第39話「山賊退治⑤」
ディーノには分かった。
いつも
少し不器用なだけである。
当初の予定通り、オルトロスに荷馬車及び確保した山賊共と馬の管理を任せ、
ディーノはケルベロスと共に再び出発した。
山賊どもは今も気絶していた。
多分夕方までは目が覚めないというケルベロスの見立てではある。
しかし万が一山賊どもが目覚め逃げようとしたら……
オルトロスは本体のひとつ手前、第3形態まで姿を変え、威嚇し足止めする事になっていた。
さてさて!
ディーノ達が目指すのは……
首領バスチアンが潜む山賊のアジトである。
気絶した山賊の数人から、ディーノが読心魔法を使って探り出したのである。
ディーノは師ロランから伝授された読心魔法が気絶したり、意識不明の人間にも行使出来る事を初めて知った。
もう少し時間があれば、ロランがいろいろ教えてくれたに違いない。
でもディーノに不満は全くなかった。
あの不思議な異界でロランがディーノと話せる時間は限られていた。
だが出来る限り、自分の持てる力を託してくれた。
頑張れと励ましてもくれた。
ロランは少しでも早く天へ、家族の下へも帰りたかったはずである。
そう、彼はあの時、全力を尽くしてくれたのだ。
今頃は家族と一緒に、幸せに暮らしながら、
自分を見守ってくれていればそれで良い。
ディーノはそう思った。
閑話休題。
バスチアンが居る山賊のアジトは、奥深い森の目立たぬ場所に打ち捨てられた、
ヴァレンタイン王国の
ディーノとケルベロスは索敵をかけながら、注意深く進んで行く。
幸い砦の周囲に斥候や猟兵は出されてはいなかった。
ふたりは気付かれないよう出来る限り接近し、
繁みに身を隠しながら遠目でうかがうと……
意外にも大きな砦の全貌が視界に飛び込んで来た。
この砦は元々石造りであった。
だが、諸事情で放棄され大半が崩れてしまっている。
そこに無宿無頼の山賊どもが入り込み、近隣の森などから木を伐りだして材木として加工。
補修し、アジトとして使っていた。
そして時たま、街道付近に出没して、先ほどディーノが体験したように旅人を襲っていたのである。
改めて見やれば、砦には遠くまで見渡せる大きな監視塔があった。
ぬっと突き出たこの監視塔には3、4人の山賊達が陣取り、辺りを警戒しているのが確認出来た。
情報が違っている。
まずディーノは聞いていた話とは違う事実に戸惑った。
総勢30人くらいと聞いていた山賊の人数である。
既に10人は戦闘不能にし、確保した。
となれば、残りは20人前後のはず。
しかし、砦には少なくとも100人以上が詰めているようであった。
視認ではっきり分かるのと同時に、波動も存在を気配として伝えて来る。
さてどう攻めよう……
ディーノは早速思案へ入った。
……しかしディーノはまだまだ戦いに慣れていなかった。
確かにステファニーにはいいように『おもちゃ』にされてはいた。
だが実戦経験が殆どなく、作戦も上手く立てられない。
このような時は『戦友』だけでなく『軍師』としてもケルベロスが頼りだ。
ディーノが丁重にケルベロスへ頼み込む。
『ケルベロス、いや戦友、ぜひお願いしたい。ここでもアドバイスをして貰えないだろうか?』
『ふむ、了解だ、戦友。そうだな……ピンポイント作戦を検討し、お前が納得且つ了解したら、実行するとしよう』
『え? ピンポイント作戦?』
『ああ、こちらには戦力がない。というか、俺とお前、たったふたりだけだ。それ故、最も効果的な敵の
『雑魚には目もくれずに最も効果的な敵の要を攻める……そうか、バスチアンの事だな』
『ああ、奴らをひとりひとり倒して行ったら手間も時間もかかるし、効率が悪過ぎる。バスチアンひとりを倒すか、捕えさえすれば、奴らは
『そう、上手く行くかな、首領のバスチアンには
『いや必ず上手く行く! お前が考えた、荷馬車を囮にするのとほぼ同じ作戦だ』
『荷馬車と? ほぼ同じ作戦?』
『ああ、今回の作戦は俺ケルベロスが囮になる。しかしただの囮ではない、お前に見せた第3形態となり、砦へ正面から殴り込みをかける、大声で吠えながら、山火事にならぬよう空へ向けて派手にどかんと炎も吐く』
『おお、成る程』
『サイズは若干小さくとも、上級魔族たる俺の姿を見せるだけで奴らは怯えるはずだ』
『そ、そうか!』
『そこへ俺が火炎を吐いて少しだけ本気で咆哮すれば、殆どの者が行動不能となり、動ける者も恐怖に囚われ逃げ出すだろうよ』
『おお、成る程! イメージ湧いて来た!』
『ふふ、ようやく気付いたようだな。首領として意地を張り、バスチアンが砦に残る選択をしたとしても、配下だけは逃げる』
『だな! 確かに!』
『ふむ、当然、護衛も守りも著しく手薄となる。俺は頃合いを見て、普通の犬の姿となってお前の下へ戻り合流、ふたりで一気に奴を捕える』
『じゃあ、もしもバスチアンが配下と一緒に逃げ出したら?』
『はは、逃げたならば尚更都合が良い。恐怖に怯えながら奴が逃げる混乱の最中、しっかり捕える。付き従う配下など少ないだろうから大楽勝だ』
『という事は、俺の役目ってバスチアンの動向をしっかり見張り、動いたら絶対見失わないよう追跡する事だな?』
『その通りだ。その追跡を悟られてもいかん。念の為聞く。砦の場所を確認した際、さっき襲撃して来た奴らの記憶にあったバスチアンの顔、もしや忘れてはいないだろうな?』
『忘れてはいないさ、でも……』
『ん? でも?』
『うん! 大暴れするケルベロスの存在自体が目立ち過ぎて、事情聴取をした衛兵から変に突っ込まれないかな?』
『ふっ、そんな心配はするな。とことん
『そうか!』
『この前、派手に冒険者をぶっ飛ばしただろう? だから衛兵もお前の力を認め、疑うまい』
『そうかなぁ……』
しかしケルベロスは、ディーノの懸念など完全にスルーした。
『奴らが逃げた理由は……そうだな……怒りに燃えたディーノに対する恐怖のあまり、小便でも漏らしながら、幻か白昼夢でも見たのではないか? そう言っておけ。ふふふふふ……』
『りょ、了解!』
『せっかくだ。ついでに砦の探索もしよう。もしかしたらお宝がたんまり眠っているやもしれん』
『重ねて了解! いつもナイスアドバイス、ありがとう戦友!』
『ふふ、お安い御用だ』
いろいろあったが……
戦友ケルベロスとの距離は確実に縮まっている。
そうディーノは思う。
また冒険者として、自分が確実に成長している事も感じる。
更に!
心強い新たな仲間・オルトロスも加わった。
よし!
絶対に、このデビュー戦を成功させる!
ディーノは改めて気合を入れ直し、じっと砦を見つめたのである。
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