も同じらしいね。食べる食べないの関係じゃない。』
「その言い方だと土の人、森の人以外にも言葉を喋れる種族がいるんだな。」
『勿論。言葉が通じるか否か、まずはそこで判断だ。』
確かに、言葉を交わせる相手を食べる気にはなれない。逆にどんな動物にでも意思や情はあるが、巣の全ては無視するということだ。
先を進んだキャシーが身振りで、此方に来いと呼んでいる。テント前の見張りに到着の連絡を頼んでいたのは知っている。返事が来たのだろう。
ライドは既に大体の会話は理解できる。キャシーから話を聞けたお陰だ。眠れない夜に、言葉と音を繋げる作業は良い気晴らしだった。
キャシーが先導する赤い大きな天幕は、中に入っても広く、槍を構えた戦士らしい姿が壁際に並んでいる。
キャシーがランタンに灯した実式の光と同じ、白い光で満たされ中は眩しい程明るい。
広さの割に人数は少ない。中央に長机が3つ並べられ、6人の席につく姿がある。机は木の板の中央に足を立てた簡素な作りのものを長机のように並べ、椅子は木枠で立方体に打ち付けたものだが、綺麗な形だ。ライドの故郷にはそもそも綺麗に木を削り出す技術がなかった。
そのコの字型の並びの間に空いている席がある。キャシーはライドをその居心地悪い席に導くと、一礼をしてテントの外に退出する。
ライドを囲うように座る身なりが上質な6人を目で見て「知覚」で確認する。戦士らしき姿が2人。女が1人。そして、商人らしき壮年から初老の男が3人だ。ただ1人の女は、金髪て金の刺繍のされた白い衣を纏うセリーヌで、戦士の1人はディーンだ。他は分からない。
ライドは膝の上に置いた拳に「力」を集める。ソドムの視界は指先でなくても維持される。ソドムの訓練の成果だ。
ちらりと帽子を取ったディーンを見る。「知覚」である程度造形は分かっていたが、まともに素顔を見るのは初めてだ。
やはり若い。いや、幼い。
16歳という年相応の瑞々しさのある茶髪と褐色肌。大きな目を光らせ、可愛らしいとさえ言える顔立ちを見せる。
「ディーン。その男が?。」
奥に1人座る男がディーンに問いかける。髭を生やし、壮年にはまだ少し若い。眼光と威圧感が他の者とは違う。黒髪に褐色肌。引き締まった中肉中背の容姿で、地上班として申し分ない「力」を感じる。戦士にしては細いが風格は戦士長のようだ。
「はい。500年前の時越えの人、ソドムとその依代の少年です。」
ディーンの返答に、周囲の視線がライドに集まる。値踏みする遠慮のない視線。その視線は戦士長の風格の男の声で切り上げられる。
「確かに若いか体が大きいな。普通に鍛えたとは思えない程だ。だが少年の方は教会で更生で良いだろう。ソドム殿は依代ができ次第、領主様を庇護者とする。撤退だ。以上。」
「御心に添いませぬ。」
男の宣言にセリーヌが即座に反発する。
「我々は神が遣わした時越えの人と、御遣いをお迎え致します。優先されるべきものをお間違えでは?。神の御意志は今なお示されております。その依代の傷はもう癒える頃。御遣いのお言葉を多くの者が耳にしております。この高い士気を無駄にするのは愚策に聞こえます。」
「仮定の話は不要。そもそも今回、教会は民の不安や苦しみを低減する機能を果たしていない。御遣いがお言葉を発するなら、案内人は教会でなくてもいい。既に80日で決着をつけるべき調査は120日を超え、各地の暴動の鎮圧の方が先に終了しつつある。無駄な犠牲を抑える目論見は失敗したのだ。」
「民の潜在的な叛意は広がり続けております。この叛意は御遣いのお言葉以外では収まりませぬ。シャビ殿。思い違いを正すべきかと。御遣いはジュヌに導かれ、あるべき場所で発されなければなりません。信者はローレンの領民だけではないのです。御遣いは我らの崇める神からの使者。その礼儀を弁えるのは日頃よりお仕え申し上げている我ら。仮に教会から御遣い様の保護を持ちかけたとしても、信者は御遣い様を取り返す為に大きな炎を立ち上げることでしょう。」
