第4話
ハッシュベルの駐屯地
そう呼ばれる場所に辿り着いたのは、治療を受けてから半日後だ。時間は夜半だろうか?。今はそれから更に1日半が過ぎる。
赤い光が毛皮を縫い合わせた囲いの出入り口で揺らめく。赤い灯りと黒い影。それが不規則でいて、一定のリズムがあるかと探したくなる揺めきだ。この場所では、何らかの方法で時間を図り、この灯火を増減させることで、昼と夜、1日の区切りをつけている。故郷では地上班が知らせていた時刻を地下から一歩も出ずに行っている。
ライドは日に3回、何だか分からない塩の強い干し肉と、暖かいスープを口にする。目覚めて初めての飯だ。ただ染み入る。量は少ないが今は痛みでそれどころではない。水は比較的自由に飲めるのが助かる。
体と右手の痛みで、ろくに休めない。
敵意に囲まれたまま、横になる気にもなれない。どの道痛みで眠れない。
身につけていた毛皮は回収され、今の人が身につける軽い衣を渡された。面白い肌触りだ。今はそれを着ているが、汗で臭う。
動いた死体に渡された四角い板は、「てがみ」というもので、中に文字が書かれていると言う。それをキャシーに渡した。
脂汗を流しながら、ライドは目に入る汗を拭う。目に染みる。胡座をかいて、左手をランタンの上に乗せる。痛みで口を開けば呻き声しか出ない。右腕から立ち上る白煙は、本当に治癒の結果なのだろうか?。この白煙は水分だ。治っても右腕は細くなりそうだ。それでも不具合少なく治るなら望外だ。僅かでも動けばいい。切り落とすよりバランスが取りやすい。
ソドムは代わり映えのしない風景に、誰か来ないものかと呟く。
ソドムは視界を手にした。ライドが指先に「力」を集めると、そこに視界を集中できたらしい。
しかし、殺風景な部屋から一歩も動かない上に、ライドに会話をする余力はない。ライドは痛みを紛らわす為、得られた情報を整理する。
◯現状
今の人は地上で暮らしている。地上は今はセレ国という巨大集落「国」が王の元、貴族と呼ばれる領主が土地を分担して治めていると聞く。
地下に住んでいるのは、キャシーら土の人だけらしい。
しかし、このハッシュベル駐屯地はライドの知る集落とは規模が違う。娯楽を含め、これほど豊かな地下集落は想像したことがない。
初めから長期滞在を前提に作られ、物資は地下で得た情報や物を独占する権利を持つ「商人」が維持管理するという。
集落の目的は2つ。この地下の調査と「みつかい」と呼ばれる生物をお迎えすること。
「みつかい」とは、あの赤子の模倣のことだ。今の人は救いを齎す存在だと言う。その認識の差に絶句する。
昨日は楽しげな騒ぎがあった。それはこの「みつかい」の言葉を聞いた喜びの祝いだとか。「御遣い」は空に現れた後、人々を無視して真っ直ぐこの地下に消えた。ここの人は、「みつかい」はここの人が迎えに来るのを待っていると信じている。
キャシーはその理解に苦しむ考え方を「試練」と呼ぶ。乗り越えれば望みが叶うらしい。意味がわからない。しかし、その考え方の影響は大きく、キャシーの仲間は、試練を超えられず壊滅したとされた。「粘性体」や手足の長い鱗の巨人の存在は無視されている。「御遣い」のいる場所に、そんな存在がいる筈がないとの見解だ。
病的な楽観論だ。死んだ仲間の真実も伝える気がない。ライドの心象は最悪だ。
この点について、キャシーはそれだけ地上は混乱していると釈明する。
○治療の理由
腕から白煙を上げる薬品は高価で、セリーヌが自身の為に用意していた物らしい。
それを迷わず使った。
「御遣い」に追われていたライドは、セリーヌが率いる「信者」にとって敵だ。
しかし、セリーヌの目的は一つ。「御遣い」を少しでも早く迎えること。形振り構わずだ。
僅かに生還したキャシーの仲間達は恐慌状態にあり、時越えの人ソドムの戦力を宛にするしかない。セリーヌは地上と連絡をとっている筈だと言う。
離れた場所との会話。この技術は夢で描いた未来の姿だ。
尤もライドに、セリーヌの要望に応える余裕はない。しかし、調査継続の方針にハッシュベル駐屯地の商人達が反旗を翻した為、暫く揉めると言う。撤退するにしても戦力が必要だが、最早ここを守る戦力すら乏しい。次の物質補給隊の到着はすぐだが、それだけでは護衛が不足する。
それでも、この駐屯地の地名にもなる商人ハッシュベルとセリーヌが調査継続を望む限り、最終的には調査は続行されるとみている。
その中核に据えられるのはライドだ。勘弁して欲しい。
ちなみにライドは軟禁状態だ。出入り口の外には、必ず1人素人に近い戦士が立っている。
◯ソドムについて
ソドムが視界を手に入れた経緯を考えても、光とは「力」と関係があるようだ。
