第85話「冒険者ギルドの大嵐②」

「あら? ディーノ君。そしてロクサーヌじゃない? 久しぶりね……一体どうしたの?」


「ま、まあ……いろいろありまして」


事情を全く把握出来ず、相変わらず首を傾げるブランシュ。

ディーノは苦笑し、頭をかいた。


一方、ステファニーはといえば、全く臆さず、ブランシュへ問う。


「あんたが、マスター? いや、マスターはアールヴ族のはず。じゃなくて、ただの人間だから……違うわね」


一見……可憐な美少女。

しかしひと言でも喋れば……

見た目の清純なイメージとは全く合わないと初めて認識出来る。

 

つまり美少女の皮を被った『ど悪魔キャラ』

恐るべき自称幼馴染、その名はステファニー・ルサージュ。


「え、ええ……私はブランシュ・オリオル。この支部のサブマスターですけど」


少し動揺したブランシュは、何とか名乗ったが……

ステファニーは「全く眼中になし!」という雰囲気で、鼻を鳴らす。


「ふん! たかがサブマスターじゃ、全く話にならないわ。この私を! 今すぐマスターに引き合わせなさい」


ステファニーの言葉を聞き、苦笑したブランシュは、大袈裟に肩をすくめる。


「へぇ、貴女、凄い上から目線と物言いね。でも当ギルドは貴族といえど、理不尽な指示を一切受け付けないし、強引な介入も絶対に許さないの。……知らない?」


「知らないわよ、そんなローカルルールはっ!」


ステファニーは挑発されたと思ったのか、ブランシュに向かって、

いきなり拳を振り上げる。

それも「ぐー」だ。


今のステファニーはいわば、オスを喰い殺す、メスのカマキリ。

戦闘態勢に入って、破壊力抜群な悪魔の鎌をふりかざす。

そんなイメージがピッタリだ。


吠えるステファニーを、嘆息して、眺めていたディーノであったが、

ふと、我に返った。


や、やばいっ!

ぼうっと見ている場合じゃなかった!


カマキリの鎌イコール、悪鬼のグーパン――

ディーノの脳裏に、血まみれになったオークがリフレインし、

ブランシュに重なった。


慌てたディーノはブランシュを守る為、駆け寄ろうとした。

だが、ディーノが駆けよる前に、巨大な拳が伸び、

ステファニーの腕を「がっし!」と掴んだ。


「お願いですから、控えてください、ステファニー様。さすがにサブマスターに暴行するのはまずいです」


そう……

大暴走しかけたステファニーの腕をとっさに取って止めたのは、

彼女に心酔する忠実な従士、ロクサーヌ・バルトであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


約5分が経過した。


ステファニーの凶暴さに圧倒され、複雑な表情のサブマスター、ブランシュへ……

ディーノがいろいろと説明する間、ロクサーヌはず~っとあるじの腕を押さえている。


改めてディーノは語る。


自分とステファニーとの関係……

まあ今や無関係なのだが……

そして彼女が今日ギルドに出向いた理由等も話して行く……


ステファニーはあくまで以前の主。

現在は「全くの無関係」だとディーノが強調した時……

「ぎろり!」と、凄まじい目で、ステファニーはディーノを睨み付けた。


思わずディーノが苦笑したその時……

ステファニーの腕を押さえているロクサーヌが口を開く。


「ブランシュさん、私が推薦人及び身元引受人になりますから、ステファニー様の登録手続きをして頂けませんか? 可能ならばマスターにお願いして……」


「ロクサーヌ……貴女」


「お、お願いします。ステファニー様は大器ですっ! 類稀な才能をお持ちなのですっ! 必ず名のある冒険者になりますからっ! 私が保証致しますっ!」


熱く熱く語るロクサーヌの姿を見て……

サブマスターのブランシュも苦笑した。


傍若無人。

傲岸不遜。

我が道を行く。

ふたつ名は『荒れ狂う猛獣』


そんな言葉を体現したようなランクAの超一流冒険者ロクサーヌが……

ここまで他人をすなど、全く異例の事なのだ。


「お願いします、サブマスター! 私ロクサーヌが荒れ狂う猛獣なら、ステファニー様はその名を遥かに上回る、『天をも揺るがす大嵐』……すなわち『テンペスト』とお呼び出来る方なのです!」


「ふうう、分かったわ……ランクAの貴女がそこまで言うのなら……マスターにお願いしてみる」


ブランシュは大きなため息を吐いた。

根負けした様子である。

ロクサーヌが絶賛する『大器』の才能を見てみたいと思ったのかもしれない。


遂に……

ロクサーヌの願いが通じた。

彼女が惚れ込んだ『大器』ステファニー・ルサージュの冒険者デビューが、

大きく大きく前進したのである。

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