「貴族会は御遣いの行いに否定的だ。神の代理として民を統治する貴族に挨拶もなく地下に潜った。御遣いは貴族の上に立つ存在ではない。共に神の代理人だ。一貴族に過ぎない。その一貴族が民を扇動し、暴動に導いた罪は見過ごせない。貴族会はその真意を問う為に案内するのだ。ジュヌの神の御遣いの目的は人を統治することではないのだろう。その目的が人に害なす行為なら許可できない。」
シャビは一つため息をつくと、「その調査に派遣されるのが、アズール=セレ様とは。お祭り将軍に何をさせるおつもりなのか。」と愚痴を零す。
「この決定の顛末は広く知れ渡りましょう。ハッシュベルはそれで良いと?。」
「我々には選択肢はございますまい。撤退を支持します。」
セリーヌの視線を受けた初老の男が、苦笑を浮かべる。そして、シャビと呼ばれた戦士長の風格の男に向かい、改めて目礼を送る。
シャビは尖るように伸びる顎髭をひと撫し、再び撤退の決定を宣言する。セリーヌは目を閉じ、反対意見は出さない。
「ではディーン。今後の対応を話せ。」
「はい。シャビ殿の許可を頂きましたので、発言致します。ご存知のこととは存じますが、キルケニー家の四席を頂いておりますディーン=キルケニーと申します。」
ディーンが立ち上がる。
「郊外に野営する信徒の数は、昨日500名を突破。住民が受ける圧迫感は増すばかりです。お互いの衝突を避ける為、一昨日からジュヌ教会の午後の祈りを野営地で実施しております。信者にとって「日常」とはジュヌ教との関わりです。領主様からは衛兵の配置を手厚くする旨、許可頂きました。配置は、ローレンの住民から見て、衛兵が盾と見えるよう行います。」
ディーンはすらすらと報告する。
「また、ジュヌ教野営地は「御遣い」のお姿を確認するまでの暫定居住区と明確に致します。野営地における改善要求は教会で集約し、領主様を通じてハッシュベル商会に対応頂きます。また、教会乗る活動に伴う配給も受け持ちます。野営地は今後、拡張が必要になると思われますが、要求への対応、調査状況、その情報更新はハッシュベル商会が、信者の対応窓口は教会が務めます。」
ハッシュベルの初老の男が、短く「承知しております。」と答える、
「野営地集団の代表には各種配布の指揮及び軽微な罪状に対する刑罰の執行権を与えます。また、自警団を募集し、治安向上を図ります。取り急ぎ行う必要があるのは、天幕の設置と水や洗い場の確保になります。野営地の中には妊婦もおります。医療設備か必要です。これらはジュヌ教会の指揮下に置きます。責任者はアウデリア司祭にお願いしております。」
ディーンはそこで、白く厚め紙に黒く文字の書かれた束を取り出す。
「お話しさせて頂いた内容を記した書類です。契約承諾の確認はレドール侯爵家執政官殿、領主様側近殿、領主様から言質を賜りました。正式な契約は地上に戻ってからになります。現在締結が済んでいるのはハッシュベル商会だけです。」
ライドはソドムに聞かせる為、小声でディーンの言葉を復唱する。今の言葉で。
「また、傭兵団についてですが、既に機能しておりません。領主様との契約を解除し、烏の宿の傭兵としてハッシュベル商会のベルローレン調査に加わる予定です。調査拠点はベルローレン入り口側の旧拠点を再利用します。此処は裏道が多く、物資の貯蔵にも適しています。学院からの調査隊も有料で受け入れます。ハッシュベル商会の発掘品の独占権、駐屯地維持業務は継続とし、アズール将軍引き上げ後には、調査を再開できるよう、準備を進めます。」
一度撤退するとはいえ、調査は中止ではない。
話の間、セリーヌは説明するディーンではなく、ハッシュベルの名代として参加する初老の男に目を向ける。殆ど睨みつけるような眼光だ。
その様子を見たソドムはセリーヌがハッシュベルの弱みにつけ込んだのではないかと仮定を口にする。
長く分からない単語を省略して掻いつまめば、ハッシュベルは利益を見込んで相当な無理をしている。発掘品の「優先権」ではなく、「独占販売権」を領主から買い取ったという。これは相当な高価な権利らしい。発掘品の目録を作る必要もなく、勝手に売買する権利だとか。正直ライドにはその仕組みからわからない。その利益は発掘品の買取手が侯爵であり、相当な値段で取引されるからとった行動なのだろう。