ソドムの喜びようは凄く、光の維持を懇願され、眠れないライドは応え続けてる。ディーンには指を立てる姿を咎められており、ランタンを側に置いて誤魔化すように注意された。これがランタンに左手を置く現在の姿勢に繋がっている。
見る行為は眼で。聞く行為は耳で。そう思っていたが、目はないソドムは辺りを見ることができ、聞くことができない。そう単純ではないようだ。
○ミラジについて
ソドムの故郷「ミラジ」の情報が手に入った。地上に出れば、歩いても1日ちょっとだそうだ。「城塞都市」と呼ばれる「港町」で、今はサルム家が治めるとか。この長は貴族ではなく商人だと言う。ゲシュタット家は宗教国家ソロだった頃の有力貴族らしい。この宗教国家は約100年前に滅んでいる。
これはディーンからの情報だ。
ソドムはソロ教と言う名前に覚えがないが、ゲシュタット家が存続していたことを喜ぶ。
ソドムは3代目。初代が叔父で、父がその後を継いだらしい。家族構成は妻に子供は2人。
◯ディーンの出自について
色々と詳しいディーンに疑いを持ったソドムが問い詰めた。
結果、ディーンはキルケニー伯爵家の庶子で、4男だと分かる。現役の長勢力関係者だった。庶子とは正式な妻ではない女との間に生まれた子供で、それ故に自活する必要があり、傭兵団に所属していると言う。16歳らしい。
今の16歳は頭がいい。そう思ったが、キャシーの話ではディーンが特殊だという。
◯ソドムの出会った脅威について
セリーヌとの話し合い。
昨日の朝食後、金の刺繍の女セリーヌが護衛を伴って現れた。
セリーヌは癖のない赤茶髪を片口で切り揃えた肌の白い女だ。若くも老いてもいない。
ただ姿勢や所作に威圧感があり、何処と無くライドを魅了した建築物と似た雰囲気がある。
ライドの露わな右半身の内出血や火傷を見て、治りの遅さに眉を潜める。それ程早く治る薬だったのだろうか?。
ディーンとキャシー、そして金の刺繍の女はソドムと意識をつなぎ、話をする。
今の人にとって、時越えの人の情報は、大して高くないようだ。「時越えの人」という呼称がある通り、危機を追って時越えの人となった者は多く、その悉くが解決されていると言う。これ程の技術力があれば当然か。また、時越えの人に脅威を感じる様子はない。普通に協力を要請する。
肉体のないソドムの使った技術は今に伝わってないらしい。ソドムは「元素」の塊であり、幽霊ではないと確認された。精霊に近いようだ。幽霊や精霊は宿主を乗っ取るが、ソドムは方法の検討もつかないと否定する。
ソドムは時越えの人だが、脅威と戦っていない。脅威に追い詰められ、自分で実験を進めた結果、今日を迎える。この時点で、セリーヌは肩の力を抜いた。ソドムの持つ情報に価値がない為だ。セリーヌが欲したのは、封印場所と対処方法だ。
脅威の名前だけは分かった。「貪る者」だそうだ。見渡す限り全てを覆う生きた泥で、その泥が生き物を取込み、大きくなると。一昨日の「粘性体」の親玉を彷彿とさせる性質だ。この「貪る者」は「公文書」に残っているとか。残念ながら、ことの顛末は不明だ。ただ、その年代からソドムは約500年程前の存在とされた。
この500年前と言う数字には別の意味があるようだ。ソドムへの接触者を限定すると宣言された。不思議なことに500年前の技術力は今と50年程しか変わらないこらしい。技術は一度失われたようだ。当時は現在に伝わっていない特異な技術があり、今の食料事情はその技術に依存しているという。この技術が広まれば、食料事情で利権を持つ貴族がそれを失うという。これが問題らしい。人の命よりも利権の争い。呆れる。
○当時のミラジ
ソドムは当時ミラジを「巨牛の守護せし都」と表現する。
巨牛とは角を持つ「うし」という生き物に似た、集落より大きな獣で「貪る者」に喰われたらしい。
この巨牛の骨は今も残っており、移動する者の目印になっているという。
貴族に抱えられ、良い暮らしを目論む自称時越えの人の題材に利用され続ける程有名だとか。実際に長い間、虚偽のバレなかった者もいるらしい。
○貴族が時越えの人を恐れない理由
時越えの人と言う、常識の違う者が技術を身につけることは怖くないのか?。
この問いにディーンは肯定を返す。
厚遇され、生活の場に愛着を持てば、今の生活は理解されるとのこと。方法についてはソドムの語った内容と変わらない。例として、現在の王の側近、近衛兵長は時越えの人らしい。セレ国統一の英雄の1人で「鷹使い」と呼ばれる。
貴族は時越えの人に限らず、白兵戦の強者を求める。「精鋭」と呼ばれる優れた兵士には狙撃を含めた物理的な攻撃が有効にならず、「精鋭」による暗殺から身を守る為には「精鋭」が必要になると言う。
