第47話:及第の閑話休題。
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その午後は勉強会と言うよりも、ユカリとの懇親会と言った方が近かったと思う。
この間明治村に行った時の話をスマートフォンの写真フォルダを見ながらしてみたり、ユカリの知らない間のアヤカとカナコとシオリの面白話を聞かせてみたり、昔の話をしてみたり。
……部屋に飾ってある今までの私からの誕生日プレゼント、ユカリが私以上に何歳の時のとか、渡した時の状況とかを憶えていてビックリした。
あの1カ月の間もずっと飾ってくれていた事は、素直に嬉しかった。
夜のリモート勉強会の時、今日は私がユカリの部屋に居る事を、やっぱり皆、口惜しがっていた。
そんな穏やかな午後を過ごしたからか、期末テストの2日目、3日目には、初日の朝の様な状態にはならなかった。
先ずは問題用紙に答えをメモして行って、一通り終わった処で、問題用紙や答案用紙に書いてある1問何点と云う表記を元に、60点前後になる様に正解を記入して行く。
ここで正確に60点にしないのは、その計算に時間を使い過ぎて写す時間が無くなるのを防ぐ為。
あと、どうしても勘違いや思い違いってのは出て来るし。
人間だもの。みかを。
その後の間違える事に決めた欄を埋める、あと一歩考えが及ばなかった感やちょっとした勘違い感を醸し出す答えを考えるのも、ゲームの様で中々楽しかった。
『目的論に依る夢分析』はユングだけれど、原因論のフロイトにしておこうかな。……いっそ混ぜちゃって、“ユング・フロイト”って書いちゃおうか。うん、何か可愛いし、そうしよう。
数学の途中式を書く問題なんかは、途中式が合っていたら部分点を貰えちゃうだけに、60点を目指すのは難しい。……って、ユカリが言っていた。
また、そっちの計算が出来ているのに計算問題を間違えるのもおかしな話になる、と。
……何でそんなに考え込まれているんだろう。
ひょっとしてユカリ、実践していたの?
中間テスト、あれだけ成績が良かったのに。
トップをねらっていた訳じゃ無かったのかな?
3日目の3つ目のテスト、現代文は中間でも唯一点が取れていた科目なので、これについては点数を考えずに、全力で。
それでもここまで8教科分のテストを熟して来て思った事に基いて、答えは先に問題用紙に書いてから写す事にした。
……今回のテスト、私、全然消しゴムを使っていない。
写す時に漢字や何かをちょっと書き間違えたりした時に使ったりした位で。
中間テストの時は、「違ったかな」、「こうじゃ無かったかな」ってちょっと不安になって書き直す度に消しゴムを掛ける時間がバカにならなくて、それも有って全然時間が足りなくて空欄が多くなってしまっていたのは事実。
……埋めたものも結局、殆ど全部間違っていたのだけれど。
時間管理さえ間違えなければ、こっちの方が良い様な気がするし、これからもこうして行こうかなと思う。
一度最後まで解いて時間を確認するとまだまだ残っていたので、また問題とそこに書いておいた答えを確認しながら、解答用紙に書いて行く。
……うん、誰にも負ける気はしない。
勿論、ユカリにも。
♦
ミカ、アヤカ、カナコ、シオリの4人に言っておいた様に、私も一度問題用紙に解答をメモしておいて、後になってそれを確認しながら解答用紙に記入して行く。
皆、ちゃんとやってくれているかな。
……あっと、うっかり全問正解を書いちゃった。どれを間違えておこうかな。
このユング、フロイトに……いっそユング・フロイトにしてしまおうか。
同一人物の姓と名と勘違いしている体で。
2、3問は間違えておかないと、隙が作れないし、共感もして貰えない。
私は別にトップを目指している訳じゃ無いし、パーフェクトヒロインである必要は無いのだから。……ここ、女子校だし。
尤も、中間でトップを取った人よりも、私の方が何故だか人気が有る。
これもまあ、中間テストの誤算の1つではあった。
……それはそれとして、有り難い事ではあるのだけれど。
期末テスト最後の教科は、現国。
これに関しては昨日ミカと指切りをしておいた通り、本気で行くから。
勝負よ、ミカ。
❤
「あー、疲れた! 暫くは勉強は良いや!」
両手を思いっ切り腕にあげながら、私はベッドにゴロンと転がった。
「ふふ、お疲れ様」
折り畳みのローテーブルの横にちょこんと座ってコーヒーを飲むユカリは、そう言って笑った。
他の誰でも無くユカリにそう言われると、疲れが取れた様な気になる私は、やっぱり単純なんだろうか。
「流れが中間と同じなら、この後3日位の授業で全教科返って来て、結果も分かるかな」
ボソッと放たれたユカリの言葉に反応して、胃がキュッとなった。
流石に未だそこ迄は、不安が取り除けていないらしい。
答えの殆どをちゃんと確実に解っていたって云うのが、私の勘違いだって云う可能性も、低くは無いのだし。
「ねえユカリ、ちょっと休んだら、テストの振り返りしない?」
私が言うと、カップを置いたユカリは、私の横にダイブして来た。
「ミカが、そんな事を言い出すなんてね。勿論振り返りは大事だけれど、今日は私に付き合って欲しいな。最近ボールを余り
「……そうだね、それにいざ試合が始まって、テスト初日の私みたいになっちゃ困るしね」
「そんな事言わないの。……それにしても面白かったね、アレ」
ユカリが言ったアレとは、勿論深呼吸の事なのだけれど、何故だか気に言った先生の手に依って、うちのクラスのテスト開始前恒例の催しにされた事を指す。
「最初にあなたが唐突に深呼吸をし出して笑われていた時は、どうなる事かと思ったわ。……嘲る様な笑いも結構有ったし……」
「嘲りの笑い、ドンと来いよ……。……あの場で、一番……怖いのは……、……シーンとすること……、……だから……」
「……たし、……か……に……」
ヌー、ヌー、ヌー。
ヌー、ヌー、ヌー。
お喋りをしながら眠りに落ちていた私たちを現実の世界に引き戻したのは、枕の上で揺れるスマートフォンの間抜けな音だった。
画面を点けて通知を確認すると、アヤカからのメッセージが届いていると表示されている。
「……あれ? アヤカ?」
「……ん、アヤカから? 何て?」
通知をタップすると、アプリのアヤカとのトークルームが表示されて、新しく写真とメッセージが連続で送られて来ていた。
「……何でよ!」
思わず上げてしまった大声に眉を顰めたユカリに、画面を見せる。
写真には、最近見慣れて来たバスケットゴールの前で楽しそうに自撮りをするアヤカたち3人の姿。
そしてメッセージにはただ一言。
『来ちゃった』
「……何でよ!」
全く同じ声を上げたユカリ。
その声と同時に追加のメッセージが表示された。
『新海池公園に来てみたんだけどさ、パス練とか、ディフェンスの練習とかしない? 体動かしたくって!!!』
それを見て、ユカリと2人、お腹を抱えて笑い合った。
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