後から聞いた話では、遺跡に何もない可能性もあったはずというから、裏付けの調査はしたにせよ、冒険しすぎだと思う。
その販路の為に に低位の貴族の後ろ盾を得て横槍を入れられないようにしたが、セリーヌが別の有力な貴族を使ってその販路を乗っ取った。
侯爵以外ろくな買取手がない為、セリーヌは仲介料を制御してハッシュベルを生かさず殺さず、調査継続に追い立てたとみる。
此処から先は撤退の道すがら、ディーンからの情報を加味した上での話だが、ディーンがこの販路を更に乗っ取ったらしい。侯爵の後ろ盾を得てだ。侯爵とは相当高位の貴族らしい。普通は関わらない存在らしいが、「山岳の悪魔」は現侯爵と統一戦以来懇意だった。そこで餞別、およびジュヌ教のローレンの流入が齎す不安的な情勢を収める案を条件に、侯爵はハッシュベルから学院を通さず直接取引をすることに成功した。ハッシュベルは相当厳しいかったのだろう。領主への発注であり、利益は見込めるにしても難民の野営地の管理と言う出費をほぼただで飲んだそうだ。
対して、セリーヌは弟であり、徴発権を持つ「お祭り将軍」の異名を持つアズール=セレのローレン入りを要請した。ローレン領主が何を言おうと、契約締結前に抑えてしまえば侯爵との取引の条件であるジュヌ教難民の世話は出来なくなる。ローレン領主は子爵という低い位の貴族らしく、中に入ったお祭り将軍の行動を制限できる権限はないのだとか。
しかし、1日程度の差でディーンの締結が間に合った。侯爵との契約は王族といえど無碍にはできない。特にレドール侯爵というのは、統一戦争の英雄らしい。軍事力としての背景からも、敵対したい貴族は居ないとディーンは語る。
実式という技術が離れた場所と会話を可能にしたからこそのやりとりだが、こんな話を2日程度でまとめたディーンの能力にソドムは舌を巻く。この地域の16歳とは凄いものだと朧げながらにライドも感心するが、キャシーはディーンが特別だと苦笑する。
話合いは終了し撤退準備に入る。ディーンが解散後直ぐにセリーヌに歩み寄る。セリーヌは予期していたように護衛を立ち止まらせ、綺麗な姿勢で待つ。
「傭兵団の販路を手放したのですね。短い時間で頑張りましたね。若者の台頭は喜ばしく思います。」
開口一番、セリーヌがディーンに言葉を投げかける。ディーンまだ距離が離れていたが、慌てて腰を曲げ、頭を下げつつ右手を左肩に当てる。
今の目上への礼儀のようだ。
「実体のない僕達「山岳の悪魔」には過ぎた宝です。売れるうちに活用できて幸運でした。」
セリーヌは和かに微笑を浮かべ、その目を細める。仕草は柔らかいが、視線は攻撃的に見える。
結論から言えば、状況はソドムの読み通り。セリーヌの内面は厳かな透明感を纏う雰囲気と一致していない。これは人同士の狩で、セリーヌは優れた狩人の1人かと思う。しかし、獣の脅威を失うと、人は人の間で狩を始めるのか。それはなんともやるせない現実を突きつけられた。
セリーヌは随分位の高い女性らしい。こんな場所に来るのは不自然に思える。
これにソドムは「目録を作らせる為だろう。」と述べる。教会に降嫁したセリーヌは厳密には高貴と呼べるほどの地位ではない。しかし、元王族に現場で求められて拒否できる平民はまず居ないとも言う。「お祭り将軍」の件の通り、王族としての繋がりは残っている。
『何を探しているのか、奪う気満々だ。買う発想はないらしい。それにお祭り将軍というのは、多分、派閥に功績を与えるための行事主催者だ。なのに動きが早すぎる。元々ローレンで不安定な状況を打開する作戦があるだろうな。セリーヌ皇女の件はついでだ。』
ソドムは更に、セリーヌの手段は強引だが、領主としても遺跡発掘に注力されたくない為、領主に黙認されたと見る。また、セリーヌにごねさせない為、キルケニー伯爵の名代として、ディーンは兄シャビの派遣を依頼していた。どちらもいつから絵図を描いていたのか不安になる程動きが早い。
それを可能にするのは情報だとソドムは話す。この地の情報の持つ意味合いはかなり重いようだ。
ライドは聞けば納得できる部分はあったが、知恵ある敵は面倒だという想いが先に立つ。