話を聞く限り、「精鋭」とは戦士の歩法を扱う戦士ではなかろうか?。
精鋭への対処法は毒だという。即効性の毒は無味無臭でも気付かれる。しかし、蓄積性の毒は濃度を薄めれば気がつかれない。そして蓄積され続ければ何れ効果が現れる。症状はちょっとした体調不良から始まり、気がつく頃にはもう体の動きは阻害され、解毒が簡単ではないそうだ。
◯ライドの故郷と「力」の問題
地上の話は興味深いが、「あれ」の存在はどこにも感じられない。
ライドの封印は「あれ」の活動と同時に解除されると聞いていたが、その通りに働かなかった可能性がある。もう処分済の可能性がある。
いきなり目的を取り上げられ、虚しさを感じる。
また若返りは今も続いている。
今では、ここは遠く離れた土地の未来だと思っている。封印前のライドの行動範囲は広い。その中で地上で生活する地域はなかったし、聞いた覚えもない。
500年前、ソドムは既に地上で暮らしていたという。キャシーの言う通り、身体を維持した時越えが500年未満なら、ライドの行動範囲外に地上の獣を駆逐した地域があったことになる。かなり悔しい話だ。
そして、姿が似ているが回復の速さが異常すぎる。見た目は同じだが、同じ人種とは思えない。
そして、残念な結論をライドは受け入れる。数日が経過すると言うのに、伴侶から音沙汰がない。伴侶は殺されなければ数千年は生きると言っていた。おそらく伴侶は生きている。その上で無視している。そして、それでいいと受け入れる。数百年の間に状況が変わった。残念だが、それだけのことだ。
次に「力」の問題。異常が起きている。自分の筋量や質を「知覚」で確認する限り、「力」の保持量の上限は予測通りだ。しかし、今の身体機能が強化された頭が耐えられる限界まで「知覚」を広げても、まだ余裕がある。その距離は10倍以上。どこから「力」を持ってくるのか分からない。
ここには欠陥がある。それは致命的な何かだとライドの経験が警鐘を慣らしている。
○現在
情報整理はここで、一旦終了する。
外からディーンがやってきた。ディーンは年相応の小柄な体躯に、大きな丸い帽子で顔の上半分が隠すいつもの姿で入室する。
キャシーのように道具を使わず、ライドの側で手をかざす。
『暑いね。ここは。』
手のような形に木の棒を組み合わせ、その間に紙を貼ったものを広げて扇ぐ。
『ソドム殿、ライド。遅くなったけど、助けてくれて有難う。目覚めたばかりだったんだって?。偶然に感謝するよ。』
ディーンは今更の謝礼を述べる。ディーンは一昨日、ライドことは呼び捨てにすると断りを入れてきた。
年下が年上を呼び捨てにするとは驚きだが承諾した。
『一昨日、盗掘と調査隊の保管物を狙った武闘派結社の襲撃があってね。撃退した時、仲間が不審者を見た。ライドじゃない?。』
説明された様子には心当たりがある。
『その後、あの幅100メール弱の縦穴を跳ね降りた。間違い無いね?。』
ライドは再度肯定する。メールとは大人半分程度の長さを指す単位のようだ。
『キャシーの言う通りか。若いのに本当に時越えの人か。精鋭だ。何で犯罪者を解放しろなんて言ったんだい?。』
「繰り返し聞こえた言葉を、誰かの名前と間違えた。」
『ライドの故郷だと、言葉は幾つか種類があった?。』
「いや。一つだ。」
ディーンは考え込む。キャシーと大方の情報は共有しているようだ。
『耳に入ってくるライドの言葉はやっぱり意味不明だよ。使わないでくれ。下手でも僕達の言葉で。』
『ディーン君は言葉の違いに抵抗が少ないね。キャシーは未だにライドに対して躊躇が感じられるのに。これは有史以来の一大事だと思わないかい?。』
ソドムの指摘にディーンは不意を打たれた表情になり、自嘲する。
『妖魔ですら言葉が通じます。おっしゃる通り、教会には知らせられません。ですが、確かに僕は気にしていませんね。それはそうと、時越えの人は、見つけたら国の機関に報告する義務があります。少しは遅らせますが、義務は果たします。言葉はそれまでに。』
今回はその報告の為、ライドの話を聞きに来たと言う。しかし、結果は散々だ。
ライドの故郷には年号がない。
場所も見覚えがない。
身分は何か?。戦士長。
「海が近かった。役割は地上で獣を狩ることだ。戦士として致命的な傷を負うと、道具の作成や子育てを担当する。祈祷師の家系は精霊術を扱った。」
『地下ねぇ。地上に強い獣がいる地方はあるけど。その辺りなのかなぁ。地上の様子はどうだったんだい?。』
昼は薄暗く、夜は暗い。木があった。と伝えると呆れられる。
