第91話「ちょろいわ!」

ディーノが冒険者ギルドで出会った少女オレリアのふるさとポミエ村……

ピオニエ王国王都郊外にある小村、甘くて美味しいりんごの名産地だという。


そのポミエ村が……大量発生した不気味な人喰いゴブリン共の脅威により、

存亡の危機に陥っている。


元々はディーノが冒険者ギルドで出会ったオレリアの窮乏を助ける事を承知し、

受諾した直の依頼ではあったが……

大嵐テンペスト』ことステファニー・ルサージュが率いる新生クラン鋼鉄の処女団アイアンメイデンが強引に参入、共同作戦を取る事と相成った。


改めてオレリアから経緯けいい、現在の状況説明が為され、

確認と共に段取りが組まれて行く。


まず経緯を聞き、憤怒の表情となったのは、ステファニーである。

たった金貨30枚を送って来て、「冒険者を雇え」と命令した件である。


「酷いね、そいつ……王都の伯爵だか何だか知らないけど、貴族の風上にもおけないよ」


「はい、ホント最低です。人間とは思えません、鬼畜です」


オレリアが吐き出すように言えば、ステファニーは鼻を鳴らす。


「ふっ、じゃあ私が貴族として、領主の本音って奴を言おうか、オレリア」


「え? はあ……領主の本音……ですか?」


「そうよ! 気を悪くしないで聞いてよね」


「…………」


「住民に対する領主の本音は、生かさず殺さずなのよ」


「生かさず殺さず……ですか?」


「そう、最低でも税金だけはしっかり徴収。住民なんて最低限、生きてゆける程度の苛酷な状態 に置いておけばOKだと思っているの」


「そ、そんな!」


オレリアが驚くと、ステファニーは、


「ウチのパパも、典型的な生かさず殺さず主義よ。でも……」


「でも?」


「まだ『まし』かな、いくら冷酷なパパでも、さすがに住民を見捨てたりはしない、絶対にね」


「…………」


「でもあんたのとこの伯爵様は違う。未曽有の危機に際して、村民へ渡したのがたった金貨30枚ぽっちなんて!」


「…………」


「完全に弱肉強食主義、弱き者は勝手に死ね、後は知らんって、薄情且つ非道な奴なのよ」


「…………」


「貴族の私もさすがにそいつには腹が立つ、これがオレリア、私があんたを助ける理由のひとつ」


理由のひとつ?

という事は、ステファニーが助ける理由は他にもある?


「ステファニー様、貴女が私を助けてくれるのは、同じ貴族だけど、人としてウチの領主様に腹が立つからですか……」


「ええ、そうよ」


「でも……ひとつって事は、助けて頂く理由がまだ他にあるのですか?」


オレリアに聞かれたステファニーは二ッと笑った。

間を置かず、「びしっ!」とディーノを指さす。


「こいつに決まってるじゃない」


「ディーノに?」


「そうよ! 何度も言ってるけど、私はこいつと結婚するの。助けないでこいつが死んじゃったら結婚出来ないでしょ?」


このままスルーすれば、話がヤバくなりそうだ。

なので、流石にディーノが「待った」をかける。


「いや、俺、ステファニー様とは結婚しませんから」


「あんたの意思は関係ないって言ってるでしょ? それに少しは強くなったみたいだけど、ひ弱なあんたにゴブリン1,000匹はきついわ」


「いや、……何とかなると思います」


「嘘つかないで!」


「いえいえ、嘘じゃないです。依頼を受けるのは俺だけで充分です。ステファニー様こそ危ないからやめといた方が……今ならまだ間に合いますよ」


「私は絶対に大丈夫」


「絶対に大丈夫って?」


「王都へ来る前」


「来る前?」


「あんたが変な手紙を残して行くから、超むかついてオークを思い切りぶっ殺したの。一度に倒した新記録を出したわ」


「新記録?」


「ええ、グーパンで200匹くらい倒したかな」


「グーパンで200匹?」


「奴ら一体あたりの強さをゴブリン一体に換算したら、×5で1,000匹相当になるでしょ? だから楽勝」


「…………」


「ま、一石二鳥というか、ついでにそいつらの皮をフォルスの市場で叩き売り、この王都まで来る旅費にしたのよ」


ステファニーの話を聞いていたディーノは、まじまじと彼女を眺めた。


「…………」


「何よ! 人の顔をじろじろ見て」


「いや、ステファニー様って、某国が敬う女神様みたいだなって」


しかしステファニーはさも嫌そうに首を振った。


「ふん! 嫌よ、そんなわがまま駄女神」


「嫌ですか? 街を守る戦女神で、強さの象徴ですよ」


「だって! その女神は処女神でしょ? 一生男無しなんて、ごめんだわ」


「成る程……」


「まあ、私はあんたが居るから、その駄女神とは違うわ、それに全然わがままじゃないし!」


「いやいや、超が付くわがままですよ。 第一、俺はステファニー様の『男』じゃないですって」


「だ・か・らぁ! あんたの意思は関係ないって言ってるでしょ?」


「いえ、ステファニー様じゃないですけど、自分の意思は貫きます」


「あんたの意思? 全然関係ないわ、私の男はあんたなの!」


「いえいえ、遠慮しときます」


ステファニーの言葉を聞き、首を横に振り、否定しながら……

ディーノは、はたと手を叩く。


「……あ、男と言えば、思い出しました」


「何よ、思い出したって」


「ギルドで、変な貴族の息子にステファニー様の事で絡まれたんで、思う存分勝手にしろって言っときました」


「思う存分勝手にって……あの変態クズ野郎にしょ~もない事言ったの、あんただったのね」


あの貴族の息子……

名前はすっかり忘れてしまったが……

奴はステファニーに対し、早速「アプローチ」したらしい。


「変態クズ野郎?」


「ギルドの登録を終わって、魔導昇降機で1階へ降りたら、そいつがいきなり駆け寄って来て投げキッス」


「はあ? いきなり投げキッス?」


「だから変態クズ野郎よ! それどころかずうずうしく、私の手までがっしと握り、ジュテームなんて気持ち悪い声で叫ぶから、思い切りぶっとばしてやった」


「思い切りぶっとばすって……」


「ちょっと触るのもすっごく嫌だったけど、仕方なかったわ。5発蹴りを入れて、胸ぐらつかんで平手の連続30発くらいであっさり気絶してた。……弱いわね、あいつ!」


弱いって……

ステファニーの言葉を聞き、ディーノは苦笑する。


「いやいや……弱いって、ステファニー様の蹴り5発に平手30連発……普通の奴なら死んじゃいますよ」


「死ぬ? 大袈裟ね。まあ、思い切りって言っても、ちゃんと手加減したから大丈夫、死んでないわ」


「でも……ギルドの警備員が来ませんでした? 大騒ぎになったでしょう?」


「ええ、警備員がすっ飛んで来て、大丈夫ですかって聞かれたから、きゃあ、こいつら痴漢ですぅ、手まで握られて怖かったあって、可愛く言ってやったの」


「…………」


「ロクサーヌも一緒に証言してくれたし、警備員が速攻で通報。衛兵も駆け付けて来て、即座に連行されてったわ、お供の従者と一緒にね」


「…………」


「当然、私は被害者。及び正当防衛だから、全くのお構いなし。あいつらは現行犯で牢屋行き、ふん! ……ちょろいわ!」


ディーノも含め、同席していた誰もが唖然とし、

鼻を鳴らし、吐き捨てるように言うステファニーを……

無言で見つめていたのであった。

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