ライオンの像

いちはじめ

第1話

             ライオンの像

                             いち はじめ


 憔悴した若い女性が、水晶玉を前に怪しげな格好をした老婆の前に座っていた。女はひどい失恋をした後で、今後の恋愛運を占ってもらっていたが、老婆はその失恋について興味を持ったようだった。心をすっきりさせないと、今後の恋愛運に影響を与えるよ、などと言葉巧みに事の顛末を聞き出した。

 女は恋愛商法に引っかかって、高額商品を買わされ続けた挙句、いとも簡単に捨てられていたのだ。その仔細を聞いた老婆は、女に恨みを晴らしたくはないかと尋ねた。

「相手の居場所さえ分からないのに、できるわけがない」と女は弱音を吐いた。だが老婆が片方の手で女の手を取り、もう片方を水晶玉にかざすと、そこにライオンの像の前に佇む相手の男が映し出された。驚く彼女に老婆は言った。

「ほれ、こやつはここにおる。あとはおぬしが念じればいいだけじゃ」

 女は恨めしそうに水晶玉をのぞき込みながら言った。

「手伝ってくれるの?」

「儂は動物の形をしたものに命を吹き込むことができのじゃ。どうじゃやるか? ただし値は張るがな」

 女はコクリと頷いた。老婆は歯茎に残る二本の歯を見せ、にやりとした。

 男は、次のカモを探すため、ライオンの像の前で、目の前を通り過ぎる女たちを品定めしていた。

 突如その女たちが、男の方を見て悲鳴を上げながらあわてて逃げまどいだした。男が、何事が起ったのかと振り返ると、台座のライオンの像がちょうど口を大きく開け、男を吞み込もうとしているころだった。

                                 (了)

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ライオンの像 いちはじめ @sub707inblue

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