「ディーン様は何をすべきか、ご自分で分かっていらっしゃいます。そうですね?。期待しておりますよ。」
幸運を口にするディーンに、セリーヌは静かに微笑む。ディーンは一歩近づくと、再度一礼する。
「この度は行き違いがありました。残念です。何か他のご用命が頂ければ、謹んで拝命いたしましょう。我々は傭兵。雇われれば契約を履行いたします。例えば、山岳の悪魔にはハッシュベル商会からの追加報酬として、僅かながら発掘物の所有権を持っております。これを使い、セリーヌ様が必要とされる発掘物を入手致しましょう。」
セリーヌは軽く頷く。
「それには及びません。あるべきものは、あるべき場所に戻るべきでしょう。」
ディーンは笑顔のまま、一呼吸置いて言葉を繋ぐ。
「他のご用命を頂けると?。」
「頼もしいお言葉ですね。」
セリーヌの口角が上がる。
「ですが違います。ディーン様には神のお導きが無いご様子。」
「心外です。私は今までも、そして、これからも、依頼に忠実な傭兵です。そして、傭兵は仕事を生み出す方を好むのです。セリーヌ様。」
「なら、お示しなさい。私の前には神からのお導きが示されていました。違えることのない道です。」
セリーヌは優雅に一礼すると、ディーンに返答の間を与えずに、周りの者に移動を合図する。
話の内容が途中から掴めない。それでも、ディーンがセリーヌに振られたことは分かる。
ディーンは大きな帽子の下から覗く口角を引きつらせる。帽子の下に手を入れ、顎や額の汗を拭う。
「まだ手を打ってるのか。その情報はないな。どう調べたもんかね。」
呟くディーンに、ライドは近づいて言葉をかける。
「ふられたな。」
「誤解されてるだけだよ。」
ディーンは短く笑う。ディーンに話の内容の要約を聞くと、侯爵に手を引かせ、今回のディーンの計画を白紙にしろと言われたと答える。それができないなら、予定通り発掘品は徴収すると。そんな複雑な会話だったのだろうか?。しかし、この内容を、誤解と言い切るディーンもまた頼もしい。タフな状況への場慣れを感じる。
「セリーヌ様もこの場で打てる手はない。全ては戻ってからさ。」
ディーンはそういうと、セリーヌの目的も「御遣い」ではないと話す。
「何が目的なんだろうね。この調査団の必要性を領主に訴えたのもセリーヌ様だ。その時からある程度絵図はあった筈なんだ。怖いお方だよ。」
そして、撤退が始まる。多くの明かりに包まれた大集団だ。その進行は遅々として遅く、休憩以外でもよく止まった。ひたすら上に上る行軍だ。
ライドはその隊の中央付近にいる。キャシーとディーン以外人を遠ざける。
2日目の昼過ぎ、ライドは知覚で上方に拓けた空間を感知する。天井の感じられない大きな空間だ。3泊4日がキャシーの見立てだから、出口までは後2泊はかかる。想像以上に先は長い。しかし、夕方には急な登りは終わりを迎える。この先はなだらからしい。その気になれば、天井を壊して地上に出られる距離に近づき、ライドの胸は踊る。
途中、ディーンから今後のライドの立場について説明があった。ライドは時越えの人の依代としての功績から教会で更生の機会が与えられる。そういう筋書きらしい。身分は最下層。この為、待遇も差をつけられるという。
ライドにとって待遇の差とは、拘束され自由を奪われることを指す。しかし、此処では食事や建屋の環境の待遇を指すらしい。誤解しかけた。
ソドムはその流れで、ライドの扱いについても言及する。
『ディーン君。一つ聞かせて欲しい。地上に戻ったらライドをどうする予定だい?。領内に首輪のない肉食獣が彷徨いているなんてゾッとしないだろう。』
「地上には優れた兵士はいます。統一を迎えて人が溢れていますから。それに、僕は、ライドは人が決めた規則を守ると思ってますよ。戦士の矜恃と呼ぶ規則に拘りがありますから。あとは時越えの人を管理する王都機関の問題です。」
『君の目的は?。』
「特にありませんよ。」
『私はライドの味方だ。それに、ライドが恩と気が付かなければ回収できないぞ?。一応、牽制しておく。』
「覚えておきます。」
ディーンが濁して話すのは、周りを警戒してのことだ。