「赤黒い空はないんだろうな。ディーンにその酸の霧を吸い続けられる体力があるとは思えないし。そもそも俺は今の地上を知らないんだ。比較できない。ただ、時越えの前は、地面が捲れ上がるように空に立ち昇る最中だった。」
『そんな怪奇があれば、何か記録があるかもしれないね。家族とかは?。』
「父と兄は生まれた時には死んでいた。母と弟、妹は俺が8才の時死んだ。あとは、あー。」
『えーと。聞いて悪かったね。』
ディーンの言葉に首を振る。無用の気遣いだ。後家族といえば伴侶だが、この年齢では口にしない方が良さそうだ。
『脅威については前に聞いたけど、再確認だ。大人数万人分の大きさのある白一色の巨人、だね。色々物理的にあり得なくて困るけど。』
「上半身だけでだ。間違いない。」
額の脂汗が目に入る。この話合いの間、ライドは姿勢を正し続ける。しんどいが子供に気を遣わせては笑いものだ。
『この内容なら、僕は不足なく報告して問題なさそうだね。信用されない。自称扱いになるだろうね。君は教会で更生しつつ、教会ので薬草採取に従事する。ローレン滞在資格と教会で暮らしが手にして、言葉や文字、生活を学んでくれ。』
ディーンはそう言い終えるとライドの側にある水入れの瓶に水を追加する。
『邪魔したね。お大事に。』
ライドはディーンの去った出入り口を見て、一息つく。会話に出てきた用語や言葉の説明をソドムに受け、水を飲む。
文字の読み書きは、生きていく上で必要不可欠だ。この提案は魅力的だ。
暫くすると、今度はキャシーが来訪する。キャシーは、象形図を取り出し、いつも通りの手順でソドムに触れる。
『具合、どうかいな?。地上の生活について聞きたいことあるんじゃないかな?。暇だろうし。』
キャシーは眉を潜める。
『でもまずは体拭こうなっ。臭っ!。』
身も蓋もない言葉だ。
一晩中脂汗を流したのだから当然だ。思い出せば、ディーンが風を起こしていたのもそれが理由かもしれない。
「どうやって?」
『水洗いだわな!』
キャシーはそういうと外に走り去り、水の入った木の容器と数枚の布を持って戻る。
『上着を脱がせるけどいいかな?。』
「水拭き?。有難い。」
『どういたしまして。このくらいのお世話なら喜んでっ!。』
キャシーはにこりと笑うと、ライドの上半身を裸にし、楽しげにゴシゴシ体を拭く。力強い。そして、足元に溝を彫り、それを屋外につなげる。水を外に流す溝だ。手際が良い。そして右半身の怪我の部分は念入りに水をかけた。頭には何か良い匂いのするものをかけて泡立たせる。
ライドはその格好で、地上の話を含めてキャシーの半生を聞く。
話は夕食を挟んで、就寝前まで聞いた。分からない単語に逐一説明を受けられ、多くの語彙を得る。この会話は言語の習得に大きく貢献した。
◯キャシーの話
キャシーの住む場所は山岳都市ローレンという名だ。そこで道具屋を営む。
ローレンはセレ国統一戦争の最後の相手、旧北部連合の都市だったが、戦争初期にセレ国に併合され、以降対旧北部連合の前線を支える補給を担った。
ローレンには、古くから土の人の居住区があり、「塀の人」と共存する。元々土の人と塀の人は概ね友好的らしい。
塀の人が使う貨幣の価値は、金塊や土の人が製錬した鉱石資源を担保に使われるとか。担保に使われるのは「魔鉄」「輝鉄」「溶岩鉄」というものらしい。
富を生み出し、その上担保する土の人の王国は、塀の人によく狙われるが、全て返り討ちだとか。土の人が通れる程度の通路を、塀の人が利用するのは不可能だ。当たり前だろう。土の人の王国では、塀の人とは馬鹿の代名詞らしい。
キャシーはローレンの土の人の代表格を務める名跡の生まれで、家は鍛冶屋をしている。しかし、家業は弟が継ぐ。
キャシーは塀の人の貴族の人脈を求めて学院に入学したと言う。学院とは、実式に付随する学問を中心に学べる場所で、貴族は次男以降が入学する。長男は家庭教師をつけて文武全般の訓練を行うそうだ。キャシーは貴族ではない。しかし、学院の門戸は亜人に緩いのだとか。
キャシーは中等生に進級し、優秀な成績で中退したと話す。多くの入学者は初等生で終えるそうだ。それでも中退なのは、学院は高等生科目を修了しなければ卒業資格が手に入らないからだ。その分学院卒業証書は価値が高い。王宮勤めには必要不可欠だとか。
しかし、キャシーか望んだ人脈は中等生で得られる。キャシーは大商人からの誘いを断り、出身であるローレンに拘る。その理由をローレン以外では土の人は好まれないという現実を考えた上での選択だと話す。キャシー自身、学院で森の人に対して理由なく警戒感を覚え、異種族への意識の壁を感じたらしい。逆にキャシーも塀の人から同様の扱いを受けたと言う。
