第27話:一息吐いて。
❤
「いやー、こうして見返してみても、やっぱりユカリは似合っているね! ……私たちはそうでも無いけど……」
カナコがスマートフォンで、2丁目の衣装体験で撮った写真を見ながら嘆息を漏らした。
撮影を済ませた私たちは2丁目を一通り回って、3丁目で北里さんの結核との戦いの展示や何とかさんのお家、重要文化財とかって云う品川燈台と燈台の歴史の展示を見た後、少し遅めのお昼がてら、4丁目にあるカフェで明治時代の小説を元に作ったって云うカレーを食べながら腰を落ち着けている。
ユカリは、ピタパン。カレーも美味しいけど、これも美味しそう。
もーやーこするとどうせまたアヤカたちに冷やかされるから、止めておくけれども。……“もーやーこ”って、どう考えても方言だよね。標準語だと何て言うんだろう。わけっこ? シェア?
土地の
乗った事が無いけれど、いずれ京都市電にも乗ってみたい。
人工池を見守る燈台って云うのも、何だか面白かったし。
3丁目と4丁目の間の坂には紫陽花が群生していて、丁度綺麗に咲いていた。
……でも、一緒に咲いていても色って少しずつ違うものだね。
何で色が決まるんだっけ? 前に聞いた事が有る気がするけど、ボンヤリしている。
ユカリペディアに訊けば教えてくれるかな?
写真の中の私たちは、当時の女学生と同じ袴スタイルで笑っている。
皆もユカリの子の格好を目当てにしていたのだし、当然センターはユカリ。
……確かにカナコが言った通りユカリは物凄く似合っているし、前に来ていた時は謎解きに集中していたからだけど、こんなに素晴らしい事を見逃していたなんて、ユカリマニアとして不甲斐無い事この上ない。
……でも、と思う。
「ユカリが似合っているのはその通りだけど、アヤカも、カナコも、シオリも、それぞれ凄く似合っていると思うよ?」
私が思った事を言うと、カナコは「えー、そんな事ないよー」って言いながら照れた様子で頭を掻き始めた。
可愛い。
「ね、ユカリ? 皆似合っているよね?」
「ええ、とっても」
私の言葉にユカリが微笑むと、アヤカとシオリもカナコと同じ様に頬を赤くした。
可愛い。
「……あ、でもさ、これが目的だったんなら、皆はもう目的を果たした訳じゃない? どうする? 帰る?」
「何でだよ。一通り見て行こうよ。展示の解説とか読むのも楽しいし」
私の問いに、アヤカが笑いながら答える。
私もその意見には賛成だから、笑い返しながら「うん」と首を縦に振る。
「余裕が有ったら、隣の芝生広場で遊びたいんだけどね!」
「そうだね、余裕が有ったら! ……ユカリの!」
「……ごめんなさい。それは叶えてあげられそうにないわ」
シオリとカナコがからかいの視線を向けると、ユカリは態とらしく視線を窓の外に見える広場に逸らしながら言った。
……それは残念そうに。
「あ、ねえ。うちんちにバスケのボール有るんだけど、明日良かったら、どっかでパス練とかしない?」
「うちの方だと、牧野ヶ池とか猪高緑地とかかな?」
「ああ、それは助かる! ……けど、どっちも最寄駅からバスだよね?交通費が…」
一瞬食い付いたけど、また残念そうに萎れるユカリ。
確かに、今日に続いて明日もだと、交通費だけでも結構痛い。
それに、学校で練習するにしても、周りの目が気になるから今みたいに素直には感情を出し合えない。それは辛い。
じゃあ、と、思い当って私は口を開いた。
「明日は確かお母さんが休みって言ってたから、送ってくれないか頼んでみようか?」
「本当?」
ユカリの顔が見る見る明るくなる。
「うん、ダメかもだけど、訊くだけ訊いてみるね」
「ありがと、ミカ」
お父さんも休みは休みの筈だけど、急に呼び出される事も有るから、ちょっと頼み辛い所も有る。
お休みの日はお休みで良いと思うんだけど、お仕事って大変だな。
食事を満喫した私たちは、4丁目の散策を再開した。
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