何にライドを利用しているのか分からない。ソドムも分からない以上、考えるのは時間の無駄だ。
「交渉が重要に見えるな。此処の地域は。交渉するとして重要なのは何?。」
拙い言葉で説明を求めるライドに、キャシーが「笑顔」と言い切る。「情報」よりもだ。
「その場にいる全員に向けてな。害意がないことを示す証だな。」
「そうだね。難しい交渉になっても笑顔は大切だよ。少し失礼でも、軽く笑い声をあげていい。笑顔で終えられれば、関係は途切れない。次に繋がる。お互いしかめっ面したら大変だよ。相手を笑顔にする為の手土産も必要だね。」
成る程とは思う。しかし、それはそう簡単には思えない。敵対が濃厚な集落と笑顔で話す。不気味だし、信じられない。
『でも、約束を軽視する人には無駄かな。交渉自体が。基本は関わらないように。何を話しても自分たちの要求の実行だけを求めて、自分は何もしない。それで暫くすれば相手が破ったとか無効だと言い張る。当然、払ったものは返らないよ。彼等には自分を尊重し、便宜を図らない行為は、全て相手の責任になる。』
随分な考え方だ。それは集落で生きる為に障害になる。生き残れるとは思えない。しかし、ソドムの言葉にディーンは理解を示す。いるらしい。
戦士の矜恃に照らすなら即刻集落から追放する存在だ。
何故そんな勢力が生き残れるのか?。信じ難いが、多くの領地の意思決定の場においては、そんな存在でも交渉の天秤を動かす勢力になる。だから、その勢力は美味い汁だけ求めて右往左往する。全く信用されなくても生き延びていく。
ライドは閉口する。関わりたくない。
道程は更に進み、その日の夜営準備の間では、家族の話題になった。
ソドムは一人っ子。祖父が「平民に堕ちた貴族」という身分で、貴族向けの服職人の出身らしい。叔父が男爵を続けていたが、子がなく、父が跡を継ぎ、ソドムが継いだ。ソドムの妻は同じく男爵家から血筋を元に迎え入れ、子は2人授かったという。
キャシーは弟が2人、曽祖父もまだ健在らしい。長寿だ。
ディーンは庶子だが、兄が2人、弟が1人、姉が2人だという。
ライドの父と兄はライドが生まれた時には既に死んでいる。弟や妹は異父兄弟だ。その弟と片方の妹は、集落が地上の獣に潰された時に死んだ。母はその直前、獣討伐中に死に、ライドは、怪我を負ったが生き残った片方の妹を連れて、地上を逃げたが、程なく死んだ。そんな話だ。
伴侶のことは伏せた。特徴のある外見だ。何処かでキャシーやディーンが会っていたら気まずい。
寝る前、ソドムに地上に出たらどうしたいか聞かれた。周りに人がいないことを確認して、元の言葉で話す。
「色々体験したいね。ソドムはミラジで記録を探すのか?。」
『そうだな。でももう一つある。自分の体を作ることさ。自由に動きたい。目指すは絶世の美中年だな。』
「超える壁、高く積み上げるね。」
『私は美術品には煩いんだ。自信はあるぞ!。』
3日目。灯りに照らし出された地下は、微かな腐臭とカビ臭さに満ちたまま緩やかな登り坂が続く。
馬車が並んで走れるほど大きな洞穴だ。変わり映えもなく飽きてくる。
先程から妙に静かで周りの兵士が緊張しているのを感じる。その緊張が商人にも伝播しているようだ。
歌で気を紛らわせる習慣はないのだろうか?。昔は気を紛らわせる為に、地下ではよく歌ったものだ。
数日間にわたって無駄に緊張しすぎな駆け出し戦士が多い。いざという時が心配だ。程よく緊張を制御している戦士もいるが、素人かと思う程弱い。キャシーの話では、その戦士達は元山岳の悪魔の後衛らしい。ましなのはシャビの仲間達くらいか。彼らなら大蛇の数匹、1人でもまとめて相手にできるだろう。それでも他人を守りながらとなると勝手は違うか?。
「ソドム、この世界は好きか?」
ライドはソドムに、心に沸いたわだかまりを口にする。
『今は好きだね。昔は当たり前でよくわからなかった。今は世界に認められた気分だよ。ライドはどうだい?』
「寂しい。追って来た相手はいない。目的がない。守りたかった相手も。ソドムと逆だ。世界から疎外されたな。」