現在はそれから6年程経過して、「山岳の悪魔」の物質補充を担う商人の1人を務める。この繋がりは、終戦の頃、貴族との縁故から得たと言う。
終戦後、多くの傭兵団は部隊の中で中核が主に商人に引き抜かれ解体となる。残った者の仕事は大抵、街の治安部隊だが、馴染めなければ賊になる。「山岳の悪魔」は貴族出身者が多く、貴族からの信頼が厚いのお陰で維持していた。この「山岳の悪魔」は集団戦に特化した集団で、精鋭はいないらしい。精神攻撃に弱い訳だ。
そして約一年前、統一歴6年10月。山が出現したらしい。これを、強調する。
場所は「死せる大地」の上。死せる大地とは、光が通らず、触れれば塵に変わる場所で、その空間は上空まで伸びるそうだ。本来なら、精霊がない以上、山は存在できない。かと言って何かが映り込むこともできない世界の果てだという。
権力者の一部は、神からの世界統一祝いだと騒ぎ、笑い物になったとか。
その半年後に「御遣い」が現れた。
「御遣い」は地面に頭抑えてのたうち回らせる程の轟音を空からローレンに浴びせ、そのまま立ち入り禁止だったこの地下に姿を隠して今に至る。そんな存在を支持する塀の人に、土の人は懐疑的だという。また、自分無視されたと怒る一部の貴族やジュヌ教以外の教会が暴走し、広範囲で虐殺が起きたらしい。
その後、王都を含む各都市で、「全てを平等に。」との言葉を口にする住民の暴動が発生。どの貴族もその対応に苦慮しているとか。
ローレンでは住民の約2割が参加する大暴動に発展し、カルパ二=ローレン子爵は、これを徹底的に壊滅。一時死体が町中に溢れたが、キルケニー伯爵家はこの判断を支持。この際、ジュヌ教が暴動の根拠である「全てを平等に」の言葉を否定。「御遣い」の真なる言葉を賜ることを約束したらしい。
更に3か月後の統一歴7年6月。地下への調査が始まり、今は10月になる。
ちなみに時間の単位は1日を12分割した「影」。その半分を「刻」と呼ぶ。1月とは30日。
単位は長さが「メール」。これは大人の半分程度で想像通り。重さは「キ」。ランタンは大体0.15「キ」らしい。
◯ディーンの役割
「山岳の悪魔」は世界で最も有名な傭兵団の一つと話す。その傭兵で、16歳ディーンは補給部隊である第四隊の副長を務めてる。しかもディーンは古株では無い。まだ2年。ディーンは学院で優秀だったらしく、実式を「発動型」と言う扱いができる。「山岳の悪魔」は貴族の出身者が多いが、「発動型」で扱える者は、2人しか居ないらしい。
ディーンは中等生を文字通り中退したそうだ。キャシーは高等生に進級し、卒業目指せたはずと言い、アホだと切り捨てる。
しかし、補給部隊の副団長に大抜擢されたのは実式の成績ではない。手持ちの食料や補給物資を管理し、的確に必要とする部隊に届ける仕組みを作り上げたと言う。また、情報を整理して実行する段取りが非常に上手いらしい。若者らしく無い、垢抜けた特技だ。
◯キャシーからのディーン小話
ディーンは若い見た目の色眼鏡で見られることを極度に嫌がるという。
あの大きな帽子は、キャシーが入隊祝いに贈ったもので、ディーンはこれを大いに気に入り、今では何種類かの帽子を愛用しているそうだ。
◯学院から見た教会組織。
学院は教会に反目している。互いの情報に乖離があり、歩み寄れそうにないからだ。偏った情報を纏め直す。
まず教会とは何か。
教会は「神」と言う保護者に感謝を捧げる共同体だ。奉ずる保護者に種類かあり、皆が己の保護者を頂きに据えるという。教会は神の代行者として住民を統治する貴族に「神」の意思を正しく伝える役割を担う。そして住民には神が無償で与えるものを自覚させ、感謝を捧げる手伝いをする。この教育の効果は生産性に効果があり、貴族から請われて領地に迎えられる。
その教会は周りに軋轢を抱えている。教会同士では俺の神が偉い!と叫び、貴族に対しては、統治への教会の意思の反映と利権の分割を主張するのだとか。貴族も神より統治代行の役割を担うと謳う為、双方譲らない。
学院との間では、歴史や技術に関する見解が違う。教会は有史以来人々を導いてきたとし、全ての歴史は教会が発信するとする。勿論、最も権威と歴史ある神はそれぞれの教会の神だ。対して学院ではミラジに公的記録のあるソロ教を最古とする。これには土の人の記録や分析技術の裏付けがあるらしい。しかし、セレ国にとってはソロ教は旧敵国だ。学院の見解は教会、貴族双方の反発を受けている。また、がくいん初の技術については、神の意思に反するものと尽く否定するのだとか。
ジュヌ教は違うようだが、王家か降嫁する理由と関係があるらしい。
○文明の断絶について。
