第110話「ステファニーの本音③」

ゴブリンどもと激戦を行った夜。


ポミエ村の南正門、その物見やぐらで、

見張りに立つディーノはステファニーとふたりきり。


ステファニーの話は、続いている。


「あんたを大好きなのは理屈じゃない。直感だった。自分の感情に基づいて、素直に好きになった! その感情に基づいて、行動しているのよっ!」


「…………」


「さっきも言ったけど、その直感は大当たりした。女子として、本能的に、男子を見る私の目は確かだった」


「…………」


「大好きな上、私が見込んだあんたの底知れぬ実力が裏付けされれば……完全に超が付くほど大大大好きが確定っ! ノープロブレムで! 一生添い遂げてあげる!」


「…………」


「もしも私が辺境伯になる許可が下りずとも、あんたを入り婿にして結婚すれば、OK!」


「…………」


「ディーノ! あんたを堂々とルサージュ家の跡継ぎに出来る!」


「…………」


「調べたら、女性が当主になるより、平民のあんたを貴族にする方が簡単なの。悔しいけど、王国の法律がそうなってる」


「…………」


「私と結婚すれば、貴族になれるだけじゃない。ディーノ! あんたのメリットだっていっぱいあるわ。男の甲斐性って奴よ」


「…………」


「男の甲斐性って言えば、すぐ分かるでしょ? 私が正妻……つまり第一夫人にはなるけれど、オレリアへ約束した通り、『その他大勢の妻』を認めてあげる」


「…………」


「私をダントツに、優先的に可愛がってくれれば、絶対に嫉妬なんかしない!」


「…………」


「但し! 妻以外の女子とエッチ、浮気なんかしたら、即座にぶっ殺す! 容赦なく、首を叩き斬ってやる!」


「…………」


「話を戻すとね。私と結婚すれば、ウチのクランメンバー含め、あんたがコナかけてる女子達、全員を嫁に出来るのよ。ウチの財力なら養うのも経済的には問題ないもの」


「…………」


「あんたが一夫多妻制でたくさん妻をめとる事に、私だってメリットはある」


「…………」


「さっき一緒に戦い、改めて分かったけど、ロクサーヌ以外も、クラン鋼鉄の処女団アイアンメイデンのメンバーは若くて有能、そこそこルックスも良い!」


「…………」


「オレリアだって、私には到底及ばないけど、まあまあ可愛くて性格は素直だし! クランメンバーを含めた女子達は、これからフォルスを治めて行く際に、貴重な人材として重宝するわ。あんたと共にね」


「…………」


「気心が知れていて、更に近しい身内ともなれば、ルサージュ家へ忠実に仕える家臣となってくれる」


「…………」


「というわけで、私と結婚して貰うわよ! 問題ないでしょ?」


話が終わったらしく、ステファニーは念を押して来た。

『締めの質問』という事らしい。


ならば! と、

ディーノは最も気になっていた事を聞くと決めた。


「ステファニー様……話はそれで終わりですか?」


「終わりよ! 何かあるの?」


「大ありです。肝心な事を忘れてますよ。またぶっ飛ばされるから、ここでは言いませんが」


と、ディーノが返せば、ステファニーはシニカルに笑った。


「言わなくとも分かるわよ、あんたの考えてる事は! ああ! 思い出したらすっごくムカムカして来たわっ!」


「ええっと……お願いですから殴んないでください、特にグーで。……俺、禁句を口に出してませんからね」


ディーノが引き気味に告げれば、ステファニーは鼻を鳴らし、口をとがらせる。


「ふんっ! 私だって、ちゃんと考えてるから!」


「ちゃんと考えてるって、何をですか?」


「決まってるじゃない! あんたがこの前言った事を忘れるわけないわ! 私がこの世に生まれてから、一番の屈辱だものっ!」


「…………」


「ディーノ! 良い? しっかり、ときめいて貰うわよ! この私ステファニー・ルサージュ様にね!!」


「…………」


「あんたにときめいて貰う為なら……私は、死ぬ気で努力する!」


「…………」


「一生懸命、頑張るわ!」


「…………」


切々と訴えても、返事がないディーノへ、

ステファニーは訝し気な視線を投げる。


「何、黙ってんのよ、ディーノ! ……ちょっと顔が赤いわよ。かがり火の反射のせい?」


「いやあ……実は今ギャップ萌えを……」


「はあ!? 何よ! ギャップ萌えって!」


「ええ、ステファニー様から、俺の為に努力するとか頑張るとか、絶対にありえない話を聞いて……ほんの少しだけですけど、ときめきました」


「う、嘘!!!」


「ホントっす! スプーンの先ぐらい、ごくごく微量びりょうなんですけど、確かに、ときめきました」


「何よ! スプーンの先ぐらい、ごくごく微量って!」


「はい、言葉通りでっす」


「ごらあっっ!!! ディーノぉぉぉ!!! ふざけるなあっ!!! スプーンの先なんてせこい事、言うなあ! ときめきをワイン大樽一杯くらい! 大増量しろ~っ!!!」


普段は超が付くくらい静かなポミエ村の夜……

その静寂を簡単に打ち消すくらいの大音量。

ステファニーの大声が、物見やぐら付近にとどろいていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る