時間がなかった。時越えの為に何も考えもせず多くの物を捨てた。二度と会えないと思うと、景色や親しい者の顔が脳裏に浮かぶ。
この喪失感は無駄になるのか。やるせない。
「俺はこの場所、この地に居ない筈の存在。でも此処にいるんだと叫びたがってる。不満を見つければ注力しそうな。」
ライドの言葉にキャシーが眉を潜めて見上げる。小声でボソボソ呟くライドに周りから静かにしろっ。と声が上がる。
『私も気持ちはわかる。でも、私はライドのお陰でこうしてまた会話ができる。周りが見える。その喜びが大きい。でも私達は居ない筈の存在。その考えに賛同する。そして今の時代の全ては私達のいた過去から積み上げられたものだ。不具合があっても、それが、不要で生まれたとは思わない。今の彼らの仕組みは尊重すべきで、最低限学んでから批判すべきだ。』
考え方の違い、様式の違いを受け入れろ。ソドムはまずそこからだという。
『君は若いんだ。いっそ今までと全く違う分野で生きてみるのはどうだ?。私は多分、死ねない。死ぬ方法も見つけたいね。』
「死ねない?。監禁されたら困るな。」
『監禁はもうっ沢山だ!。絶対嫌だ!。勘弁して下さいっ!。』
条件反射のようなソドムの叫びは、血の涙でも流しそうな勢いだ。
ライドは笑う。他愛のない話が楽しいと思えるうちは問題ない。そう思う。
広い空洞に出た時、休憩の伝令が届く。ここも以前使われていた駐屯地だ。あたりをランタンの灯りが周りにかけられ、辺りを明るく照らし出す。
戦士長の風格の男シャビが、鉄と呼ばれる板を着込んだ戦士に、周辺警戒の指示を出す。
彼らはディーン達よりずっと強い。地上班の中でも熟練の域に達する。「力」だけではなく、その技と装備を合わせた強さが知りたい。しかし、当然、この休憩の間も彼らが待つような大蛇や大蛙の襲撃はない。その戦いを見てみたかったとため息をつく。
大蛇は襲ってこない。ライドにはそれがわかる。ライドの気配のせいで、大蛇は逃げるように離れていくのが「知覚」でわかってしまう。
ランタンを中央に置き、ライドとキャシーは向かい合わせに座る。そこに昼食の分け前を運んできたディーンが合流する。
「一刻の休憩だ。順調だね。このまま行くと、3泊目無しだ。」
ディーンの言葉にキャシーは言葉少なに頷く。工程の短縮は襲撃者がない為だ。
キャシーは背負いの袋から、幾つか袋を出し、中身の状態と仕分けを始める。手足の長い鱗の巨人のいた場所で回収した仲間の遺品だ。
「小分けにしないとな。」
キャシーは手早く埃を落とし、沢山の布を取り出すと、遺品を包んでは印をつける。
その間、ライド達はディーンの配る干し肉を齧って過ごす。キャシーも仕分けを終えると、干し肉に齧り付く。そうしていると、ライドは背後側から近づく人影に気がつく。その人影は少し離れた場所まで来ると野太い声を出す。
「よぉ。ディーン。ちゃんと1人で来たぞ。キャシー、お互い生き残ったな!」
「ハリー。声がでかい!。周りがソドム殿との接触が解禁されたと勘違いするだろ?。」
ディーンを呼んだ男にライドは見覚えがある。ディーン、キャシーと共に粘性体と戦っていた板と棒で戦う男だ。
キャシーがその独特な髪を揺らして、「お互いしぶといな」と笑って応じる。
「君が時越えの人ソドム殿の依代君か。君にも礼を言わせて貰おう。」
その言葉に、ライドは脳内の音を検索する。そして、同じ語調で答えた。
「ライドだな。よろしく。」
「ライド君か。君もこうして見ると凄いな。色々と。何て言うか、体の大きさも鍛え方も。それに酷い怪我だ。」
「大分マシになる。」
「訛り?。生まれは北方かい?。ローレンは大きい街だが仕事は少ない。大変だろ?。」
気さくな性格のようだ。
顎髭を蓄え今はハゲた頭を露出する。頭を覆う鉄の被り物は、今は腰に吊るしている。見た目は80歳くらいか?。年相応の貫禄がある。戦士としての力はともかく、潰しの効きそうな経験の広さを感じる。目覚めて初めての同年代か少し上の知り合いだ。
「ハリー。こんなに静かに巣穴を通り過ぎるなんて不気味なんだな。なにか知ってるかいな?。」
「有難いだろ?。でも何もわからねぇ。キルケニーの兵士がピリピリだ。おっかねぇ。」
