第109話「ステファニーの本音②」

村の、北、南の両門では、赤々とかがり火が焚かれている。


ゴブリンが火を怖れるのは勿論だが、

闇に乗じて村内へ侵入されないよう、村民達が見張る為だ。


南門の物見やぐらに、昼間はずっと、門番役の村民ロドリグが詰めていた。

しかし、夜間はさすがに交代制で別の村民を見張りに立てている。


今夜は村民に代わり……

ステファニーの命令で、

クラン鋼鉄の処女団アイアンメイデンのメンバーが代役を務める事と相成った。


そして一番手がディーノとステファニーのカップル……否、ふたりなのだ。


物見やぐらを登り切ったディーノとステファニーは周囲をじっくりと見回した。


だが、怪しい影は見当たらず、邪悪な波動も感じなかった。

安堵したディーノは小さく息を吐いた。


「今のところ、異常なし……みたいですね」


「ふん! そうね」


「……ところで、俺へ大事な話って何ですか?」


索敵の魔力感知も反応なし。

ケルベロス達からの報告もない。

 

敵襲の気配がないので……

ディーノは、とりあえず気になっていた事を尋ねてみた。

まあ、大体予想はつくが……


案の定……ステファニーは、きっぱりと言い放つ。


「そんなの、決まってるじゃない、私とあんたの結婚話よ」


「いや、それは……もうお断りしましたけど」


何度も断っているじゃないですか、

と、ディーノは抗議ししようとしたが。


「シャラップ! 黙って! まずは私の話を聞きなさいよ!」


と、まるで行く手をふさがれるように、先手を打たれた。


でもと、ディーノは思う。

 

一方通行的に言い放つのみのステファニーが?

話をするから、聞け?


どうやら特別な『理由わけ』がありそうだ。


「分かりました。では、お聞きしましょう」


思い直し、了解したディーノは……

再び周囲を見回し、襲撃者が居ない事を確かめると……


改めて、ステファニーの話を聞く態勢に入った。


とりあえず口をはさまず、ステファニーの話を最後まで聞く事に決めた。


「ディーノ、今回王都に来たのは、目的がふたつあるのよ」


「…………」


「まず! ひとつめは、あんたとの結婚話を確定させ、フォルスへ連れ戻す事」


「…………」


「しばらく会わないうちに、あんたは変わった。別人みたいに変わった」


「…………」


「いや、覚醒したっていう方がぴったりね」


「…………」


「今のあんたは凄いわ。これ本当に私の本音」


「…………」


「私の直感は当たった! あんたの戦いぶりを見て確信したの」


「…………」


「ディーノ、あんたは……やっぱり私が好きになり、且つ見込んだ通りの男だったのよ」


「…………」


「もう一度言う。今のあんたは覚醒した、以前とは全く違う!」


「…………」


「そして多分……のびしろがたっぷりの発展途上! もっと、も~っと強くなる! まだまだ私が知らない、たくさんの引き出しを持っていると思うわっ!」


「…………」


「予感が確信に変わったわ! ディーノ、あんたは相当な大器……この私ステファニー・ルサージュの伴侶に相応しい男なんだわ!」


「…………」


「あんたなら、喜んでこの心をささげる。いや! もう心は既にささげているから、この身体も喜んでささげてあげる!」


「…………」


「あんたに愛されたら、私は身も心もとろけてしまう! そしていずれ、あんたとの愛の結晶……子供が出来るわ!」


「…………」


「あんたの子供なら……何人でも、喜んで生んであげる!」


ステファニーは、きっぱりと言い切った。


「…………」


「そして、大切に! 慈しみ! 育ててあげる! この私が、可愛い子のママになる、良妻賢母になると思うと楽しみで仕方がないわっ!」


夢見るステファニーの瞳には星がいっぱい、またたいていた。


良妻賢母?

ディーノは大いに突っ込みたかった。

だが、確実にグーパンがさく裂するので、やめておく……


「…………」


「もうひとつの目的は……正式にルサージュ家の跡を継ぐ為、王都に居るウチの寄り親、シルヴァン・ベルリオーズ公爵と話をつける事」


補足しよう。


寄り親とは……

貴族社会における派閥のボスである。


そのボスに話を通し、近い未来に、

ステファニーが辺境伯の地位を継承する事前了解を取る。

という事だと、ディーノは理解した。


「…………」


「先日パパと話して了解を貰ったわ。近いうちに私が当主になる! ルサージュ辺境伯家のね!」


「…………」


「でも、私が跡を継ぐのには問題があるの」


「…………」


「問題ってのは、私が女子だって事」


「…………」


「ピオニエ王国は男子の後継者を重んじる。簡単に女子の伯爵を認めないのよ。本当に超が付く馬鹿げた話だけどね」


「…………」


「だから何も根回しせず、単に王家へ後継者申請したら、絶対に『入り婿』を迎えろ! ……という話になるわ」


「…………」


「もしも、入り婿を迎えろ……なんて、話になったら! 私は、この王都かどこかの貴族の次男、三男、会ったこともない男と、無理やり見合いをさせられるわ……シルヴァン・ベルリオーズ公爵の命令でね」


「…………」


「さすがの私も……寄り親のベルリオーズ公爵には逆らえない。貴族っていうのは、典型的なタテ型社会だからね」


「…………」


「でも! どこの馬の骨とも分からない、ドが付くぼんくら貴族を入り婿に迎えるなんてまっぴらごめんなのよ!」


「…………」


「ドが付くぼんくら貴族なんて! 虫唾が走る! そんな奴の妻となって抱かれるなんて、気持ちが悪くて反吐が出るっ!」


「…………」


「でも! あんたなら! ディーノなら私は何の不満もなく結婚出来る! だって大好きなんだもの!」


ステファニーは、自分の気持ちを確認するように、大声で言い切ったのである。

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