第129話「セーフぅ!!」

『ディーノ・ジェラルディ、このよ~く……この借りは必ず返します。ではいずれ、ごきげんよう!』


別れの挨拶が告げられた瞬間!

巨大な蒼い炎がメフィストフェレスの身体を包み込み、

「ぼっ」と異音を立てた。


そして『光を愛さない悪魔』は、火球ごと、

ディーノ達の目の前から忽然こつぜんと消え失せた。


……怖ろしい悪魔が去ったのを認識すると、

緊張が解けたディーノは「ほう」と軽く息を吐いた。


束縛の魔法を解かれ、元の状態に戻ったケルベロスも、元気一杯である。


『むむむ、あれほどの大悪魔を追い返すとは……本当に良くやったな、ディーノ』


『……何とかな、あいつに思い切りケンカを売って、去り際に捨て台詞ゼリフを吐かれたが』


『仕方がない。OKすれば騙された上、心をとらわれて、難儀なんぎしたはずだから』


『心を? ぞっとするな。それにここで派手に戦えば、ステファニー様達やポミエ村も巻き込む事になる』


『うむ、そうだな。賢明な対応だったさ』


『ああ、でもメフィストフェレスの事は、とりあえず内緒にしておこう』


そこまで話したその時。

ふたりは1㎞ほど先に、こちらへ向かう数多の騎馬の気配を感じた。


『あれ? これって?』


『むう、この気配は……大勢の騎士達だぞ』


『そうか! 多分、王都の騎士隊だ。ポミエ村の領主は知らんぷりのはずだから……近隣の村の誰かが、たまたまゴブリンを見て通報したんだ、きっと』


『ディーノ、どうする? この場で騎士達を待つか?』


『いや、皆、心配しているだろうし、一旦、村へ帰還しよう。村で皆と一緒に、騎士達に説明するのがベストかな』


『ふむ……』


『そうだ! 経緯の説明はステファニー様にして貰おうか。騎士イコールほぼ貴族だし、ややこしくならなくて適任だろう?』


『ああ、賛成だ。お前はいつもあの子に尽くしているから、たまには貢献して貰えば良いさ』


『そんな事言うと、絶対殴られるから、言わん。沈黙は金』


『ふっ、良く思うが……』


『何が?』


『お前はいつも、あのお転婆には優し過ぎるくらい優しいな』


『まあ、女子に優しくするのは男の甲斐性だって、死んだ父親が言ってたから』


『成る程』


と、上手く『おち』がついたところで……

ディーノとケルベロスは、顔を見合わせ晴れやかに笑ったのである。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


悪魔との対峙が終わって、10分後……

デイーの達はポミエ村へ帰還した。

 

ステファニー達女子軍団は勿論、

村長セザール以下村民達から、猛烈な歓迎をうけたのは当然であった。

 

ちなみにクロヴィス・アシャール様の石像は戦いが終わると、

いつのまにか元の場所へ自ら戻り、物言わぬ石像に戻ってしまっていた。


更にその30分後……

ディーノとケルベロスが察知した騎士隊100騎余は、ポミエ村へ到着していた。


先ほどのディーノの推測通り、

隣村の猟師達が、おびただしいゴブリンの大群を目撃。


猟師達は、そのまま馬を飛ばして王都へ通報したのである。


通報を受けた隣村の領主は、報告を聞き、

王都騎士隊へ救援要請をしたという次第……


救援に赴いた一隊を率いるのは、

ステファニーの父クロード・ルサージュ辺境伯の旧友だという、

クリストフ・シャレット伯爵である。


当然ステファニーとも、ステフィ、クリスおじさまと、

あだ名で呼び合う旧知の仲であった。


ディーノから頼まれたステファニーが、

親しいクリストフへの報告役を了解したのは言うまでもない。


「という事で……大変だったんですよ、クリスおじさま」


「むむむむむ……1万体以上のゴブリンか。それはとてつもない数だ。良くステフィちゃんは助かったな」


「うふふ、日ごろ領内で、私の従士ロクサーヌとしっかり鍛えてますから」


笑顔のステファニーはそう言うと、傍らに控えるロクサーヌを指し示した。


対して、指さされたロクサーヌも神妙に頷いている。


クリストフは、ロクサーヌが高名な冒険者で旧友に雇われていると認識していた。

その指導のたまもので、ステファニーが強くなったと理解する。


「成る程! でも1万体とは、我が王都騎士隊総勢でも苦戦する難敵だ。今居る人数ではとても歯が立たんぞ」


「でも論より証拠。この通り私達がバッチリ撃退しましたから! ねぇ、爺さん、じゃなかった村長」


同意を求められ、セザールも笑顔で頷いた。


「はい! ポミエ村がこうして無事なのはステファニー様達のおかげです」


「ふうむ……だが領村がこれほど難儀しているというのに、領主としての義務を放棄するとは……デスタン伯爵はけしからん」


「その通りですわ。こういった悪政のやからは、おじさまからシルヴァン・ベルリオーズ公爵様にしっかり罰するよう報告してくださいな」


「うむ、了解だ。ステフィちゃんの言う通り、公爵へは厳罰に処すよう伝えておこう」


「ついでに公爵様へ他の頼み事もしたいので、会見のお願いを……おじさまにも、上手くお口添え頂ければ、ステフィはすっごく嬉しいですわ」


さすがはステファニーである。

雨降って地固まる。

今回の功績を、自分がルサージュ辺境伯家を継承する『追い風』とするつもりなのだ。


その上……ちゃっかりと、


「今回の勝利における最大の功労者は、幼馴染で私の婚約者、ディーノ・ジェラルディで~す」


と、自分とディーノの深い間柄を強烈にアピールした。


クリストフを証人として『既成事実』を作ろうとする魂胆こんたんが見え見えである。


どっか~ん!!

ステファニーによる『奇襲攻撃』がさく裂ぅ!!

 

ディーノはびっくりし、必死に否定する。


「な! ステファニー様! 違いますって!!」


クリストフは旧友つながりで、幼い頃のディーノを見知っていた。


「おお、どこかで見た顔だと思っていたが……お前はディーノか? 大きくなったなぁ」


「は、はあ」


「でも、平民のお前がステフィちゃんの婚約者? 良くあいつが許可したな」


クリストフの言う『あいつ』とは当然、

旧友のステファニー父ルサージュ辺境伯である。


「これはヤバイ!」と感じ、すかさずディーノが、


「いいえ! 正式決定したわけではありません! 婚約者なんておそれ多い! ステファニー様一流のジョークですから」


と言えば、クリストフは納得した。


「ジョークかぁ! だろうな! ステフィちゃんと平民の結婚なんて、クロードが許すわけがない!」


チャンス!

ここが勝負どころ!

ヤマ場!

といわんばかりに、ディーノは更に強調する。


「伯爵様の仰る通りですよぉ! 私みたいな平民がステファニー様と結婚なんて無理ですよぉ、ありえませんよぉ!」


婚約の件に関してだけは、話が意図する方向へ行かず……

ステファニーは渋い顔である。


だが、ディーノは華麗にスル―して「セーフぅ!!」

何とか事なきを得たのである。

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