キャシーの言葉にハゲ頭の初老の男、ハリーが肩をすくめる。
ライドは何も答えない。「歪」には何匹か大蛇の姿はあるが、ソドムに「歪」の公言を止められた。
昨夜「歪」を通って大蛇を狩った。その肉を振る舞いたかったが、ソドムが大騒ぎして断念した、
ソドムは「歪」を、警護の体制が根底から覆る恐ろしい技術だという。そんな便利なものではない。生きものが多ければその距離は大人1人分程度しかなくなる。そもそも探す時間を考えれば走った方が早い。あくまで狩でそっと距離を詰めるための手段だ。それに、使用された形跡はある。しかし、ソドムの言葉を尊重する。使えない者から見たら反則だ。距離や壁が役に立たなくなるのだから。
「ハリー。無駄口はおしまいだ。ソドム殿に礼を言いたいんだろ?。礼を言ったら終わりにしてくれよ。」
ディーンの言葉や態度が砕けている。ハリーの人望が伺える。
ハリーは降参を示すように両手をあげると、2、3度咳払いをし、姿勢を正してライドの左手の指先付近に手をかざす。右の手元には円の組み合わされた絵柄がある紙を持つ。指を切った様子はなく、蝋もない。触媒は何かと聞くと、金属の指輪を見せてくれた。
触媒には色々な形があるようだ。
「お初にお目にかかります。ソドム=ゲシュタット様。ハリーと申します。現在は傭兵団の現場指揮官を務めております。この度の救助の御礼を述べに御目通りさせて頂きました。」
『ソドムです。ディーン君から来られることは聞いています。無事でよかったですね。』
「これはご丁寧に。痛み入ります。お陰様で無事をご報告させて頂ける次第。失礼ながら以前の階級をお聞きしでも宜しいでしょうか?。」
『元ミラジ伯です。』
「ミラジ!。ミラジは今では交易都市として、この国で最も栄えた都市の一つです。魚料理が美味しく、朝の海岸の美しさが素晴らしい。その礎を築かれた方とこうして...」
ハリーとソドムの話は長い。ライドは途中から言葉の勉強に切り替える。今までの言葉とは端々が違う。尊敬語として頭の中に区分を作って放り込む。無駄に長いが、ソドムが言うには、これが雑談を交えた貴族の普通の会話らしい。ハリーも元貴族。かつてのソドムの親と同じ、「平民に堕ちた貴族」だという。
「ではまたな、ディーン、キャシー。ライド君、因みに君は幾つだ?。」
「18。」
「若いな。俺など今年で42歳だ。君の父上より年上かもしれない。またな。」
ハリーはそう言って離れていく。いや、人は見かけによらない。少し老けすぎではないか?。ライドは感嘆の息を吐きながら、ディーンに尋ねる。
「見た目によらず若い。あの風格で42歳か。80歳に見える。」
ライドの言葉に2人が首を傾げる。
「ライド君。セリーヌ様は何歳に見えるな?。あそこの兵士は?。」
「60歳前。兵士は50歳前後?」
「ちなみにディーンと私は?。ディーン、顔見えるようにして欲しいな。」
キャシーの要請にディーンが帽子をとる。一昨日見た通りの幼い顔が現れる。しかし、その目に宿る言葉は「勘弁してくれ」だ。
「ディーンは16歳。聞いている。年相応な。キャシーは若い思うな。25?。」
「土の人みたいな感覚だわな。ライド君は塀の人に見えるけど。」
キャシーの説明では、塀の人と呼ぶディーン達は18、19以降も変化を続け、土の人の倍近い早さで老化すると言う。驚愕の事実だ。しかし、ディーンとキャシーは当たり前と受け止めている。ソドムもだ。寧ろ驚かれる。
「土の中で生活すると老化が遅くなるとかあるのかね?。君は目覚める前と後で、背が伸びたりしてない?。」
ディーンの言葉に、ライドは内心で反論する。寧ろ縮んだと。そんな言葉は飲み込み、ライドは否定する。
「驚いたよ。土の人との間に血も子孫が生まれる可能性か出てきた。」
「女としては想像したくないな。」
森の人と塀の人との間には子孫が生まれることがあるらしい。これは、森の人と塀の人の美醜感覚が近く、身体の大きさも近い為という。
しかし、生物的には動物と半精霊の子となる。これは獣と人より遠い間柄だとか。それに比べれば、土の人と塀の人の子の方が生物的には近い。