「文明の断絶」は学院の呼び方で、教会では「神の裁き」と言う。
キャシーの話では、学院が20年前提唱した時には、教会から激しい反発を受けたとか。理由は世界を変える力は「神」だけに与えられ、神の愛は不変不朽で滅びは訪れていないとのこと。しかし、今では昔からの「神の裁き」として認識していたと主張する。この主張は住民広められ、信用されているのだとか。
起きた内容は明確で、500年ほど前、僅か数年でミラジを除く文明が数百年劣化した。その後は暫くミラジが世界の中心となっが、非暴力を旨とする初期のソロ教台頭により、世界統一には至らなかったらしい。
この時期に何があったのか。この時期より昔の「公文書」がミラジにしか存在しない。それはまともな統治が消失していたことを示す。貴族の領地が運営されているなら、公文書は必ず発行される。それがない。土の人の王国も逃げる為に移動しており、寿命がないとされる森の人は、ミラジ以外、皆500歳を大きく下回るとか。種族を問わない大異変だ。
尤も教会はこの時期も存在していたと主張する。その事実を示す文章は年々増え、どんなに新しくても、神の奇跡で劣化しないことになるらしい。
教会で学ぶことに不安しか感じない。
「文明の断絶」や「神の裁き」は、他にも認められている事例がある。
世界の山岳部に点在する石造りの建築様式で「竜の都」と呼ばれる遺跡があるとか。土の人による石の年代測定では1000年以上前で、中に残された技術水準は今と100年程度しか違わない。しかし、300年前の公文書には既に遺跡と記載があるのだとか。
今回の地下調査で、ライドが感動した建築物は「忘却の都」ベルローレンと名付けられた。ここも事例に加えられる可能性があると言う。
◯塀の人と森の人
森の人は、50年前に設立された学院を塀の人の社会への窓口として利用している。それまで蛮族と見下していた「塀の人」が、森の人では対抗できない程の文明を持ったことに危機感を覚えたらしい。森の人の時間感覚では、この逆転はつい最近の出来事だが、塀の人や土の人にとっては大昔からだ。森の人の文明の水準を、塀の人は、その代名詞である「塀」を作る前と評する。塀の人と森の人の文明は逆転して隔絶したと言うことだ。ここまで認識しないとは、信じ難いが寿命がないだけはある。時間感覚がずれ過ぎている。
○ 塀の人の文明
これを学院では、森の人が教えるらしい。この為、森の人の視点になるが、内容は次の通りだ。
寿命や老化速度を、塀の人を基準に比較すると、土の人の寿命は同程度で老化速度は半分。森の人は一定以上老化せず寿命はない。
森の人が考える文明の進歩に必要なものは、情報の精度と量と扱う人数だ。この内、人数については、森の人は弱い。しかし、情報の質と量には自信があった。情報は伝達の度に劣化する。故に寿命が短く、老化の早い他の人種に対して普遍の優位性があると考えた。
この差を塀の人と土の人は文字を生み出すことで埋める。森の人はその有用性に気付きながらも軽視した。理由は森の人はほぼ個人で生活し、数人集まっても核家族や恋人らしい。その記憶力は聞けば忘れないとか。だから記録を作ったところで読ませる相手がいない。
しかし、土の人の王国は認めないが、同じく文字を使う土の人と塀の人の間にも、大きな文明の差があるらしい。
同じ文字の文化をを持ちながら、この差はどこから生まれたのか?。
学院の森の人は、文字を」事実の記録」としてしか評価しなかった土の人と、「伝達手段」として活用した塀の人の差と見る。
塀の人が使う文字は、真偽の入り混じった不正確なものだ。しかし、受け取り手は検証し、その真偽を含めて書き手の目的以外にも利用される。例えば一度解決された問題は、記録の反省点を活かし、より早く、より高い成果で解決される。その過程で生まれた失敗例は、別の者が原因を突き止め、類似の問題解決に利用する。そこに数の力が加わり、塀の人は問題も目的も分業し、素早く、同時片付けて行く。
対して森の人は、どんな問題も過去の解決事例に頼らず、一から検討する。精霊術に長け、思考力の高い森の人は、生活の中で1人で解決できない案件がないからだ。また、寿命や老化がない為に、時間を惜しむ理由もない。
土の人の場合、数の力が塀の人より遥かに少ない上に情報は改訂されない。単なる記録なのだ。
ただ、土の人の徒弟制度は違う。塀の人と同じく情報が共有され、更新される。そして、土の人は塀の人より活動期間が長い分だけ優位性が残る。この為、未だに鍛治技術は土の人が頂きを独占しているらしい。しかし、鍛治を支えるその他の技術が劣った分だけ、塀の人に追従されていると見る。
○森の人
キャシーは、森の人の外観を、男女共に華奢な塀の人のような容姿で陶磁器のように白い肌を持つと表現する。その中で最も分かり易い特徴は耳。塀の人の3倍以上長く、先が尖っているとか。森の人は半分精霊らしい。
長い時間をかけて培った経験と、高い知性を併せ持ち、汎用性が高く、世界の仕組みに関わる精霊術に長ける。話の通り、圧倒的な強者だ。
例えば、塀の人が生涯をかけて打ち込み導いた理論があるとする。森の人なら、いずれ片手間で辿り着く。例えば塀の人が矢を一本ずつしか放てないと悩む。森の人は精霊を操り、十の矢を同時に扱う。身体的に塀の人や土の人に劣っても、高い精霊力で強化し、賄える。
精霊術は、扱える精霊の力以下の「力」しか持たない生き物に対して、生殺与奪を握る程強力な存在だ。「力」のない生き物など、簡単に窒息させる。例えなら、水の中に閉じ込めたり、強風を顔に纏わらせたり、だ。
この特徴は恐れられるに足る。塀の人から見るなら、攻めても身軽に逃げられ利益がない。精霊術、弓術共に長け、闇夜を苦にしない為に、屋敷に侵入されれば見つけられず、狙撃されれば人目の届かない遠方から射抜かれる。天候や地形すら森の人の味方だ。
強さは弱さ。そんなソドムの言葉が印象に残る。森の人は圧倒的に強者故に、周りから取り残された。
◯実式の基礎
キャシーはソドムを認識する為に、紙に描かれた図形と蝋を使った。しかし、ディーンは使わない。違って見えるが、同じ実式と言う。
実式は、厳密には精霊が具現化し、影響を行使する方法を解析する学問らしい。
精霊がこちらの世界に具現化する時、此方にある物に変換される。精霊に時間の概念がないが、此方の世界で具現化する過程で時間に縛られる存在になる。しかし、その影響力には、精霊の意思が反映されている。例えば、火の精霊は、燃やす意思がなければ触れた場所に焦げ一つ付けない。
この複雑な現象を解明するのに森の人の協力を必要とした。解明されたのは50年と少し前。この成果をもって、学院ご設立されたらしい。
精霊が利用する此方の世界の物質を、精霊と同じように利用する為に必要なものは3つ。
1つ目は「象形図」
象形図は、精霊が此方に具現化する時に使う物質「元素」の設計図だ。平面に限らず立体も含み、円形の組み合わせで作られる。象形図と言う呼称は、精霊が見えなかった発見者が、その形を精霊の姿と考えた為だと言う。
実際の象形図は、周囲の温度や物、気候の影響を受け、細部が刻々と変化する。この為、周囲の状況に左右されない場所が作り出せれば別だが、詳しく書き込んでも使えない。使う為には基本形を脳裏に描き、変化する詳細部分を反映させる使い方をする。理論だけでなく、刻々と変化する条件を瞬時に計算力も必要だ。その計算の桁数を下げる程の効果もあると言う。つまり、象形図が実式の肝であり、一部の実式を除いて実式を知らなければ使えない。
2つ目は「元素」。
元素には種類があり、何処にでもある訳ではない。キャシーは灯りを作る為、ソドムを「見る」為にに蝋を使う。この蝋が元素を供給する塊だ。蝋は元素の量は少ないが、多種多様な元素を含み、安価で使い勝手が良い。多元素を多量に内包する道具は「発動体」と呼ぶそうだ。
3つ目は「触媒」
蝋はそのままでは象形図に乗せても元素にならない。元素を取り出す作業がいる。それを成すものを触媒と呼ぶ。
触媒には生き物の血が使われる。鮮度の高い血しか役割を果たせない。自分の血が最も身近だ。この触媒が象形図と触れると、物から元素を抜き出す。
ここで、キャシーから注意を受ける。血は固まると元素になる。つまり、動物の死骸は優秀な元素だ。そして、高性能な元素を使う為には、大量の生き血が必要になる。更に触媒や元素には相性があり、象形図を使う相手と同じ種族のものが最も効率が良いそうだ。
つまり、人に対する大掛かりな実式の試験には人を使うのが最も適している。例えば、病の治療の研究や、効率的な殺人の為の人体実験だと言う。
禁止されているが、怪しい人にはついていかないように促される。
◯実式の分類 発動型と付与型
象形図を脳内に描いて発動させる方法を「発動型」と言う。天気が良くても4桁の加減乗除を深呼吸3回以内に終える必要がある。それを複数回熟す。荒れた環境下や複雑な実式は更に難度が高く、嵐になれば更に3桁は増えるとそうだ。
対して「付与型」は、象形図を紙や地面に用意して行う。実式を簡易的に行う使い方もあるが、「付与型」の利点は発生の仕方と持続性にある。
「発動型」は必ず視線に沿って発生する。「付与型」は同一象形図を切り分けた物であれば、象形図を通して発生する。