「君には別の疑問もある。こんな場所で時越えの儀が行われていたことさ。時越えは精霊術で仮死状態にすることだ。ライドは精霊術で時越えしたんだろ?。」
ディーンの問いに頷く。伴侶は優れた精霊使いだ。他に考えられない。
「確かに。普通は誰かの家の地下室とかだわいな?。こんなとこに態々来て時越えしたのかいな。」
「もしくは後で運ばれたかだ。多分、後者じゃないかな?。君はこの辺りの人じゃない。」
人種の違いも疑いに上がったところだ。ソドムが『確かに謎だ。』と呟く。
『ライドは時越えの人として信用されない方が良さそうに聞こえる。』
「元々、自称の多い報告だ。このまま報告すれば埋もれるかもね。それに問題はソドム殿の方が大きい。」
ディーンは答えながら頭を掻く仕草をする。色々難しいらしい。
『私が?。』
「まずは体。元素の塊だから精霊がない。意識があって、記憶があって、精霊が居ない。常識が壊れるよ。次に500年前の知識。種の改変は教会が煩いけど、領主にとっては喉から手が出るほど欲しい情報だ。食料事情の救世主になる。適切に管理されなかったら火種になる予感がするよ。」
『昨夜の食事を見れば、2人の意見も変わると思うんだがね。』
ソドムはそう呟く。ライドのことだ。
『昨日は石を熱してたね。「力」と。』
「俺の故郷の呼び方な。」
『ライドの認識を聞いておきたい。一般的なのか?。』
ライドは頷く。それは今も同じだと確信している。先程、泥濘に嵌った荷台を持ち上げる時、シャビの仲間がしっかり地面を足で掴んでいた。しかし、基本が同じだからと言って、同じ水準の技術だとは思えない。
此処の地域の技術は何しろ高い。
「戦士にとって、風の精霊の壁の向こうで戦い続けられるかどうかが指標の一つになる。その為に必要な「力」の扱いの応用だな。石を熱するのは。」
「精鋭のことっぽいね。」
ディーンはそう言葉を挟む。この地では精鋭というのか。ライドの故郷では戦士長だ。
ライドは簡単に説明を始める。風の壁を超える為に必要なものは何かと。詳しく話す気はない。
要は体が丈夫で加速できる出力がいる。その出力を維持する為に足元が滑っては話にならない。動く範囲が広い為に視界程度の情報ではどこかに激突する。風の流れを体に受け続けては出力が音や衝撃に使われて無駄なので、体の側の風は自在に流す必要がある。服を守る為にも重要だ。そんなところか。
実際の戦闘中は、このバランスを変更しながら戦う。「力」同士の阻害を仕掛けるのも重要な要素だ。
「練気かな?。身体強化は戦士の基本だよ。出力が上がるだけでなく、受ける影響も小さくなる。精鋭なら石が風の壁の速度で目に当たっても何の痛みや怪我にはならないって聞くよ。」
ライドはディーンの言葉を肯定する。
『でも拓けた場所でないと使えなさそうだな。いくら遠くまで分かっても、早すぎて処理できないだろう?。』
「風の壁を超えると途端に歩く気分になる。逆に走ろうとするのは更に「力」がないと難しい。周りを見るのものんびりできる。自分の時間軸が変わるような変化だ。だから、普段は似たような強さの2人の戦士でも、片方だけ風の壁を越えられるなら、その強さは10人分と言っても言い過ぎない。」
一歩の歩みで加速は維持できる。その攻撃を挟むことは雑作もないことだ。
ライドは石を熱した技術は風を制御する応用で、石全体を均等に加圧し、それを手で握り潰して熱したと説明する。
「故郷では、料理は戦士の仕事な。熱する、裂く、切る。故郷の刃物は石な。それが今では道具沢山。戦士でない者がこなす。驚く。」
「鉄」と言う鉱石の存在にただただ驚く。戦士でもない者に調理を可能にするほどの殺傷力を与える。その殺傷力を利用した白兵技術はどれほどのものなのか?。「力」で感じ取れるより、大きな効果を生み出すのは間違いない。
仮に敵対したら、自分はどこまで対抗できるのか。不安が体を駆け抜ける。その不安が呼び覚ましたのか、長らく治ったと思っていた昔の病気が再発した。
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