ただし、「付与型」は使用場所に制限がある。環境変化が小さい場所で、平面象形図で発動可能な簡易的な実式であること。つまり、屋内だ。距離の制限はない。そして、元素が切れない限り、持続も可能だ。
実式3 大発明「遠話」「投影」「光」は全て「付与型」。簡易な象形図は、道具と条件を整えれば、実式の知識がなくても使えると言う。
心躍る情報だ。
◯キャシー、ディーンの実力
ディーンは「発動型」を好む。元々頭が良いようだ。逆に知識不足のために、「付与型」が不得意だとか。
腰に短い「樫」の棒をさしているが、それが元素を供給する「発動体」で、その表面の突起で、指先に傷をつけて、触媒を取り出す。
この「樫」は、元素の種類は偏るが容量は蝋の数千倍だと言う。しかも、僅かずつ経時で回復する。貴族ならではの高級品らしい。
ちなみにキャシーは屋外では象形図が簡易で、天気が良くなければ、「発動型」は使えない。しかし、「付与型」の知識には精通している。
ライドも計算は出来る。しかし、暗算で3呼吸以内となると、3桁が限界だ。
◯森の人と学院
森の人は学院に高等生として入学する。能力は十分で、精霊術に精通すれば、実式は原理を学ぶだけで使えるらしい。
森の人は学院内に多いが、殆ど森の人が同族を勧誘して集まった者達だ。基本、塀の人の文明に興味も危機感もなく、近寄らない。この為、比較的好奇心旺盛な若者に偏っている。その目的は塀の人の社会の体験だ。
塀の人の塀の中の領内は、権利がなければ3日以上滞在できない。それを、学院はどこの街でも100日滞在可能とする許可証を定期的に発行できる。発行の条件は学院在学。卒業し、就職すれば市民権の発行も可能だと言う。
市民権は、塀の人の生活に馴染めた森の人なら目の色を変えて欲しがる報酬らしい。それほと、市民権の獲得は難しい。しかし、卒業した者は殆どいない。皆在学中だ。塀の人が見ると、やる気を疑う程習得速度が遅いという。
塀の人を見下す森の人は遅れることに焦るが、塀の人の動きについて行けない。更に同じ高等生の塀の人は、森の人より知性で優ることも多い。この現実に晒すことが、森の人の集団化への目的らしい。自分1人の力では及ばない目標がなければ、団結の意思は生まれない。悔しくなければ時間を意識しない。そう考えているそうだ。
◯精霊術について
ライドの故郷では、精霊術は5人に1人は扱えた。それが今では森の人の代名詞で、塀の人も土の人も使えないと言う。
理由はわからない。
精霊術を扱える者には、性格に共通点がある。物怖じがなく、正直で開放的、言葉足らずでも自分が理解されることを当然と思っているが、自己中心的ではない。状況把握や相対比較が得意で諦めが早い。そして表情が乏しく無口。大人しく見えるだけで内面は積極的で行動的。矛盾する特徴を含め、森の人の特徴と一致する。
◯土の人について
キャシーの説明を要約する。
身長、体型共に酒樽の呼称が相応しく、生来剛力で男女共に戦士の素養が高い。酒好きで偏屈な職人気質。男は髭が腹まで伸ばし、塀の人で言うお洒落にあたる行為が髭の編み方だと言う。鉄や石といった鉱物加工が得意で、鋼より硬度、丈夫さ共に1〜2割上質な黒鉄を扱えるのは土の人くらいだと言う。石を信奉しており、戦士としての力が重視され、王は10年ごとの大会の優勝者が務める。
寿命は大体100歳。30歳〜40歳で一人前と認められ、80歳で初老となる。
集落の維持に関する仕事は女に偏っており、子育て、教育者、記録者が女の仕事とされる。しかし、ローレンの土の人には当てはまらない。ローレンでは男女共に塀の人の考え方に近く、職業も男女差が小さいそうだ。
◯周辺の地理
ここはローレンの塀の人と土の人の居住区から等距離にある壁の外側で、海岸に向けて張り出した高台の端の入口から内陸に2000メール、深さ3000メール程の場所だと言う。海面より下だ。更に下に伸びる縦穴はその底を見たものはいないと言う。
この周辺は2段の広い平地がある。海岸沿いに広がる部分を第1平野。小山ほどの切り立った岩壁の上に第2平野だ。
第2平野には北から東に山脈が立ち並び、平野は南方向に延びる。ローレンは第1平野と第2平野の境、北の山の麓にある。主食は穀物と呼ばれる植物の実で、第1平野に広く分布する。第2平野でもローレンの近郊でなだらかに崩れた東側には集落と農地が広がるという。
◯その日の終わり
ライドは夜半過ぎに、久々に眠りについた。痛みはあるが、キャシーの話に希望と想像を掻き立てられ、気がついたら眠っていた。
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